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完璧令嬢はなぜ選ばれなかったのか ~王妃に論破されて婚約者候補から外された理由を思い知る

作者: 紡里
掲載日:2026/03/24

「どうしてわたくしが王太子の婚約者ではないのですか?」

 ゴージャスな金髪を揺らして、侯爵令嬢が王妃の休憩時間に押しかけてきた。


 王宮の政務エリアではなく、私的空間である。

 護衛と侍女が警戒態勢に入った。

 彼女の父親は宮内卿――つまり宮廷運営のトップであり、このような無作法が発生しないように、目を光らせるのも仕事のうちのはず。


 王妃は片手を挙げて、護衛に待機を命じた。

「そういうところです。

 自分は正しいのに、間違っていないのに――と、堂々と言ってしまえるところが、いずれ王妃になる資格がないと見なされたのです」


「わたくしは勉強も、マナーも完璧です。婚約者選別の試験も、トップで通過しましたわ」

 憤りを見せながら、王妃の前で腕を組んだ。

 おかしな動きをしたら切り捨てられるよう、護衛は剣の柄に手をかけた。


「それは最低限のレベルをクリアしているかを調べるための、一次試験の話でしょう」

 王妃は呆れた様子で、紅茶を一口飲んだ。招かれざる侯爵令嬢には、着座も勧めない。


「試験結果を振りかざし、相手がひれ伏せば、どんなことでも思いのままになるとでも考えているのですか?

