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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぐちゃぐちゃ、ギトギト、ジリジリ

作者: 聖殿 悪夢

注意:この作品には【暴力、DV、近親相姦、精神疾患】が含まれます。

苦手な方はご注意下さい。





第1章


秋も近付く中、女は大学病院の近くにある公園で本を読んでいた。

題名は、「痴人の愛」

彼女はいけ好かない、好きでもない、というより真逆の苦手といわれるその小説を、もう一度読んでみようかと思い虚ろな目で文字を入れていく。

…別に、今読んでみれば悪くもなかった。

当初、学生時代初めて読んでいた時よりかは幾分か不快感はなかった。

なんというか、男が女に振り回されるといった構図が苦手だった。

その点、逆に女が男に振り回される、太宰治の作品は好きである。

とりあえず…と、気分を変えるためか、それとも何年かごしに読めば受け取り方も変わるのでは、と挑戦のつもりか。。

序盤の20ページを、なんとなしに読んで、次のページに目を落としかけた時だ。

「姉さん、何読んでるの?」

ヒョイ、と本を奪われた。

それは血の繋がった弟だ。

年齢は22歳、髪を肩まで伸ばした中性的な顔をした男…でも、背丈は180と、れっきとした男だ。

「痴人の愛…?

なんだっけこれ、いやらしいの?」

「…返して。

もう病院は終わったから帰ろう」

彼女は弟から奪われた本を否応言わせず取り返すなり、ショルダーカバンにしまった。

立ち上がり、駅へと歩く。

弟は何も無かったかのように後ろをまるで小さな子供のように、従順について行く。

「ね、いつ頃退院?

薬は?体重は減った?増えた?

様子は、どう?」

「なんとか。

退院は難しいかも。

体重はなんとか維持…、薬は新しくパニック時にシクレストとエビリファイが追加されたんだって。」

「そっかー…。

手帳は?1級のまま?」

「うん、保険とか年金はちゃんときくって。

当分お金は大丈夫そう」

「なら、良かった…というべきかな?」

駅に着くなり、定期にお金をチャージする。

そんな時、ふと携帯電話に通知が入った。

女は顔を顰め、たちまち苛立ちがピクピク、と顔色に出る。

苛立ちは収まることなく、先程より足速に、仕草が荒くなりつつも、改札を抜けた。

途中、通行人とぶつかるも、謝ることはなく、逆に睨みつけ、家へと帰った。



-「排泄物と、それと同等な人間とは」


家の玄関をぞんざいに開けるなり、すぐにリビングの電話帳を探し出し、苛立たしげに数字盤を押す。

「…もしもし。

おい、聞こえる?


聞こえてんのか!?この間抜け!

はよ出ろや!クズ!

お前が他の女に性病を移された?

は?知るか!!もうその女にはてめぇがヤリチンだってこと言ってあるけど?

…なに、言うなっての?

はっ!馬鹿だなお前!さすが脳にミソ詰まってないだけあるなガイジ!!

…どこまで話した?

さぁね、明日金振り込んだら、今の話私が単にメンヘラの故の嘘だって言ってやる

は?振り込む必要性…?



あるだろうが!!

私に!散々!必要もない心配かけやがって!!

オマケに性病にも!かけられた!!!

…は?検査もうしたかって?

したに決まってんだろ!私が嘘つく思ってんのか?

どれだけ見下してんだ私を!!

私は嘘をついたりする訳ないだろ!!

明日まで振り込めよ?じゃなきゃてめぇの実家に行ってやっから!!

全部だ!全部バラしてやる、こっちには証拠いっぱいあるもんな?

…警察?私がこんな告発をするだけで、それが法に触れようったって?

阿呆かてめぇは!!

こんなんじゃ警察動かねーよ、カス!

とりあえず…

とりあえず、明日振り込めよ!

じゃなきゃ覚えとけ!ド屑!!」


バン!!

