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26日の月  作者: 川島利宇
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奈緒 1

奈緒


 あれから四年もたつというのに、私は何度この病室に来たことだろう。


 四年前のあの日、私は市販の睡眠薬を大量に飲み、バスタブにつかって左の手首を切った。


 手首から出る鮮血がバスタブの湯に、まるで工場の煙突から勢いよく出る煙のように混ざっていくのを見て、私は綺麗だと思った。


 バスタブ全体の湯がフェノールフタレインのように赤く透明に色づいていくのを見て、私はそれを手ですくっては滴らせた。


 そして、目が覚めたら、私はこの病室にいた。


 咲ちゃんに見つけられて生き延びてしまったのだ。


 その後、鬱と診断された私は、病院でもらう薬を、まるでリスのように少しずつ貯め込み、一気にそれを飲んで死のうとしたが、なぜかそれも失敗してしまった。


 それどころか、その時は、あまりにもひどい頭痛と吐き気に耐えきれなくて自分で救急車を呼んだ。


 死のうと思っている人間が苦しさに負けて救急車を呼ぶなんて、後になって考えればおかしな話だと思ったけれど、その時はそんなことを考えている余裕などなかった。


 最初の頃には死にたい理由がちゃんとあったのに、いつの間にかそれはどこかに消え失せていて、それからの私の頭の中には、もうただ死にたいという願望しかなくなっていた。


 何を見ても、例えば部屋に置いてある観葉植物を見ても、


「これはこれなりにこうしてここで精一杯人の目を楽しませているのに、私は何も世の中の役に立っていない。こんな役立たずの人間はせめて早く死ななければ」


 と思ってしまう。


 全てが自分の死によってしか解決できないことのように思われ、自分はこの世に存在すべきではない、消えて無くなりたいとばかり思うようになった。


 こうして入院しているときは比較的落ち着いているのだが、退院すればすぐにまたもとの気持ちに戻るだろう。


 そもそも私はこの世に生まれてくる必要などなかったのだ。


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