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第19話 激闘後、新たな忠義

ザフィロナを倒した翌日——静かな病室の中、窓から差し込む朝日がやわらかくシーツを照らしていた


「……ん?」


病院特有の消毒液の香りがほのかに漂う中、一つのベッドの上で、孔田里音は目を覚ました


「……ここは……?」


ぼんやりとした意識のまま、天井を見上げる。すぐに、自分が病室のベッドに寝かされていることを理解した。体を起こそうとしたが、筋肉が軋むような痛みを訴えてくる。全身に走る鈍い疲労感。戦闘の余波がまだ残っているようだった


「(龍香さん……)」


隣のベッドに視線を向けると、龍香が静かに眠っていた。彼女もまた、昨日の戦闘で負傷し、入院することになったのだ。盾を構え、悠斗と里音のために敵の攻撃を受け止め続けた。その負担が大きかったのだろう


「……ありがとうございました」


小さく息を吐きながら、里音は枕に背を預ける。戦闘の記憶が鮮明に蘇る。ザフィロナとの死闘。龍香が囮になり、悠斗と共に隙を突いた。しかし、ザフィロナの必殺技「テンペストエッジ」により、一瞬、形勢が危うくなった。だが、最終的に里音の「雷閃迅影」が決まり、敵を討つことに成功したのだった


——カチャ


扉が静かに開き、病室に訪れた人物がいた


「ちゃんと寝てるか?」


低く落ち着いた声が響く。水野鏡子だった


「……先生」


里音が起き上がると、鏡子は腕を組みながらこちらを見つめた


「無理に動くな。お前はまだ休むべきだ」


「……私は大丈夫です。それより、悠斗は?」


「アイツなら別の部屋で休んでる。大した怪我はしていないが、疲労が蓄積しているからな。医者には念のために診てもらってる」


「そう、ですか……」


里音は安堵の息を吐く


「龍香さんは?」


「さっき医者が様子を見に来たが、しばらくは安静が必要だな。お前と違って、ほぼ防御に徹していたからダメージが蓄積してる」


鏡子は龍香を一瞥する。彼女は穏やかな表情で眠っていた


「そうですか……」


「確かに気になるかもしれないが、お前も、回復を優先しろ」


「……わかりました」


そう言いながらも、里音の胸には不安が残っていた


コンコン


静かな病室の扉が、ノックとともに開いた


「姉上、里音、大丈夫か?」


聞き慣れた優しい声が響く。白羽愛奈だった。その後ろには、明るい笑顔を浮かべた飛鳥鈴音もいる


「二人とも、大丈夫なのか?」


「……はい、大丈夫です」


「お姉ちゃんは?」


鈴音がベッドの方へ歩み寄り、眠る龍香の顔を覗き込む


「龍香さんはまだ寝てるみたいです……昨日の戦いで、一番ダメージを受けたので」


「そっか……」


愛奈は静かに息を吐く。


「それで、二人とも何しに来たの?」


「鈴音たち、今日退院するんだ!」


鈴音が明るく言った。


「えっ、もう退院?」


「うん! まだちょっと痛むけど、先生が『もう問題ない』って」


「よかったです……」


里音は胸をなでおろした。


「でも、二人の傷は結構深かったんじゃ?」


「大丈夫です。私はもう動けるし」


愛奈は落ち着いた表情で答えた。


「それに、私たちが入院してたら、いつインデックスが襲ってくるかわからないし」


「そういうの、無理しすぎって言うんですよ」


「ふふ、心配してくれてありがとう、里音」


愛奈が優しく微笑むと、鈴音が楽しげに声を上げる


「それに、せっかく病院にいるんだから、もうちょっと休んでた方が楽でしょう?」


「お前は病院を宿泊施設か何かと勘違いしてないか?」


「えー? だって、ご飯も出るし、寝てるだけでいいし~」


「……呆れる」


里音がため息をつくと、鈴音は笑いながら肩をすくめた


「でも、本当に大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫! それより、お姉ちゃんにも退院するって伝えておいてね」