女はヒステリーになりながら、受話器を置いた。

息を切らすどころか、ますますドーパミンが出ているかのように活発になっていた。

そして落ち着きかないのか、キョロキョロとリビングを3周足速に歩き回る。

「…あの、姉さん」

「なに?」

先程から困惑した様子でジッと様子を見ていた弟が、口を開いた。

何とはなしに、不安げな表情をした。

「早く言ってくれない?」

「あ…えっとね…。

アイツ、あの今居候してる姉さんの元彼、さっき部屋見てきたら、花瓶割ってるのみちゃって…」

「なに?」

食い気味に、目を見開き詳細を尋ねる。

半ば、好奇心も怒りの中に混ざっているかのように見えた。

それは、もうすぐで爆発する何かを爆発させる為に、更に燃料投下したいといったところか…。

「いやね、花瓶の破片と、前に買った薔薇の花が床に転がってて…。

今姉さん、電話してたからさ。」

女は顔を真っ赤にし、弟が話終わるまでは聞かず、2階へと上がって行った。

そして、聞くにも気持ちの悪い悲鳴と共に、1階へ降りてくるなり浴室へと連れていく。

それは、数日前から風邪で寝込んでいた女の元彼だった。

年齢は30後半、少し頭部が禿げていた。

女はそんな男の体調や様子など構うことなく、髪を鷲掴みに、半ば引きずるように、浴室へ連れていくなり手をグーの形にし、顔面を思いっきし殴った。

弟は心配そうに、否、好奇心にかられ、浴室を少し遠くから、気付かれないように見ている。

「お前!またやったのか!!

どんだけ物壊せば済むんだよ、この寄生虫が!

ハゲが!!」

「い"っ…!

そんなに壊してない!まだ2つ…しかも今日は、体調が悪くて、歩いた弾みに、よろめい

て"っ!!…!!」

すかさず横腹目掛けて女は殴る。

弟は益々目を輝かせ、その状況に目を見開いた。

「五月蝿い!!

言い訳すんな!じゃあ後始末くらいしろよ!

なんで薔薇はそのまま床に転がってんだよ屑!!

暇ならそれくらいしろよ!

働いてもいねーのに!

あ?答えろよ!!」

「…」

口が腫れて物が言えないでいた。

いや、それに、女が逆上すると思ったのか、口を挟むことよりも、苛立ちが収まるのを待つためか。。

それが逆効果だとは、知らずに。

「…そっか、そうなんだね。

"本当は悪いと思ってないんだ"

だから開口一番謝罪の言葉も出ないワケだ。

ありゃー…」

呆れたかのように、いや、急に冷静な調子になった女は、殴るのを辞めた。

「…いやっ、悪いとは思ってる…!」

不味いと思ったのか、男は血だらけになった口をどうにか痛みを堪え、パクパクと弁明を始めた。

「悪かった…謝る、土下座する、ごめんなさい」

女は急に立ち上がり、勝手に頭を床に倒れるように擦り付けた男なぞてんで目に入らないのか、浴室から出て、弟を探すなり、無理やり御手洗へと連れ込む。

「…分かる?

やってほしいこと」

高圧的に、女は弟を便器に座らせ、仁王立ちで問いかける。

「うん、分かった。

すぐやるから、ちょっと出てて。」

弟から見るな、と言われた女は言われるままに出て、浴室から血だらけで、痣だらけになった、病人の男を引っ張る。

「終わった?返事。」

「あ、待ってね…

はい、終わったよ」

弟は立ち上がり、そのままズボンを上げた。

女は弟をぞんざいに押し退け、男の顔を便器に押し付ける。

「ちょ、何する気…ごぼっ!!」

「これ飲みきれたら許してやる。

飲みきれたらな!!

お前は阿呆だから何にも入らない、いくら怒ったってお前には分からないんだろ?!

もう期待するのは辞めた、だってお前は阿呆だから何言ったって、何度蹴っても理解出来ないもん…

ほら!さっさと飲めや!それとも窒息死がお望みですかー?」

無理やりにも頭を押さえつけていると、男はピタリ、と動かなくなった。

女は2、3度頭や胴体を蹴るものの、反応は無い。

「あれ、失神した?

聞こえてるー?」

頭を引っ張り、顔を見るなり、男は力なく後ろへ倒れた。

熱もあったせいか、全てがキャパオーバーになり倒れたらしい。

「…

あーあ!こんなに汚して!汚ったない!

