第一部(完):第3章終話:第36話:蒼龍くんと「清風」の夜明け
「もう、これ以上は耐えられない」 「どうして自分だけがこんなに苦しいのか」
嵐のような試練の中にいるとき、私たちはその先にある静寂を信じられなくなります。 しかし、激しい雨が大地を洗うように、苦しみ抜いた先にしか吹かない「風」があるのです。
蒼龍くん物語、第一部完結。 すべてを出し切り、執着を手放した蒼龍くんが物語の果てに見つけた「清風」の正体に迫ります。
光と闇が溶け合った後、蒼龍くんがゆっくりと目を開けると、そこにはもう黒龍城の禍々しい姿はありませんでした。 崩れ落ちた瓦礫の隙間から、これまで厚い雲に遮られていた朝日が、優しく差し込んでいます。
隣を見ると、そこには穏やかな姿に戻った黒龍が静かに横たわっていました。彼は空を見上げ、深く、長いため息をひとつ。
「……風が、吹いているな」
それは、すべてを洗い流すような、どこまでも澄み切った風でした。
「『清風』。……お師匠さまが言っていた通りだ。どんなに激しい嵐が過ぎ去った後でも、執着を捨て去れば、そこにはただ清らかな風が吹き抜けるだけなんだね」
蒼龍くんはそよ風に吹かれながら、これまでの戦いを静かに振り返りました。
お山での修行、旅先での出会い、敗北の悔しさ、そして海底で見つけた自分自身の宝。
そのすべてが、今のこの清々しい瞬間を味わうために必要な道のりだったのだと、深く実感します。
「黒龍、君もこれからどこへでも行ける。この風と一緒だね。」
黒龍はどこか思いつめたように小さく頷き、最後の力を振り絞るように、その場に体を起こしました。
蒼龍くんは、いつか失くしてしまった「初心」のノートを心の中で広げました。長い旅を通して大きな試練を乗り越え、彼の中には「精神」と「実践」が融合し始める、新たな兆しが芽生えています。
「さあ、帰ろう。そして、また新しい旅を始めよう」清風を背に受けて歩き出す蒼龍くんの背中は、一回りも二回りも大きく見えるのでした。
第1部 完。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「清風」とは、激しい嵐がすべてを洗い流し、私たちが抱えていた執着を手放したあとに、ようやく吹き抜ける清らかな風のことです。
魔王・黒龍を「救う」という過酷な道を選び、すべてを出し切った蒼龍くん。その背中に吹く風は、第一部という長い旅を乗り越えた彼への、何よりの報いだったのかもしれません。
第一部はここで完結ですが、物語はここから、さらに深い源流へと遡ります。
次回より、若き日の玄龍さまと黒龍の因縁を描くエピソード・ゼロ。
「十龍図」。
蒼龍くんとの出会いや、なぜ守護神は魔王となったのか。語られざる「約束」の物語が始まります。
新シリーズ「十龍図」は、再来週の5月12日(火曜日)より連載を開始いたします。以降、毎週火曜日と金曜日の夜にお会いしましょう。
合掌




