〜決戦の合図〜
難攻不落と言われた要塞、
Wall Riran強襲作戦まで、あと僅か─!
迫り来る最強の敵を前に、鬼黒神は何を思うのか─
【目標接近!降下地点!降下始め!】
大型輸送機内の静寂を切り裂く様に、ブザーが鳴るや、艦内放送が響き渡る。
輸送機の後部ハッチが開けられ、いかにも手慣れた様子で、続々と降下を開始して行く鬼黒神中隊の面々。
地面に降り立つや、手慣れた様子で小隊長達が指示を出し、降り立った中隊員達から順に、迅速に動いて行く。
連携はいつもながら、スムーズであった。
ユーラ少尉より、指示のあった前線本部予定場所には鬼黒神中隊長以下、小隊長のレイノルド中尉、ホワイト少尉、ユーラ少尉、テインズ少尉が揃っていた。
無線や端末を確認した所、クインシー小隊はもう間もなくで、到着しそうとの事だ。
クインシー小隊の到着前に、前線本部用のテントが張られて行く。
その一角を、いつも通りユーラ小隊が慣れた手つきで無線機やアンテナを設置し、小型探索機がいつでも発信出来る様に、用意をしていた。
その一方で鬼黒神中隊長とレイノルド中尉、ホワイト少尉が最後の会議に入っていた─
いつもながらホワイト小隊が先頭で出発をし、その後ろから、鬼黒神中隊長を中心としたユーラ小隊が続く。
最前線はこの2個小隊で索敵をしながら右翼にテインズ小隊・左翼にレイノルド小隊が展開をしつつ距離を詰め、クインシー小隊が接敵した相手に対しての、爆撃やサポートをする為、少し距離を置いて中央より続いて行く。
いつも通りの布陣で行くように!と、指示が出る。
鬼黒神中隊長が前線に行くのはいつもの事だ─
指揮官が前線に居なければ前線の指示が出来ないのと、前線本部との連絡を速やかに取れないのと、混乱を防ぐ目的があると、常々語っていた。
最後の会議が終わろうとする頃、陸送にしては予想よりも早かったクインシー小隊が、到着した。
手慣れた様子でクインシー小隊は、それぞれのミサイル車輌を用意しながら、前線へと向かう準備を始めた。
『では、出発!武運を祈る!貴様ら!生きて帰還せよ!』
今回の強襲作戦に関わる全隊員が揃った事を確認すると、鬼黒神中隊長からの出発前に、最後の声掛けが行われる。
その命令に静かに敬礼で応えると、ホワイト小隊、テインズ小隊、レイノルド小隊がいつも通り、自分の持ち場を確認しながら、展開して行く。
その後ろを中隊長を中心にした、ユーラ小隊も出発して行った。
クインシー少尉はと言うと、小隊員全員を前に行軍開始させた後に、周りには気付かれない様に、そっとユーラ少尉に近づく。
『決行の合図は任せるよん♪』
周りに聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で、それでいて、ユーラ少尉だけにはハッキリと聞こえるように、呟いた。
その言葉に、ユーラ少尉は静かに頷く─
声を掛けた後に、クインシー小隊長が前線本部を後にした。
いつもながら、サポートをする為に前線本部に残るのは、ユーラ少尉と数名の支援班だけだった。
その数名の支援班にレーダー監視を指示しつつ、自らも、愛用のパソコンに目を落とす。
サポートの為に残るとはいえ、やる事は山積みだった。
予測とどの程度違うのか、また新たな問題が発生していないかを常にモニタリングしながら、無線にも耳を傾けなければ、ならなかったからだ。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
─鬼黒神中隊が進軍を開始した同時刻。
effeuiller基地内
『クソっ!なんてこった。』
エルドは、自らの中佐室にていつも通り、自らの中隊員達との麻雀を楽しんでいた。
いつものエルドなら、最後に必ず勝ちを持って行くものだが、この日のエルドは全くというほどついていなかった。
何をしても、負け続けていた。
どんなに良い配牌が来たとしても、部下に上がられてしまう。
対局途中には、いつも首からぶら下げていた、ケイジから貰った【オマモリ】とか言う物の、紐が切れた。
挙句に、コーヒーを飲もうとしたら、お気に入りのカップの取っ手すら取れた。
なぜ今日はこんなにもついていないのか─
不思議でしかなかった。
ケイジの部隊は、上手くやっているだろうか─
ふと、そんな事が頭の片隅をよぎり、また負けた。
今日はついていないから、辞めだ!と、叫ぶ。
いつもなら必ず長時間、あわよくば徹夜で麻雀をするエルドも、この日ばかりはついていない事を理由に、早急に辞めた。
一緒に遊んでいた隊員達も、心配そうな顔をしながらも、珍しい事もあるもんだと言われた。
だが─
そんなついていない事よりも、変な胸騒ぎがした事の方が問題だった。
隊員達を中佐室から帰らせると、整備班に連絡を取り、今から出せる車輌や戦闘機、輸送機、なんでもいいから今すぐにでも出せる物があるかを、確認する。
受話器の向こうの整備班から告げられた答えは、今から整備をしたとして、1番早くとも30分後になると言われた。
今すぐに行く─!
受話器に向かって叫び、荒々しく受話器を叩き付けこの悪寒を、気持ち悪さを、いち早く払拭させたいが為に、エルドは車輌倉庫へと急ぐ事にした。
装備など、最早どうでも良かった。
ケイジ、死ぬんじゃないぞ─!
そう呟くと、エルドは軽装備ではあるが、お気に入りのマグナムを取り出しホルスターにねじ込み、そのまま自室から走り出していた。
今はまだ、死ぬ時ではない─!
走りながら、自分の思い過ごしである事を神に祈りつつ、倉庫へと向かっていた。
遂に、決戦のゴングは打ち鳴らされた!
鬼黒神中隊の、命運は─!?
エルドの直感の行方は─!?
次回の展開も、お楽しみに。