お前が寝たら誰が掃除すんの?」

「…」

はぁぁ…と大きくため息をつく。

「姉さん、僕がやっとくよ。

この人も、洗って2階に寝かせとくから。」

弟がよいしょ、と言い、男をもう一度浴室へと運ぶ。

「汚いよ、そんなん背負ったら。」

「大丈夫、ついでに服も体も洗うから。

姉さんは休んでて、お見舞いで疲れたでしょう」

女は先程の怒りはもう発散し終わったのか、ケロッとした様子で洗面所で手を洗い、そして2階へと上がった。

「…せっかく貰った花なのに」

今度は少し瞼に涙を浮かべながら、花瓶の破片を拾いながら、薔薇を見る。

それは先日弟が仕事終わりにくれたものだった。

ぐす、ぐす…と涙を浮かべながらも、力なく、女は新しい花瓶を用意し、折れた茎の部分は切って、短くなった薔薇を入れた。

「…短くなった。

せっかく綺麗に咲いてたのに」

命は取り返しがつかない…女はこれを嫌という程知らされていたからだ。

仕方ない、仕方ない…と思いながらも、先程の事…それは男への暴力沙汰など点でなかったかのように、夕食を作るのに取り掛かった。


「あ、掃除してくれてありがとうね」

お風呂から上がった女は、今更ながら…とは思いつつも、麦茶を片手にスマホをいじっている弟にお礼を言った。

「んーん、あれは災難だったよね。

姉さんこそ、疲れてるのに夕飯作ってくれてありがとう」

「薔薇…大丈夫かな」

「大丈夫、ダメになったらまた買ってくるよ。

気にしないで」

女は執拗に、もう何度も薔薇の前を通りかかるなり穴が空くほど薔薇の容態を気にしていた。

「姉さん」

また花瓶へ手を伸ばしかけた女に、弟が制止する。

「あ…うん」

「姉さん、もう寝よう。

今日は色々嫌なことあったでしょ、それにお金の件も…

ねぇ、とりあえずさ、忘れて寝ちゃおう?」

言われるがままに、自室へと向かった。



-「近親相姦故に、罪悪を募らせる」


部屋は明らかに女の部屋のようだが、他の部屋よりも一層広く、真ん中にはダブルベッドがある。

白いフレームベッドに、ピンクのフリルがついたカバー、そしてポップなストライプのピンクと白の壁紙は、ラブホテルを想起させる異様さだ。

「…もう1回していい?」

「いや、もう寝る…って、ちょっと!」

女が上体を起こそうとしたものの、上に四つん這いに覆い被さる弟が、ゴムを片手に持ちながらそれを阻止する。

「ごめん、やっぱりまだやりたい…」

「嘘、まだやるの?」

女の両手を左手で上に押さえつけるなり、すぐにゴムを自身のものへと装着する。

女は身動きが取れない為、されるがままであった。

「ね、明日は何しようか?」

挿入をしながら、弟は可笑しいのか、口元を緩め、女に問う。

「だからっ…、明日は金振り込まれるか確認しなきゃ…って、聞いてる?」

スルスル…と慣れたそこはスムーズに奥まで入り込んだ。

「でもさ、性病なんて嘘でしょ?

会ったらバレちゃうよ、だからこうして朝までいっぱい気持ちいい事して、そんな奴なんか放っちゃおう」

「でも…!」

否応を言わせないためか、弟は女の口を塞いだ。

朝変えたばかりのシーツはすぐ汗だくになり、使えなくなる。

あぁ、また洗濯しなければ…と、面倒くさいと思いつつ、身体を流されるがままに、重ねた。



第2章


女は、25歳にもなるのに、未だに1人では寝れないタチであった。

居なくなった空白の空間を埋めて貰うために、色々とソフレやらを探してみたり、元彼や昔のセフレを呼び出したりしたものの、結局揉め事になったり気を遣わなければならなかったりで、弟に辿り着いた。

弟は弟で、それをヨシとしたのか、代わりに毎晩身体を要求するようになった。

いや、女が要求するようになったのか?