 成績が良ければいいというのは、学園生活くらいでしょう。

 成績優秀な平民の特待生が王妃になれないのと同じだと、理解できませんか」

 微笑みながら、「お前は平民以下なの?」と匂わせた。


「引くときには引いて相手を立て、屈辱を感じながらも必要なら微笑んで出された泥水を啜る。

 あなたにそれができますか?」

 王妃はティーカップを優雅にソーサーに戻した。


 侯爵令嬢は屈辱に震えて答えられない。それが「答え」である。


 だが、詫びたり退出したりする気配がないので、質問を変えた。

「二次試験の、貴族学園に入学予定の子どもたちを招いたお茶会でトラブルが発生したのを覚えていますか」


「当然です。他の令嬢たちの不手際でした」

 我が意を得たりとばかりに、侯爵令嬢は断言した。


「一刻も早く対処が必要なときに、あなたは『自分のせいではない』と主張していましたね。

 誰が原因かなど、後で再発防止を考える際の話です。

 目の前の子どもたちを落ち着かせ、お茶会を中断するか継続するかの判断が必要でした。

 それを理解できていないと、自らアピールしたのも同然なのですよ」


 王妃は哀れみの目で侯爵令嬢を見つめ、侯爵令嬢は顔を赤くした。


「個人芸を競う競技会ではないのです。

 以後は努めて他の候補者たちの良さを感じ取れるようになってください。

 王太子妃ではなくとも、嫁ぎ先で家政を取り仕切ることになるでしょう。あなたもこの国の大切な一員ということには変わりありません」


 それは、侯爵令嬢が望んだ答えではなかった。

 特別な人として尊重されたいのだ。その他大勢の一人など、冗談ではない。


 侯爵令嬢の表情を見て、王妃は厳しいことを言おうと決めた。


「あなたの最大の欠点は、傲慢で人を不愉快にさせるところです。

 わたくしのことも、内心、蔑んでいるのが透けて見えていますよ。

 ええ、学園で首席を取ったことはありません。

 連続首席のあなたの努力は素晴らしいと思います」


 侯爵令嬢はおかしな顔になった。

 自慢にしていることを認められて嬉しいが、下に見ていることがバレたのはよろしくない。喜びと焦り――どうにかして、取り繕わなければならない。

 だが、どうすればいいのか、もうわからないのだ。


「ですが、常に人に優劣をつけて、その上に立とうとするのはいただけません。

 そんな人間を王太子妃として他国の王族の前に出せるわけがないでしょう。

 マナーがなっていないだの、地位が低いだの難癖をつけて、自分がいかに優れているかを誇示するような人間を――」


 候補者のための講義で「相手を尊重する」ことの大切さは学んでいる。

 だが、それを知識として持っているだけで、実践できていない――だから、選ばれなかった。


「何が大切かを見極める目をお持ちなさい。

 あなたの能力を活かせる場所は、きっとありますわ。

 それが王太子の隣ではなかったというだけですもの」

 王妃は、聞き分けのない子どもを諭すように、そう言った。


 普段、同じ年頃の令嬢たちにまくし立てているようにはいかない。

 反論できなくなって、侯爵令嬢は唇を噛んだ。



 その時、父親の侯爵が近衛兵に連れられて登場した。

 王妃の顔がすっと厳しいものに変わる。ティーカップをソーサーごとローテーブルに置いた。


「お前、どのような権限で候補者から外れた者を王族のプライベートエリアに入れた」

 王妃の口調が変わり、目つきも鋭くなった。


「わ、わたくしはそのような、ことは……」

 しどろもどろになる、侯爵。これでは娘の独断か、父親がそそのかしたのか判断できない。


「では、なぜこの者がここにいるのだ? お前が連れて来たのであろう」


「それは、そうでございますが」

 不満げな顔だ。

 数代前に王家の者がいるというだけで、王族のつもりでいるのか――という疑いが出てくる。


「つまり、不審者の手引きをしたことを認めるのだな?」


 護衛と侍女の顔が険しくなる。


「ひどい。王妃陛下。わたくしは納得できないことを訴えに来ただけです」

 不審者と言われた侯爵令嬢が、話に割り込んだ。


「王族が提案し、元老院も認めた決定に不服を申し立てている。

 これがどれほどの不敬か、理解できない愚か者のようだぞ」


「は、申し訳ございません。なにぶん、若い娘の恋の暴走で……」

 軽く頭を下げているが、「鷹揚に認めろ」と言っているに等しい。


「恋の赴くまま……とな?

 街の花売りの娘なら許されようが、貴族令嬢としてはあるまじき行いだ。そう思わんか?

 それとも、侯爵も娘と同意見なのだろうか。それは困ったなぁ」

 王妃は顎を上げ、嘲るような表情を浮かべた。


「これから教育し直しますので、なにとぞご容赦ください」

 侯爵はへらりと、いやらしく笑う。

 この父親からして、王妃を軽んじているようだ。

 華やかな装いが似合わず、また、人の輪の中心になるのも好まない。まあ、地味な女であることは否定しない。

 だからといって、大人しく控えめな性格とは限らないのだが。


 そして、花売りの隠語を察知できないのでは、宮廷人に向いていない。


「なるほど。なにが問題なのか、そちも理解できていないようだ」

 王妃は眉を寄せて、思案するポーズを取った。


 芝居がかった仕草で、いい案を思いついたと手を叩く。


「侯爵家に家庭教師を派遣するゆえ、親子共々指導を受けるがよい。

 先々代が王族だったというだけの、新興侯爵家だ。

 王位継承権を持つ大公家でも公爵家でもないのだから、身の程を知らねばなぁ。

 家庭教師から合格を勝ち取るまで、登城禁止というのはどうか?

 ――妾の独断ではいけぬゆえ、元老院に諮ろうか?」


 王妃は口元だけで笑う。


「い、いえ。自主的に従いますので、内々のご指導という形にしていただきたく」

 侯爵は床に手をついて、懇願した。

 公に咎められ、記録に残ることは避けたいようだ。


「お父様?」

 侯爵令嬢が悲鳴のような声をあげて、侯爵にすがりついた。

 床に豪華なドレスの裾が広がる。流行のものをすべて盛り込んだ、装飾過多なドレスだった。


「そうか? 自主的というのはよいな。すでに反省の一端が見えるようだ」

 侯爵が反省という言葉を知っているか怪しいと思いながらも、追い詰めすぎてはいけないと自重する。

 ティーカップの縁を指でなぞり、王妃は呼吸を整えた。



「その娘が陥れようとした候補者の一人は、人望があった。

 家門ごと処分しろと主張する者がいたが、しっかり調査してほしいと反対する署名が集まっていたな。

 その方らにも、そんな署名が集まるといいな?」

 この侯爵令嬢がライバルを蹴落とそうとして画策したことを王妃は知っている。

 自ら表に立たない小賢しさはあるが、取り巻きを手駒として使うという杜撰さで笑ってしまう。



 大した功績もなく、血筋だけでのさばっていた侯爵。近いうちに宮内卿を辞任し、大人しくなるだろう。

 正式に決まった王太子の婚約者を、陰ながら守っていかねばならない。次世代の育成、それも王妃の仕事だと思うから。


追記、修正(2026年3月25日)

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― 新着の感想 ―
宮中を差配する宮内卿は、王族の血を引く己が、嫁いできた王妃よりも上だと錯覚していたのでしょうか。 普段から侮っていなければ、娘が王妃の私的空間に侵入して直訴するなどと言う、不敬極まりない事態が起きる筈…
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