第一話:話始め
「おじいちゃんの昔話」
三年四組 逆蕗 カイト
ぼくは夏休みにおじいちゃんの家へ行きました。
おじいちゃんの家に行くと、ぼくは必ずすることがあります。
それは、おじいちゃんの昔話を聞くことです。
おばあちゃんとママは
「外であそんで来なさい」
っていうけれど、ぼくはそれよりおじいちゃんの話が聞きたかったのです。
おじいちゃんは言いました。
「カイト、今日はどんな話が聞きたいんだ?」
「おじいちゃんがぼく位だった時の話がいいな」
ぼくはそう答えました。
おじいちゃんはにっこりと笑って、こう話し始めました。
「おじいちゃんの名前がカツヤだって言ったね?」
「うん、かっちゃんって言われてたんでしょ?」
「そう。おじいちゃんは地元じゃ有名なガキ大将だったんだ。村の子供たちをまとめるリーダーみたいなものだな。ある日、その小さな村に引っ越してくる家族が一つあった――」
名字は「高岸」、子供は二人、小学二年生の双子で名前は「あい」と「けい」。
女と男と一人ずつなのに、顔がそっくりで、初めて会ったときは「ガキ大将」のおじいちゃんもびっくりしたらしいです。
でも二人ともすぐに村になじんで、おじいちゃんがまとめる子供会にも参加するようになってから、ちょっとたったころ……。
その事件は起こってしまいました。
「おい!! やっぱり見つからないか?」いつものように遊んでいた帰り、おじいちゃんは大人たちがばかにあわただしくしているのを見て、声をかけずにはいられなかった。
「おい、どうしたっていうんだよ」
「かっちゃんも見てないか? 今日ずっと愛と慶が帰って来ないって高岸夫婦が騒いでいてな……」
「いや今日は見てないけど……ってまさか!!」
「どうした!?」
おじいちゃんは前の日、高岸双子に村の伝承を話すようせがまれて村のおきてでもある「子供之國」の話をしたのでした。
「ねぇおじいちゃん」
ぼくがそこまで話したおじいちゃんに声をかけました。
「なんだいカイト?」
「「子供之國」の話してよ」
これから先の話がわかるためには、「子供之國」を知っておく必要があると思ったからです。
でもおじいちゃんは首をふって、
「続きを聞けばわかる」
と言うとそのまま話をつづけました。
大人たちはおじいちゃんの話を聞いて、顔を青くしました。
「子供之國」というのは村のおきてで、絶対に入ることが禁じられている区域だからのことだからです。
村の子供たちは、物心がついてくると親から自然と「子供之國」の話を聞かされ、これは村のおきてだから、と口をすっぱくして言われるそうです。
だから、おじいちゃんも高岸双子に話しておいた方がいいと思った、と大人たちにせつめいしました。
たしかに正しいことです。
わるいことをしているのは、おじいちゃんの話を聞いたのに、「子供之國」へ行ってしまった高岸双子だと思います。
ぼくはおじいちゃんにそう言いました。
おじいちゃんはぼくに笑って頭をなで、
「カイトは正しいよ」
と言ってくれました。
でも、高岸双子は多分行ってしまって、今そう言ってもなんにもならないのです。
「子供之國」は一回入ったら帰って来れないと言われています。
大人たちは高岸夫婦といっしょにどうするか、村の集会所に集まって話し始めました。
同じとき、集会所のうらでは子供会のメンバーがおじいちゃんを中心に、話し合っていたそうです。
「どうする?」
おじいちゃんがみんなの顔をぐるっと見回して言いました。
するとあちこちからばらばらの意見。
「助けに行こう」という人たちと、「大人にまかせよう」という人たちとに大きく分かれました。
おじいちゃんはなやみました。
まとめることはできない、そうはんだんしたおじいちゃんは、けつろんを言いました。
「オレはだれに何と言われようと、助けに行く。助けたい奴はオレと一緒に来い」
すると、おじいちゃんの一番の友だちのアツシという人が、
「かっちゃん、よく考えてもみろよ。確かに愛と慶は俺たちとも連んでいたさ……でも所詮アイツ等はよそ者。俺たちが大切だと思ったら掟だって言ったはずの「子供之國」に行くかよ……。放っておこうぜ、自業自得だ」
と言いすてたのです。
下級生はまよいました。
たしかにアツシの言うこともわかる、とアツシ派についた人が多く、結局おじいちゃん派は三人しかいなかったのです。
でもおじいちゃんはむしろ、三人ものこったことにおどろいたそうです。
一人でも行こうと思っていたから、なかまがいることはおじいちゃんの支えになったと、ぼくは思います。
その三人は子供会の
おせっかいなサクラ、
まじめなナオキ、
大人しげなマユコ
だった。
おじいちゃんはまず三人に理由を聞いた。
サクラが
「単純に双子を助けたいからよ」、
ナオキは
「ぼくも転校生の身だ。彼らほど行動力はなかったけど、自分にも起こり得たことだしね」、
マユコは
「私、双子ちゃんには仲良くしてもらってたんです。あの子たちが困っているのに、だまって見過ごす訳にはいきません」
とそれぞれはっきり理由がわかった所で、おじいちゃんは三人に作戦を話した。
話し終わって解散しても、大人は話を続けていたらしい。
作戦当日――。
じゅんびに手間取ったおじいちゃんは走っていました。
道のとちゅうで何者かがおじいちゃんのじゃまをします。
「……行くのか、かっちゃん」
アツシでした。
おじいちゃんはいやな顔もせずにただ、
「あぁ」
とつぶやいただけ。
でも本当はそれ以上深い会話をしているんだな、とぼくは感じました。
「分かったよ、だからもう睨むなって。かっちゃんは昔から子供会のヒーローだからな」
頭をかきながら、アツシは言いました。
おじいちゃんは何も言えなくて、ただ立ちつくしています。
「お前に、かかっているんだ」
急にアツシはまじめな顔をして、おじいちゃんと向かい合いました。
「分かってる。だけどなアツシ……俺の我が儘を一つだけ聞いてくれないか?」
「なんだ?」
「子供会を……頼む」
それは強いかくごをした、男の顔でした。
今はしわくちゃだけど、小学生が言ったら絵になる。そんな表情でした。
アツシはそれに何か言いかけたようだけど、おじいちゃんはもう気にしないでそのままつき進みました。
場所につくと三人はもういて、おじいちゃんが来たことにホッとしているような、そんな感じでした。
「遅くなって悪かった……じゃあ行くぞ」
三人はうなずきました。