それはもう、今になってはどちらが先に要求したのか分からないでいた。

「あぁ、いないんだ…」

何時しか、ずっと一緒に寝ていた人物ではなく、朝目に入るのは自身の血の繋がった弟になっていたのに、今日は理解が数秒かかった。

「ん…おはよう、姉さん。

まだ早いよ」

女が起きたのに気がついたのか、まだ眠そうに瞼を擦りながら、弟は起きた。

「あれ見てくる。

あの後どうなったか気になるから。

…あと、シーツ替えたいから10時までには起きて。」

はぁい…と少し可愛こぶった返事を後に、隣の部屋へと女は歩みを進めた。

部屋は質素であった。

以前、こっちの部屋が寝室だった為か、狭い部屋に占めていたベッドはなくなって、代わりに敷布団で、ガラン、と雰囲気が変わっている。

「…」

男は乱雑に敷かれた敷布団に寝ていた。

痣はかなり赤く、紫に腫れ上がっている。

息のヒュー、ヒュー、といった音が微かに聞こえた。

「なんだ、生きてんじゃん」

立ち去ろうとした時、足を咄嗟に掴まれた。

起きていたのだ。

「…なに」

「…頼むから、冷房がある部屋へ連れっ…て、いっ…て……」

触られた足元は、瞬時に熱を持った。

38度…とはいかないのは寝起きの、意識がまだ曖昧な女にも分かった。

40度は越えている。

「…はぁ。

分かった、隣に連れていくから、風邪薬飲んで寝ててね。

病院なんか連れて行けないから」

おもむろに、男を叩き起し、隣の自室へと連れてきた。

「げっ…!

まさかここで寝かせるつもりじゃないよね?」

まだうつらうつらだった弟が、男を連れて戻ってきた女に気付くなりギョッと目を覚ました。

「逆に、こんなんで死なれたら捕まるでしょ?

病院にもさすがに連れて行けないし。。

床でもいいから寝かせといて、あとブロン、まだあったっけ?あれ飲ませて。」

「…仕方ないか。

最悪!床汚すよこれ。

ブロン…?あったかな?」

弟はベッドから起きるなり、風邪によって立っていられなくなった男の両手を引きずりながら引っ張り、床へと寝かせた。

「ないなら買ってくるけど。

あいつ、振り込んだか確認しにいきたいし」

「そう?なら一緒に行くよ。

…こいつは適当に縛り付けておいて…と、姉さん1人だと心配だし」

そう言いながら、ロープで男を身動きが出来ないよう全身を縛っていく。

女は昨日のように化粧をすることもなく、適当に着替えて弟と共に、外へ買い出しに行った。



-「スクールカースト最高と最底辺」


女は買い出し中、昔の事を思い出していた。

昨日の面会もあってか、昔の思い出に想いをかせてみたかったのかもしれない。

「あ!あれ姉さんが好きって言っていたブランドだ、今日お金振り込まれてたら買っちゃお!」

「そういえばね、駅の近くに新しいカフェが出来たっぽいんだけど…

今度一緒に行かない?予約必須の人気のカフェなんだって!」

「あと6万くらいあったら東京旅行行けるのに…。

僕も僕で稼げたら稼げるけど…姉さんのほうはどう?いけそう?」

こんな調子で私の弟君はずっとおしゃべりだ。

そもそも、成人した私に成人した弟がここまでベッタリなのは世間一般とかなり異なるだろう。

重度のシスコンなのか、それとも私がたまに起こすヒステリーに好奇心が惹かれるからか…。

それとも、私が何かと難癖つけて過去に関係があった男からの金目当てなのか。

それとも、ただの性欲処理なのか。

それとも、私のdvを受けたくないから気に入られようとご機嫌を取っているのか。

…思えば、高校辺りからずっとご機嫌を取られている。

それは私のdv癖がその辺から顕になったからだろうか。

ヤケにベッタリになって、ヤケに異性と見られるようになった。

今も、"あの人"がいない事を機に、私と手を繋いでまるで私と"恋人"であるかのような面をしている。

高校生時代の、親友らしき人物とバッタリ街で出くわしても、弟はまるで見えていないかのように無視をして通り過ぎてしまう。

昔はもっと…私にこんな媚びを売る前は人当たりも良かったのに。

「…って、聞いてる?姉さん。」

「あ、あぁ。

いや、高校の時思い出して」

「?なんで?

あ、分かった!あれうちの高校だよね」

偶然居たのか、私たちが通っていた高校の現役jkを見た。

「僕らが居た時と制服変わってるね、あ、今は女子もズボン選べるようになったんだって」

「そうなんだ…」

思い出したのはそういうワケではないのだけれど。

…学校に良い思い出なんかなかった。

私は所謂スクールカースト最底辺で、ストレスで過呼吸になったり腕を切ったり、ストレスを発散すべく"裏垢でセフレを漁ったり"、そして"あの人"が入院に至ったりと…、色々と苦い思い出しかない。

