1イラ
達郎は、まず一言目の言葉を選んだ。
これは非常に重要な作業だ。何せ20年ぶりの兄妹の再会で、お互い唯一の家族ともなれば、
一言目に何をいうのかが、今後の二人の関係、二人の運命、二人の人生、二人の健康状態、二人の精神衛生上の問題、
二人の未来、二人の将来、二人の請来、二人の因果に根深く関わってくる。
まず達郎は脳内で、相手に何かを伝える意図、すなわちPreverbal Messageを考察した。
脳の内側前頭前野(medial prefrontal cortex)や帯状回(cingulate cortex)が、『誰(この場合は妹)に何を言いたいか』
という伝達意図を生み出す。
左側頭葉の後部領域(angular gyrus、supramarginal gyrus)が活性化。
上記の意図を元に、言葉にするための**意味概念(lexical concept)**を算出する。
達郎の脳内で「元気」「久しぶり」「会えてよかった」などの、意味の核になる概念がこの段階で抽出される。
続いて、左中側頭回(middle temporal gyrus)**が活動する。
抽出された意味概念に対して、**具体的な語彙(lemma)**を選ぶ。
達郎の脳内で「元気」という語と、それに似た語(「調子」「無事」「平穏」「健やか」など)も並列に浮かび、脳内で競合が起こった。
健やか?
……健やかだったか? 挨拶としてはあまり聞いたことがないものだが、
二十年以上会ってない兄妹の再会にはむしろこのくらいがいいのかもしれない。選択肢の一つだ。
健やかだったか?
しかし『健やか』はやや漢語的で堅い。では『無事だったか』?
いや、それは事件性を感じさせる。なら『穏やかに過ごせていたかい?』 長すぎる。ダメだ、すべてが違う。
ここは無難な道を選ぼう。俺はそうやって生きてきた。そう、あの夏の日も――
そしてあの秋の日も――
あの冬の日だって――
ところでその次は左側頭葉上側頭回(superior temporal gyrus)およびブローカ野(左下前頭回)**が連携。
選ばれた語彙に対応する音(音素)の並びを準備に入った。
「げ・ん・き」という音韻情報がアクティブになる。
そしてようやくそれが音声運動計画(Articulatory Planning)
運動前野(premotor cortex)と一次運動野(primary motor cortex)が関与。
つまり達郎の舌、喉、唇、呼気などをどう動かせば発音できるかを計画。
同時に、小脳が運動の滑らかさを予測・補正する。
ここで達郎の脳内のガンマ波が8~5に、シータ波が12~18に、ベータ波が25前後に、上昇し、
一方でアルファ波は5~10まで低下した。
ここで3日ぶりに登った太陽がアスファルトを温め、それによって空気が温まって上昇し、
一方で地表の気圧が下がり、冷たい空気が別の場所から流れ込む。
つまり、風が吹き、千代子の赤紫色、(つまり花でいうところの『ホトケノザ』『ポーチュラカ』『シクラメン』に近しい色)
の60センチのハイレイヤーロングの髪が靡く。60センチというと、千円札が4枚分だ。
千代子が10歳、つまり小学五年生の時に別れたので、今は31歳くらいだと推測される。
すなわち、2004年から2025年の間、
インドでスマトラ沖地震が発生し、23万人が命を落とし、
愛・地球博、すなわち愛知万博が開かれ、
北朝鮮が初めての核実験を行い、
アイフォンが発売された一年後に、リーマンショックが起き、
東日本大震災が発生し、スカイツリーが建って、トランプ大統領が大統領に初当選し、
年号が『令和』に変わって、コロナウイルスによる未曾有のパンデミックが発生し、
ロシアとウクライナで戦争が起きて、日本の安倍首相が銃撃され、
大阪万博が開かれたが、
そのどれも、達郎と千代子との過去にはそれほど関係しなかった。
そして未来にも、それほど干渉しないだろう。
千代子は、鼠色のシフォン・シャツ、少し開いた胸元に、シルバーのネックレスがのぞかせ、
ハイウエストストレートのワイドパンツに、白いスニーカーを履き、白色で小さいショルダーバッグを肩から下げている。
そして黒とグレーのBカップのブラと、パンティの色はお揃いだ。そして白い靴下。
ちなみに千代子の身長は152㎝。
そして体重は55kg、
スリーサイズは83/66/87、足のサイズは24㎝、血圧は約113/72mmHg、
コレステロール値は190mg/d L、善玉コレステロール値は65mg/dL、悪玉コレステロール値は110mg/dLである。
千代子の身長は152センチだ。身長だけで言ったら、有名人だと橋本環奈、大島優子等と同じ高さだ。
が、顔は全く似てはいない。年齢的にも少し上だ。
千代子という名前の由来はわからない。おそらく父親が右寄りの思想で、
国歌の千代に八千代にという節からとったのではないかと思っている。