第28話:救いの眼差し。蒼龍くんと「慈眼」の誓い
相手を「敵」だと思って見れば、相手の欠点ばかりが目につきます。 しかし、相手を「傷ついた存在」として見ることができれば、そこにはまた違った真実が見えてきます。
圧倒的な闇を纏う魔王・黒龍。 彼を力でねじ伏せるのではなく、その心の奥底に眠る「優しさ」をもう一度呼び覚ますために。 蒼龍くんは、お師匠さまから授かった究極の眼差しを開こうとします。
黒龍の居城が近づくにつれ、空気は刃物のように冷たく尖っていきます。 蒼龍くんは、先ほど思い出した黒龍の悲劇的な過去が頭から離れませんでした。
(裏切られ、傷つき、力に逃げるしかなかった黒龍……。今の彼には、世界はどう見えているんだろう)
ふと、蒼龍くんは玄龍さまから教わった『慈眼』という言葉を思い出しました。
「蒼龍よ。慈しみの眼差しで世の中を看れば、たとえ泥沼の中でも、救いを待つ命の輝きを見つけることができる。それが慈眼視衆生、すべての命を我が子のように愛しむ心じゃ」
玄龍さまのおとぎ話では、かつての黒龍の眼差しは、今の冷徹な魔王のそれとは全く違っていたといいます。そこには、生きとし生けるものの痛みを受け止め、包み込むような深い優しさがありました。村の長老たちも、かつての守護神が湛えていた、あの春の陽だまりのような瞳を今も懐かしんでいました。
しかし、今の黒龍の瞳からその光は消え、代わりに「拒絶」と「不信」の闇が居座っています。かつての慈悲深い眼差しは、誰からも傷つけられないための「監視」の眼へと変わってしまったのです。
「慈眼……。お師匠さま、僕にその眼が持てるでしょうか。自分を殺そうとした相手さえも許さなければならない、本当の慈しみの眼差しが……」
蒼龍くんは、自分の未熟さを噛み締めながらも、心に決めました。
「黒龍を力でねじ伏せるんじゃない。彼が捨ててしまった、その『慈眼』をもう一度取り戻させるために、僕は行くんだ」
北の空に浮かぶ暗雲の隙間に、一瞬だけ、かつての黒龍の瞳のような穏やかな月光が差し込みました。それは、これから始まる決戦が、単なる憎しみの連鎖や、命の奪い合いではないことを示唆しているようでした。
後書き
「慈眼」とは、相手の「敵」というラベルを剥ぎ取り、その奥にある「痛み」をありのままに看る、峻烈な覚悟の眼です。
憎しみのフィルターを外して相手を直視することは、自分自身の焦りを削ぎ落とし、心に「余白」を作る作業でもあります。
次回、決戦を目前にした蒼龍くんが選んだのは、意外な「心の整え方」でした。お茶の香りの向こうに、真実を看据えます。
合掌