そして弟の存在も当時の私にはキツかった。


弟は私とは正反対で所謂スクールカースト上位だ。

たまに学年が違うものの、出くわす事も度々あった。

私はそれが堪らなく嫌で、ひとつは弟に恥をかかせないようにする為と、もうひとつは私自身が馬鹿にされることを恐れた為、実にそっけない態度に出た。

例えば、朝、やることも無く、自主学習のフリをして、パラパラと英語の教科書に目を走らせていた時…。

笑い声が後ろを通りかかった女子からした。

ビクリ、と体が硬直する感覚。

手の震えが収まらない、呼吸が上手くできなくなる。

父さんの癖が移ったのか、思い込みが激しい質だった。

私のことを嘲笑っているのでは。

いや、実際そんな扱いは受けていた。

震える手で左手腕を見る。

長袖から薄らと見える複数の傷。

切りたい、切って安心したい、そう思い、トイレへと向かおうと立ち上がりかけた時、

「朝から勉強?

さすが姉さん、偉いね」

聞きなれた声が後ろからした。

振り返れば弟がいた。

「なんの用?」

急いで左腕を見えないように隠した。

それを見た弟は薄ら笑みを浮かべた気がした。

「いや、体操服忘れてさ…。

姉さん貸してくれない?」

「サイズ合わないじゃん。

女子は短パンだし…」

廊下に目をやれば、弟の友達らしき男子生徒が3、4人くらいいた。

私とは如何にも違う人物だ。

もしかしたら、弟と一緒に私を笑いに来たのかもしれない。

早くこの場を立ち去りたい。

「どうしたの?すごいしんどそう…

体調悪い?保健室行く?」

私はもう精一杯だった為か、その声が馬鹿にしているように聞こえた。

「だから!合わないって言ってるでしょ、サイズが!」

辺りがシン…と静まり返った。

しまった、目立ってしまった。

しかも、廊下には弟の連れがいる。

「あのね、ジャージの上だけ貸して欲しかったんだけど…。

ほら、苗字は一緒だから、それ以外は別のやつから借りて、上だけ姉さんから借りたらバレないじゃん?」

「あ…うん、そっか」

私はつかつかと足速にロッカーに走り、ジャージが入った袋を弟に押し付けるなり、教室を後にした。

「ちょっと!姉さん…!」

「私、貧血気味だから、保健室行くね…」



保健室に入るなり、すぐにベッドに横になった。

バレないように布団の中でスマホをいじる。

-【今日だね、会えるの楽しみ!!】

dmに、今日会う予定の男からメッセージがあった。

私はキーボードを打つ。

【助けて、怖い】

身体目的なのに、私の事を本心から心配してくれるワケもないのに、対して親しくないのに。

助けを求めたくて、送信ボタンを押しかけた瞬間…

-【今日は何時に帰ってくる?】

私はハッとした。

dmなんかすぐ閉じて、通知が来たメールアプリを開く。

父さんからだ。

幸い、父にはバレていない。

ここ最近は家にいる事が多いが、普段は外で働いている。

私は1番大好きな人からメッセージが来たのが嬉しいからか、それとも、心配なのか、すぐ返事した。

【今日はすぐ帰ります】

あんな男なんてどうでもよかった。

身体目的なんか、ストレス発散で気持ちよくもない、ただ痛いだけの自傷行為なんて。

父さんとちゃんと、家族を大事にしようと思った。

そして…帰ったら弟にも謝ろうと思った。

いくら私が恥をかかせたくないからといって、あんな態度は酷い。

帰ったら、父さんと弟と久しぶりにご飯を食べようと思った。

家族らしく、最近は恥ずかしいけど…。

でも、私には安心出来る場所がある。

スマホを閉じ、目を瞑った。

「とりあえず、体調回復させないと」



-「最愛の家族」


下校時間、ふと、弟達を見かけた。

弟は私とは違って、綺麗な顔をしているからか、または人当たりが良いからか、クラスメイト…特に男子生徒からはよく思われていた。

「やっぱ可愛いよなー、お前」

「嫌なんですけど、男なんかー」

「そこを何とか!俺お前となら付き合えるわ」

「キモ!ガチ?」

笑い声が聞こえた。

男からもモテている弟は大変なんだろうか?なんて思った。

中性的で曲線な顔立ち、綺麗な二重、ボブカット…。

父さんに似た綺麗な顔立ち。

私はいなくなった母に似た為か、全く正反対な顔をしている。

…私はこんな顔、好きではなかった。

「いや、帰ろう」

首を振り、私は家へと向かう。

帰ったら、父さんにご馳走を作ってあげよう。

親孝行をしよう、と思った。



家に入るなり、夜なのに部屋が真っ暗なのに驚いた。

「…父さん、いる?」

私は気をつけて、足の踏み場を確保しながらリビングへと向かう。

電気をつけていいだろうか?