愛奈と鈴音は軽く手を振ると、病室を後にした


「もう……ほんと……」


里音はそう呟きながらも、どこか嬉しそうだった




「ここでいいか…」


悠斗は、病室をこっそり抜け出し、静かな屋上の片隅に身を潜めていた。風が心地よく肌を撫でるが、今の彼の心には、それを感じる余裕はない。コントラクト・コードの画面を見て、ダイヤルを押す


『サモン・ザフィロナ』


最後の数字を押し込むと、次の瞬間、眩い光が周囲を包んだ


「あれ? ここどこ?」


光が収まると、目の前には見慣れた黄緑の髪が揺れていた。ザフィロナ(人間態)が驚いたように辺りを見回し、次いで悠斗を見つけると、ぱっと表情が輝いた


「あっ、マスターじゃん! もう〜、久しぶりすぎるよーっ!」


彼女は勢いよく飛びつこうとするが、オーマはすぐに手を前に出して制止する


「おいおい、いきなり飛びつくなって……ここ病院の屋上だから」


「へ? びょーいん? ……ってことは、マスター、怪我してるの!?」


顔を覗き込むザフィロナ


「大したことないさ」


悠斗は少し申し訳なさそうに目を伏せた。ザフィロナはしばらくじっと彼を見つめた後、フワッと微笑んで悠斗の頭に手を伸ばす


「ふぅん……じゃあ、頭ナデナデしてあげる!」


「はぁ!? おい、やめ——」


「よしよし、マスターよく頑張ったねぇ〜」


彼女はまるで犬を撫でるかのように、優しく、しかし遠慮なく悠斗の髪を撫で始めた


「っ……やめろってば!」


悠斗が顔を赤くしながら抵抗するも、ザフィロナは悪びれる様子もなくクスクスと笑う


「えへへ、だってマスターが寂しそうな顔してたからさ♪」


その言葉に、悠斗は少しだけ目を見開いた。彼女はお調子者のようでいて、誰よりも周りをよく見ている。悠斗が何を考えているのか、何を感じているのか——そんなことを、あっけらかんと見抜いてしまう


