第12話:【第一章終話】教えさえも手放して。蒼龍くんと「本来無一物」
こんにちは、佐藤堅明です。
第1章「気づきの門」、いよいよ今回で最終話となります。
これまでたくさんの大切な言葉を学んできた蒼龍くん。 最後に彼が向き合うのは、「学んだことへの執着」でした。
握りしめていた拳をそっと開いたとき、何が見えるのか。 蒼龍くんの心の成長を、最後まで見守っていただければ幸いです。
「ありのままの自分」でいようと決めた蒼龍くん。
しかし、今度は修行で得た大切な教えを、忘れないように必死に守りたくなってしまいました。
(これまで学んだ教えを、しっかり握っておかなくちゃ!)
ある日、蒼龍くんは険しい崖を登る修行をしていました。
一歩進むたびに「日々是好日、脚下照顧……」と呪文のように唱えていたせいで、目の前の岩に気づかず、派手に転落してしまいます。
「うう、教えを握りしめていたのに、どうして!」
泥だらけの彼の横を風が吹き抜け、玄龍さまが現れました。
「蒼龍よ。おまえの手には何がある?」
蒼龍くんが手を開くと、そこには何もありません。
「何もありません。教えを握っていただけです」
玄龍さまは微笑みました。
「『本来無一物』。もともと、心には執着すべきものなど何もない。教えさえも手放しなさい。空っぽの心でいるとき、おまえは何にでもなれるのじゃ」
蒼龍くんは心の拳を緩め、唱えていた言葉さえも風に逃がしてみました。
すると不思議なことに、体から力が抜け、さっきまで重かった崖が、ただの遊び場のように見えてきました。
「そうか。もともと僕には、失うものなんて何もないんだ!」
何にも縛られない空っぽの心になった蒼龍くんは、誰よりも自由な翼で、夕焼けの空へと舞い上がりました。
自由な心で舞い上がった蒼龍くんの目に映ったのは、これまで過ごしてきた穏やかな谷の向こう側、雲海に隠れていた未知の地平線でした。
(この翼で、あの山の向こうへ行ってみたい。学んだ教えを、広い世界で試してみたい……!)
蒼龍くんは、地上で見守る玄龍さまを振り返りました。 師は何も言わず、ただ静かに一度だけ、深くうなずきました。 その眼差しは、蒼龍くんの心に芽生えた小さな決意を、静かに肯定しているようでした。
黄金色に輝く夕焼けの中、蒼龍くんは未知の空を見つめ続けました。 彼の中に、新しい旅への鼓動が静かに、しかし力強く鳴り響き始めていました。
(第一章「気づきの門」 完 / 第二章「心の修行路」へ続く)
第1章「気づきの門」、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
「本来無一物」。 私たちは生まれたとき、何も持っていませんでした。
知識も、プライドも、こだわりも、実は後から付け足した「荷物」に過ぎません。 それを一時的に「下ろす」ことができたとき、心には心地よい風が吹き抜けます。
さて、第一章はここで幕を閉じますが、蒼龍くんの物語はここからが本番です。
師匠の元を離れ、未知の世界へ踏み出そうとする蒼龍くん。 第二章「心の修行路」では、新たな出会いと、厳しい試練が彼を待ち受けています。
果たして、彼が手に入れた「空っぽの心」は、外の世界で通用するのでしょうか? 明日19時、第二章の幕開けとなる第13話でお会いしましょう。
合掌
佐藤堅明
※本作は現在、「曹洞宗 蒼龍寺」のFacebookでも同時連載中ですが、こちらの『なろう』版ではより読みやすく整えてお届けしています。まずはFacebookの最新話に追いつくまで、毎日更新を続けてまいりますので、楽しみにお待ちください。
イイネ!と思ったら下の☆☆☆☆☆をタップして応援お願いします。