そう、手を伸ばしかけたその時。

「きゃ!!父さん…?」

「何してるんだ!!お前は馬鹿か?!

"電気をつけたら悪霊が見えるだろうが!!"」

私は床に叩きつけられた。

父さんが上乗りになり私を責めたてる。

「あいつが今日もいる!

俺を責めたてるんだ、お前はおかしいって…。

分かる?分かるよな!お前だけは味方だよな、父さんの…唯一の…。

なぁ!どうなんだ!父さんを助けるのか助けないのかハッキリしろ!!」

そういうなり父さんはボロボロと泣き出した。

「今日もな、あいつは俺を責めたてたんだ。

お前はもう人間じゃない、屑だって…。

排泄物と同レベルな人間なんているんだなって…!

なぁ、俺は人間じゃない?なんで、嫌だ!嫌だ嫌だ!!」

私の両手を折れるかのように力を込めて握る。

痛い。

「父さんは人間だよ、大丈夫、悪霊なら私がどうにかしてあげるから!!」

「本当か?この前の除霊が効かなかったんじゃないか?

なぁ、早く寺に行こう!お前までアイツに呪われるかもしれない!!」

「効かなかったって…。

父さん、薬飲んだ?

ていうか、お札は?部屋に貼ってあったよね…?」

「あいつにはがされた!あいつが俺を壊そうとしてる!助けてくれ!!助けろ!

おい!早く返事は?早く!

この野郎、打つぞ!!


…それか、今死ねば楽になれるか?

なぁ、もう嫌なんだ、こんな人生。

そうだ!そうだ!そうだ!!

はやく死ねばいいんだ!そうだ!」

突然閃いたかのような顔をし、目を輝かせた父さんは、私から手を離し、すぐに台所に行こうとした。

「包丁を取る気だ!!」

私は足の踏み場なぞ、床に散乱したゴミなんて気にかけること無く、転んでもすぐ立ち上がり父さんの背中に抱きついた。

「離せ!離せ離せ離せ!!!」

「嫌だ!父さんが死ぬなら私も死ぬ!

死なないで!置いていかないで!」

やせ細った父さんと体重は同じくらいなのに、それなのに。

どこから出てくるか分からない怪力でどんどん台所に進む。

「ダメ!ダメダメダメダメ!!」

「あった!…いや、こっちか?1発でイけるヤツは…?」

台所にある包丁を2つ見比べ、吟味している。

誰か!誰か止めて!今のうちに!!


「何やってるんだよ!離せよ!!」

後ろから、父さん目掛けて殴る腕が見えた。

父さんは前に倒れ込み、私は後ろの床に叩きつけられる。

この声は、弟だ…。

いつの間にか電気が付いていた、きっと弟が帰って付けたのだろう。

「姉さん!あの注射どこ?!」

「あ、ここ…」

私は弟に言われるがまま、違法薬物の注射を取り出した。

弟は受け取るなり、すぐ首筋辺りに注射した。

すると、父さんは、フラフラと立ち上がった。

包丁は捨てて…。

「…あー、帰ってきた。。

なぁ、父さんお祓いに行こうと思うんだけど」

幾分か薬物のおかげで落ちついたようだ。

統合失調症とは診断されていたが、暫くは病院に行けていない。

父さんはここ1年辺りで変わってしまった。

こうなる前、ストレスが重なる事が多々あり、予備軍ではあったと思う。

しかし何故か、急に違法薬物をどこからか入手し打って、ここまで悪化した。

病院に行けないから、薬も入手出来ないでいる。

だから、薬物に頼るしか無かった。

お金も最近はほとんど、無くなっている。

「は?お祓い?

馬鹿じゃないの?アンタが行くのは病院だろ?」

「嫌だね、嫌だ、お前も"息子"なんだから言うことを聞け!

