第29話:焦りこそ最大の敵。蒼龍くんと「一休」の静寂
大きな仕事や、人生を左右するような勝負事を前にしたとき、私たちはつい焦って「早く、早く」と自分を追い込んでしまいがちです。
しかし、そんな時こそ必要なのは、一歩引いて自分を客観視する「ゆとり」かもしれません。 魔王城を目前にした蒼龍くんが選んだのは、剣を構えることではなく、お茶を淹れることでした。
北の果て、空を突くような黒龍城の威容がついにその姿を現しました。 城の周囲からは禍々しい闇の気が放たれ、大地は震えています。 今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる蒼龍くん。しかし、彼は城門の手前にある枯れた林の中で、あえて足を止めました。
「ここで一度、腰を据えよう」 蒼龍くんは、温かいお茶を淹れ、『一休』することにしました。
「ふぅ……」 お茶の香りが鼻を抜け、温かさが喉を通るたびに、昂ぶっていた神経がしなやかに解けていきます。 三鱗龍との激闘、そして黒龍の悲しい過去を知ったことで、彼の心はいつの間にかパンパンに張り詰めていたのです。
(焦って飛び込めば、黒龍の闇に呑まれてしまう。玄龍さまはいつも仰っていた。「大事の前こそ、一呼吸おいて自分を空っぽにしなさい」と)
この「一休」は、ただの休憩ではありません。 これから始まる未曾有の戦いを前に、心の中に「余白」を作るための大切な儀式でした。 お茶を啜り、静かに目を閉じて風の音を聴く。そうすることで、自分の中心にある「直心」を再確認したのです。
体温が落ち着き、指先の震えが止まった時、蒼龍くんの瞳には先ほどまでの焦燥感はなく、深く静かな決意だけが宿っていました。 「よし。身も心も整った。……行こう!」
最後の一口を飲み干し、蒼龍くんは立ち上がりました。 一休みして万全の態勢となった彼は、迷うことなく魔王の領域へと最初の一歩を踏み出しました。
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大きな勝負を前にすると、私たちはつい「早く、早く」と焦ってしまいます。
そんなとき、玄龍さまの教えである「一休」が力を発揮します。
焦りでパンパンになった心に「余白」を作る一杯のお茶。
自分を空っぽにして初めて、本当の勇気が湧いてくるのです。
しかし、この温かなお茶の香りを、一瞬でかき消す冷気が迫っています。
整えたばかりの静寂を、魔王城という巨大な現実が粉々に砕こうとしています。
暖かな一杯のお茶で、この絶望を押し返せるのか。
次回、突入!息つく暇もない魔王の恐怖が蒼龍くんを襲います。
合掌