「……ったく、お前は相変わらずだな」


ふっと息をつくと、彼はようやく力を抜き、頭を撫でられるがままにした


「うん! それが私だからね♪ で、どうするの? せっかく私を呼び出したんだから、なんか楽しいことする?」


「……お前に、聞きたいことがある」


ザフィロナは興味深そうに首をかしげた


「聞きたいこと? うーん、私の好きな食べ物? それとも好きなポーズ? あ、やっぱり好きな——」


「ふざけるな」


悠斗の真剣な声が、ザフィロナの軽い冗談を遮った。彼の目は揺るぎなく、深刻な色を帯びている。彼がこんな顔をする時は、本当に大事な話をするときだ


「……ごめんごめん。じゃあ、ちゃんと聞くね?」


悠斗は小さく息を吐き、ゆっくりと語り始めた


「……最近のこと、覚えてるか?」


「最近のこと?」


ザフィロナは首をかしげながら、指を顎に当てて考え込む


「んー……私はずっと拠点にいたし、特に変わったことは——」


「覚えていないのか、此処が何処で何をしていたか?」


「どういうことですか?」


悠斗は説明する。今いる世界の事、妖魔軍団インデックスが何をしていたのかを……そして


「お前は俺に襲って来て、戦ったんだ」


「えっ……?」


彼女の表情が固まった。冗談を言われているのかと一瞬思ったが、悠斗の目が真剣だと気付き、笑みが消えた


「待って、それどういうこと? 私がマスターと!」


「信じられないかもしれない……でも、実際に戦ったんだ。お前は俺を襲ってきた……『あなたが賢者様が言っていたターゲットね!早く私と戦おうよ!!』と言って」


ザフィロナの目が驚愕に見開かれる


「……うそ……」


彼女は両手で頭を抱え、何かを思い出そうとするかのように目を閉じた。だが、何も浮かんでこない。ただ、ひどく不安な感覚だけが胸を締め付けた


「覚えてないのか?」


「うん……まったく……」


彼女は小さく首を振る


「ドゥルガニスと同じか…」


「ドゥルガニス!!まさかドゥルガニスも」


「お前と同じように襲って来て、戦い、俺が勝った……今は手を貸してもらっている」


ザフィロナの頭は混乱していく。自分がそんなことをするはずがない、でもマスターが嘘をつくはずもない。頭の中がぐちゃぐちゃになっていく


「そ、それって……本当に私だったの?」


「ああ。見間違えるはずがない。俺は、お前と戦った。……そして、お前は俺に負けた」


ザフィロナはぎゅっと唇を噛みしめた


「そっか……私、マスターと戦って……負けたんだ……」


彼女の声は震えていた。自分の記憶のないところで、マスターを傷つけようとしていたかもしれない。その事実が、彼女を不安にさせた


「だから、聞きたい。お前を操っていた何者かについて、何か心当たりはないか?」


ザフィロナは必死に考えた。だが——


「……ごめん、マスター……何も思い出せない……」


悔しそうに俯くザフィロナ。オーマは彼女の肩にそっと手を置いた


「そうか……」


悠斗は静かに息を吐き、ザフィロナを見つめる


「他の仲間とも、いずれ戦うことになるだろう」


その言葉に、ザフィロナは顔を上げた


「……え?」


その言葉にザフィロナの表情が苦しげに歪む


「そんなの……嫌だよ……! だって、みんな家族みたいなものなのに……!」


悠斗はザフィロナの肩にそっと手を置き、静かに言った


「止められるのは俺たちしかいない」


ザフィロナは息を呑んだ。悠斗の言葉は冷静で、だけど迷いのないものだった


「だから、ザフィロナ。お前の力を貸してくれ」


彼の言葉は、まっすぐに彼女の胸に響いた


「……もちろんです!」


彼女は迷うことなく答えた。その瞳には、決意の光が宿っていた。そして、膝をつき、ゆっくりと胸に手を当てると、誇り高く言葉を紡ぐ


「翠嵐の斬舞ザフィロナ!風のごとく軽やかに、そして嵐のように鋭く! すべてを切り裂く風となり、マスターの道を拓く! ……だから、もう一度言うよ」


強い風が、まるで彼女の決意に呼応するように吹き抜ける


「マスター。私はあなたに忠誠を誓う!」


「(……ありがとう、ザフィロナ)」


これで、また一人——信じられる仲間が戻ってきた


「……だから……」


言葉を区切るように、彼女は小さく咳払いをする


「あの……その……頭、撫でてくれない?」


一瞬、耳を疑った


「……は?」


「だって、マスターに忠誠を誓ったんだから、ナデナデのご褒美ほしいなーって♪」


ザフィロナはいたずらっぽく笑いながら、少し身を縮めるようにしながら悠斗の前に立つ


「はぁ~…」


悠斗は眉間に手を当て、ため息をついた


「……お前なぁ……さっきまでシリアスな雰囲気だったのに、台無しだろ……」


「えへへ♪ だって、忠誠を誓ったし! それに、マスターに撫でられるの……好きだから……」


彼女は少し頬を染め、照れくさそうに視線をそらした


しばらく考えた後、やれやれと小さく息を吐く


「……しょうがないな」


そう言って、彼はザフィロナの頭にそっと手を置いた


「ふにゃ……♡」


悠斗は無言のまま、優しく撫でる。ザフィロナの黄緑色の髪は、風になびく草のように柔らかかった。ザフィロナは目を細め、気持ちよさそうに喉を鳴らす


「ん~……マスターの手、あったかい……♪」


まるで忠犬のように甘えるザフィロナに、悠斗は苦笑する


「お前さ、ほんとに大丈夫なのか?」


「大丈夫だもん!」


ため息をつきながら、それでも手を止めずに撫で続けた。確かに、彼女はふざけた態度をとることが多い。しかし、その本質は間違いなく強い。忠誠心があり、仲間を大切にする。それが、ザフィロナなのだ


「これで満足?」


しばらく撫でていると、ザフィロナは満足したのか、名残惜しそうにしながらも一歩下がった


「ありがと♪ これで、戦う元気がいっぱいになったよ!」


「……そんなもので元気になるなら、安いもんだな」


そう言いながらも、どこか安心していた悠斗であった

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