第25話:殻を破る勇気。玄龍さまが教えてくれた「啐啄」の導き
いよいよ物語は最終章、第三章へと突入します。 決戦の地へ向かう蒼龍くん。しかしその前に、彼は自分自身の「始まり」の記憶を辿ることになります。
新しい世界へ踏み出すとき、必要なのは自分の勇気だけではありません。 殻の向こう側で、あなたの準備が整うのをずっと待ってくれている存在がいるのです。
三鱗龍との戦いを終えた蒼龍くんは、黒龍城へと向かう旅路の途中で、ある夜、不思議な夢を見ました。
それは、彼がまだこの世に形を現す前、真っ白な卵の中にいた頃の記憶でした。
厚い殻に包まれた暗闇の中で、小さな蒼龍くんは丸まっていました。 (外はどんな世界なんだろう。怖いな。このまま、ここでじっとしていようかな……)
不安と孤独に震えていたその時、殻の向こう側から「コン、コン」と、優しく、けれど力強い音が響いてきました。
玄龍さまが外から殻を叩き、彼に合図を送っていたのです。 「蒼龍よ、準備はよいか。お前が中から殻を破ろうとするその瞬間を、わしは待っておるぞ」
『啐啄』。……雛が中から殻を突こうとする『啐』と、親鳥が外から殻を叩いて助ける『啄』。その二つがぴたりと一致した時、新しい命が生まれるんだ。
夢の中の蒼龍くんは、外からの確かな温もりを感じ、勇気を振り絞って内側から殻を突き破りました。 まばゆい光の中に、自分を慈しみ深く見つめる玄龍さまの姿がありました。
(僕が今ここにいるのは、僕の力だけじゃない。導いてくれたお師匠さまがいたからなんだ……)
朝になり、目が覚めた蒼龍くんの頬を、一筋の涙が伝いました。 自分の原点を思い出したことで、これから挑む黒龍という存在もまた、かつては誰かに導かれ、光を求めていたのではないかという考えが、静かに胸に去来しました。
蒼龍くんはカバンを背負い直し、立ち上がりました。 「さあ、行こう。僕に殻を破る勇気をくれたお師匠さまのためにも。そして、今も暗い殻の中に閉じこもっているかもしれない、黒龍のために」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「啐啄」。正確には「啐啄同時」という言葉で、禅では師匠と弟子の呼吸がぴったり合うことを指します。
何かを学びたい、変わりたいと思うとき、自分一人で頑張りすぎても殻は破れません。逆に、周りがいくら助けようとしても、自分にその気がなければ変化は起きません。
中から突く「啐」と、外から導く「啄」。 蒼龍くんが玄龍さまと出会えたのは、彼自身の勇気と、師匠の深い慈愛が共鳴した奇跡の瞬間だったのです。
次回の蒼龍くんは、在りし日の玄龍さまとの思い出に世界の理を見い出すお話しです。
合掌