今から空いてる寺だ!もっとちゃんとした、悪霊に特化した…」

「じゃなきゃ!死んでやる!!」

喚きたて、再び包丁を握る。

弟は大きなため息をつき、

「本当に馬鹿だね。

勝手に薬なんかやるからこんなになるんだよ。


…姉さん、大丈夫?!すごい血が出てる!今すぐ手当てを…」

言い終わる前に、私は弟に抱きついた。

「姉さん?」

少し顔が赤くなったようにも見えるが、きっとこんな事態になったからだろう。

頭に血が上っているのだ。

私は涙を流しながら、

「お願い、お祓いに特化した寺、探して…」

弟に縋り付く。

私は、大好きな父が死ぬなんて考えられない。

いくら薬をやったからって、病気になってしまって面影もなくなってしまったとしても、私は父さんを見捨てたりはしない。

昔から何かと弱い私を救ってくれた父さんを。

「そんな…っ、お祓いとか意味ないんだよ。

姉さんは"正常だから"分かるでしょ?」

「違う、いる、絶対悪霊がいる!

じゃなきゃ父さんこんなにならない。

父さんは薬とかやる人じゃない!

お願い、頼れるのは貴方しかいないから…お願いします」

ぐしゃぐしゃに泣き崩れ、私までも精神がおかしくなったのを見た弟は、さすがに動揺したらしい。

とりあえず、嘘っぽいけど…、と、スマホでここから車で移動できる寺を探してくれた。

「…免許ないけど、運転していい?」

「うん、ありがとう…ありがとう…」

その後、弟が車を運転して、父さんをお寺に連れて行ってくれた。

私は付き添いで行ったが、終始弟にはありがとう、と泣き崩れてばかりだった。



-「非行青年」


「あ、久しぶりにドライブもしたいね。

お金ないけどさ、海とか見に行かない?」

「あぁ、うん…」

ふと我に返った。

ちょうど車を運転していたあの時の弟を思い出していたら、ちょうど偶然、そんな事を言い出すものだから…。

「あれ、振り込んだかな。」

コンビニについたから、口座を見てみれば、一応、1万円は振り込まれていた。

「1万円…しょっぼ」

私は思わず口に出す。

「でも、結果振り込んだから良かったんじゃない。

あ、やめて、姉さん、ATM叩くと不味いよ」


あの部屋…あれ以降、私は父さんと一緒に寝ることになった。

どれだけ暴れていても、どれだけ暴言を吐かれようと、父さんが私のいない所で死んでしまわないように、と。

でも、結局は閉鎖病棟に入院になったから、私は一人ぼっちになった。

弟のよく分からない好意を、私は体を貸すという取引で寝てもらうことにしてもらったが…。




第三章


私は帰りしな、ちゃんとブロンやら何やら風邪薬を買った。

アイツに死なれたりしたら困るし。

「でも、結果姉さんがスッキリするならいいよね」

私のdv癖やら、ついカッとなりやすいタチを、弟はポジティブに解釈している。

止めることもなく、ただ見て見ぬふりをするだけであった。

…私は精神がおかしくなったのか、父さんがヒステリーだったように、私もすっかりヒステリーに、暴力に走るようになってしまった。


最初に手を挙げたのは弟だった。

私が父さんの入院で揉めた際、手を挙げた。

「うるさい!うるさいうるさい!

大体、お前は父さんに冷たいんだよ!!本音ではどうでもいいんだろ?!なぁ!!」

気付いた時には、私は罵声を浴びせて、平手打ちをしてしまった。

「違う…違う…姉さん、違う!!」

「違わない!違わない!違わない違わない違わない!!!

お前なんか嫌い!死ね!大嫌い!

ずっと私を見下して!父さんも馬鹿にして!

大嫌い!!」

弟は今まで見た事ないように過呼吸になり、泣きじゃくった。

違う、違う…と必死に声に出しながら。

「お願いだから嫌いにならないで…

お願いだから…見下したりなんかしてない…

ごめんなさい、嫌いにならなっ…!!」

ごほ、ごほ、とストレスからか嘔吐した。

私は益々怒りが込み上げた。

"被害者面をしたのが許せなかった"

「汚い、掃除してよ、汚い。」

私はその場から立ち去ろうとしたが、弟がそれでも尚、私を後ろからしがみついて来て離しそうになかったから、私は益々腹が立って、今度はグーで殴ってしまった。


それ以来、私の過去の元彼やらセフレやらを引っ張り出してサンドバッグになっている。

「あ、生きてる、よかったー」

元彼は家を出る前と同じ感じで、ヒューヒューと細い息をしながら、汗をダラダラと流していた。

「姉さん、薬は飲ませておくから、休んでて」

弟はそう言い、私を1階のリビングのソファまで座らせてきた。

「そういえば、昨日、看護師さん、何か言いかけてたような…。」



-「悪魔、悪霊」


女の父親は6年ほど大学病院の閉鎖病棟へ入院していた。

最初こそ、自殺を測って舌を噛みちぎろうとしたが、最近は明らかに違っていた。

生きることに固執しはじめた、それは"重要なこと"でもあるかのように。

「あいつが…あのいつも来る娘…わかるか?

