〜溢れ出る濁流〜
強襲作戦が開始された─
鬼黒神敬司は中隊長として、
また─
1人の戦士として、
難攻不落の要塞へと、挑む─!!
月夜に照らされた戦場は、
攻略せんと目論む者達を、歓迎してくれるのか─!?
Wall Riran強襲作戦開始から、40分経過─
時刻は23:30を迎えていた。
着実に、一歩ずつではあるが、敵の拠点と思われる場所へと近づいていた。
周りからは、ザッザッザッと歩調を合わせ歩く音だけが聞こえ、綺麗な月に照らされながら敵の本拠地を探し、静けさは嵐の前を予感させるかの様に、中隊員達は皆、無口であった。
無線からはノイズの様な音が、たまに聞こえる程度で気に止める様子もなく、進軍を続けて行く。
だが─
そんな静寂を嫌うかの様に、無線が突如鳴り響く。
無線の主は、右翼に展開中のテインズ少尉からであった─
『敵と思われる姿を発見!また、付近に複数の火薬の匂いがする!もしかしたら、地雷源があるかもしれない。これより慎重に進む!左翼や中央も気を付けてね。』
いつも通りの元気な声で、それでいて、仲間にはしっかり聞こえるように、心配をかけまいと精一杯明るく振る舞っているのが、わかる。
テインズ小隊の方がトラップだとすれば、左翼はどうだろうか?
レイノルド中尉からは、何も無線がない。
まだ索敵をしながら、何も発見出来ないのであろうか。。
そんな事を思いながらも、了解!気を付けて進め!と、無線を返す鬼黒神中隊長。
そんな中、数発の銃撃音が左翼側から聞こえ、そちらに向き直り、警戒を強める。
それが合図になったかの様に、決壊したダムから水が溢れ出すかの如く、無線があちこちから鳴り始める。
『コチラ、左翼レイノルド。接敵したと思われる。数名が殺られた。撃たれた場所、方角に関してはまだ、分からない。索敵を続行する。』
そんな無線が聞こえた直後に、右翼側から爆発音が聞こえて来る。
テインズ少尉は無事だろうか─?
しかし、
今は、心配してる余裕などない。
無事だと、信じよう─
そう心に決め、敵に対して警戒を強める鬼黒神。
だが─
レーダーを見ても、敵の反応は全くなかった。
いつもなら、レーダーに熱源だけでも…
いや─
動物が居ただけでも、サーマルに反応するはずだ!
なぜ、反応がないのか─?
考えても答えは見えず、そんな中でも右翼からは爆発音が、絶え間なく聞こえて来る。
混乱した脳内を無理やり抑える様に無線を握りしめると、部下の安否を確認する為に、叫んでいた。
『テインズ少尉!無事か!応答せよ!応答せよ!』
鬼黒神中隊長の叫びに反応する声はなく、右翼側からの爆発音が、終わりを迎える。
テインズ小隊は、殺られた!と、言う事を示していた。
鬼黒神は、内心後悔していた─
これはエルドを誘い、エルド中隊と合同で立ち向かうべきであった、と。
自分達だけでは、負けるかもしれない。
だが─
何かを悟った所で失った部下の為にも引き返す訳にも行かなかった。
ココで何も成さずに引いては、ドニー中将にも顔向けが出来ない!
ましてや、
まだ生きている部下たちの背中を、守ってやらなくてはならない!
今は中隊長として、1人でも多く基地へ帰還させなければならない─!!
そんな想いに駆られる鬼黒神。
その為には、何が出来るのか─?
そんな悩みや迷いを打ち消すかの様に、前方を進むホワイト少尉からも、悲痛な叫びの無線が飛ぶ。
『中隊長!聞こえますか?それより前に進んではいけません!罠です!コチラは……』
無線の途中で、声が途絶えた。
そんな、信頼する部下の途切れた無線に、耳を傾ける余裕などなかった。
鬼黒神の前方から、無数の銃弾の雨が降り注ぐ。
咄嗟に前方にあった岩場に身を隠したものの、周りや後ろでは部下達が、歓迎されぬ凶弾に倒れていった。
どこから攻撃を受け、どれだけの人員がいて、どうしてコチラの位置が、こんなにも正確にバレて居るのか。。
鬼黒神は、珍しく混乱していた。
今までどんな苦境であろうと、部下達の希望であり続ける為に、常に最前線を歩き、部隊や友人、上官の為にも体を張り続けた。
そんな男の元に集まった、”最強"と、呼ぶに相応しい部下達が、簡単に殺られている現状を理解出来なかったからだ。
どうすれば?
何をすれば?
普段は極めて冷静沈着な鬼黒神敬司と言う男は、そこにはいなかった─
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─23:30前線本部。
中隊が進軍を開始してから40分。
時間経過と共に、パソコン画面とにらめっこをしながら、自らの腕時計に目を落としながらそろそろかな?と、思案していたユーラ少尉はパソコンに刺さっていたUSBメモリーを引き抜くと、数名いた隊員の1人に声を掛けた。
『そろそろPhase-Ⅱに移行するわよ。コチラに切り替えて頂戴!』
渡された隊員は、手早くUSBメモリーを差し替えた。
そう─
何の疑いもなく…、迷いもなく。
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─23:30基地内車輌倉庫前。
『エルド中隊長!そんな軽装備で、しかもこんな時間にどちらに?』
整備班を無理やり駆り立て、整備を終えたばかりの装甲車に乗り込もうとするエルドを、男が呼び止める。
トネル小隊の面々だった。
先程まで、麻雀を打っていたメンバーでもある。
─トネル・ラード少尉。
エルドの右腕とも称される男。
彼の周りには筋肉をこよなく愛する者達が集う。
鍛えればなんとでもなり、筋肉は全てを解決してくれると信じる、脳筋教の1人。
『今は説明している時間はない!装備を整える時間もな。来るならば、命令違反を覚悟する事だ。』
早口でまくし立てると、そのまま乗り込むエルド。
それに続く様に、違反なら処罰は一緒に受けましょうや!と、明るく笑いながら乗り込むトネル小隊の面々。
『で、隊長の目的地はどこで?』
ちゃっかり運転席に腰を掛けていたトネル少尉。
彼の運転技術は、部隊内でもトップレベルだった。
詳しく説明している時間はなかった。
手早く中将から受け取った資料の中から1枚の地図を抜き取り手渡すと、ラジャー!と、言うトネルの声に合わせ、轟音の様なけたたましい音を立て、装甲車は走り出していた。
何事もなければそれで良いのだ─
どうか、無事でいてくれ!
どうか、間に合ってくれ─!
そう願わずにはいられない、エルドであった─
鬼黒神敬司に突然降りかかる、銃弾の雨─!
虫の知らせを聞き、
救援へ向かおうとする、エルド!
果たして、彼らの運命は─!?