そう、弟が居て、面会は禁止されてるだろ?

何故?俺が当初ずっとアイツを見て発狂したのは、アイツが全て、俺を狂わせたからだ…!

アイツはな、俺が偶然、姉…そう、いつも面会にくる娘だ。

あいつに恋愛感情を抱いてるのを知って…

いや、指摘なんかしてない!俺はたまたま知っただけだ。

でも、それ以来、あいつは俺に、あらゆる暴言を言ってきた。

運悪く俺もその時期はストレスが重なって…

そうしたら、いつの間にか"統合失調症"にされて…そうだ、統合失調症だと信じてくれない!

全て妄想だと思われてしまう!

だから、悪霊はあいつなんだ…!お札だってあいつが剥がした、電気がつくと、あいつの顔が、写真でも、だ!あいつを見ると気が狂う…

なぁ、看護師さん、信じてくれるよな?

俺は今正常だ!わかるか?俺は統合失調症にした手上げられたんだ!

あいつが悪いんだ!あいつが…!」

看護師は、一通り、呆れた顔で聞き終えると、ひとつ質問をした。

「じゃあ、どう統合失調症になったんですか?」

「違法薬物だよ!あいつが用意した!」

「貴方、違法薬物なんてやってませんよ…

検査でも、出なかったんですから」

「は、は、は!

やはり、統合失調症だと信じてくれないみたいだな!

まぁ、いい!もういい!

俺はあの…娘…あの子が、俺に似てきた事を知っている。

神経質なんだ、最近、あの子を見ればよーく分かる、俺と同じになるぞ!

は、は、は!

あいつも地獄を見るがいい!俺があの子にしてきたように!あの子があいつに天罰を下す番だ!!」



解説

・父親のヒステリーや暴力▶︎娘に遺伝している


・父親の最後の発言は娘が自分と同じ加虐性を持っている事を知っている▶︎希望が見えた、自分を貶めた弟が娘のdvで壊れればいい(事実娘が現在dvをしたり、ヒステリックになったり思い込みが激しくなったりと、壊れたのは父親の病気によるヒステリー、負の連鎖を意味する)


・弟は実際姉に恋愛感情を抱いた▶︎父親に知られてしまい、父親を破滅させることに。


・薬物は実際あった、弟が父親がストレス過多の時にやらせた▶︎ストレス過多もあり、薬の副作用もあり統合失調症となる(実際は傾向のままかもしれない、とにかく診断を下す、病人として扱われるようにした)


・最後に父親が言っている事は"本当"

▶︎だが、統合失調症の症状だと看護師には思われ、宛にされない。(然し、面会時、娘に言おうか迷っていた)

だから本当の事を言えば言うほど退院出来なくなる、統合失調症のパニックだと思われる


・女は元々学校でも精神的にも弱い立場にあった▶︎それを正常だった頃、父親が励ましてくれた▶︎父親への異常な執着


・女が一人で寝れなくなった▶︎父親が1度自殺しかけて(二章参照)、自殺しないように見張るために一緒に寝るが、父親が入院▶︎虚しくなり、また寝付けなくなり弟と寝ることに



・悪霊=弟なので、電気をつけたらより鮮明に弟の姿が見える▶︎家族写真でもダメ


・弟は姉のいない所で父親に「お祓いをしたほうがいい、お前は排泄物同等で価値がない」など言っていた、また、お札を剥がしたりも

2章で娘=女に「いつ帰ってくる?」と聞いたのは弟が先に帰って2人きりにならないようにする為


・弟は姉がdv癖を持っている、又は持ってしまった事は想定外

本来なら父親を病院送りに出来ればよかった

▶︎然し、姉のdv癖をいい事に自分なしでは居られないようにしている

(1章の元彼へのdvで、トイレで尿を出すなど姉に協力する、dvを否定しない)


・元彼を何故dvターゲットに?

▶︎女が最初手を出した相手は弟

弟はマジで恋愛感情抱いてる、また弟も精神的に不安定だから、自分に被害が行くことは嫌▶︎女が学生時代自傷行為とていして出来た元彼やらセフレを利用


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