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Wall Riran  作者: 中草 豊
7/12

〜蛹(さなぎ)の行く末〜

戦場へと向かう戦士たち。


難攻不落の要塞へと立ち向かう鬼黒神中隊。


最強の挑戦者との決戦のゴングが今、鳴らされようとしていた─。

『ねぇ~?今回の作戦で、何人倒して良いの?』


まるで、これからピクニックにでも行くかの様な、普段通りの明るい声で、ユーラ少尉に尋ねる女性。


テインズ少尉だ─


見た目は小さく、最強と言われる部隊には全く似つかわしくない風貌(ふうぼう)をしている。


だが─

鬼黒神中隊の小隊長の、1人であった。


部隊の中でもかなり人気が高い方で、ファンクラブが密かに出来ているとの噂も立つ程に、可愛らしい感じの見た目ではあるが、その嗅覚(きゅうかく)はおおよそ、人の物ではない。


人の匂い、獣の匂いはもちろんガソリンや軽油、火薬の匂いまで正確に嗅ぎ分ける力を持つ。


彼女が居なければ、隠れた敵にやられた味方は少なくないだろう。


戦闘面においても銃火器を取り扱う以外は()けており、ナイフを主な武器として戦い、投げたとしても正確に相手を射抜くだけの力は持っていた。


『好きなだけどーぞ。』


まるで玩具を買い与えるが如く、いつも通り冷静に、極めて冷たく感情のない声でユーラ少尉は答えた。


今はそれどころではなかった─


作戦資料を全て頭の中に叩き込み、どこに前線本部を置いて、どこから攻め入り、どの様に敵を惑わして行けば良いのか…。


その為には、カメラや小型探索機の準備もやらねばならなかった。


彼女の仕事は、中隊の安全確保や索敵の範囲内におけるレーダー監視、更にはミサイルの着弾予想なども任されていた。


それを、到着前の時間で全て完璧にこなし、部隊の安全を導いている影の立役者でもあった。


そんな大切な時間を、邪魔されたくはなかった。


『じゃあ、今日の戦闘は夜間だから、たくさん殺れるね♪』


毎回思うのだが、テインズは普段はポンコツと言われるに相応しい─


銃を持たせれば、セーフティロックをしたまま引き金を引いたり、間違えてグレネードのピンを抜いてみたり、料理を作らせればボヤ騒ぎを起こしてみたり。。。と、話は尽きないが、戦闘に出る前には無邪気な子供の様に、はしゃいでいる。


しかし─

鬼黒神中隊や部隊にとっては必要不可欠な力を持っていた。


そんなポンコツ小隊長を支える、テインズ小隊の頭脳とも言うべき男が、ネイサン・リント曹長であった。


─ネイサン・リント曹長。

冷静沈着であり、どんな時でも笑顔を見せない。

彼の笑った顔を見る事は、ツチノコを見るよりも(まれ)と言われる程だ。


また、テインズ小隊長には絶対服従を誓っており、何か問題が起こる度にスグに駆けつけ、事後処理をしている。


戦場においてもテインズ小隊長が見つけた敵を、いち早く処す事を最大の目標に掲げる男である。


余談ではあるが、テインズ少尉のマネージャーとも影で呼ばれていた。


『テインズ小隊長殿はこれから戦場へ行くと言うのに、いつもいつも元気でいらっしゃる。とても良い事だ。』


テインズ少尉の明るい声を聞き、半笑いの様な笑みを浮かべながら愛用の6オンスのスキットルを口に運んだ男がボソッと呟く。


ラオ・ソン曹長であった─


─ラオ・ソン曹長。

普段はおちゃらけた雰囲気で場を和ませるアジア系のハーフの軍人。


ふざけた雰囲気で、マジメな部隊員からは毛嫌いされる事もあるが、仲間思いで面倒見の良いユーラ小隊の隊員である。

ユーラ少尉の、右ハイキックの最初の犠牲者も彼であった。


そんな、ラオ曹長の言葉を聞くや、ムッとした表情になり、一瞬腰が浮きかけたのだが、テインズ小隊長に足をポンポンと叩かれ、その場に座り直したネイサン曹長。


彼が怒るのは無理もなかったが、これから同じ戦場へ行くのだから、仲間割れなどしている場合ではない。。と、言う事を、何も言わずとも受け取ったネイサン曹長。


出発してから騒がしかった輸送機の中でも、1人無言でパソコンを睨みつけ、カタカタと常に手を動かしているユーラ少尉から、出来たから端末を確認しておいて!と、声が掛かる。


鬼黒神中隊全員が持った、共有の出来る携帯端末には、敵拠点のおおよその場所や、強襲する際のそれぞれの侵入ポイントが示される様になっていた。


コレが出来たと言う事は、もう敵の拠点や前線本部の予定地は近いと言う事だろう。


それを見ながら緊張する者、談笑する者、様々だが今回の作戦としての、任務は変わらなかった。


()()()()を討ち取る─!


この、1点のみである。



┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈




─出発から2時間後の基地内。


おかしい。

2時間経過したはずなのに、後発の輸送機が出ようとしない。


イライラした様子で、部屋の中を動き回る男。

ドニー中将である。


自らのデスクから滑走路を見下ろし、大型の輸送機が2機飛び立つのは見た。


2個中隊が出るにしては、あまりにも少なすぎる。それから時計に目をやり、曖昧に時間が過ぎるのを待った。


だが─

我慢の限界を迎え、整備班へと連絡を入れる。

部下に連絡をさせる手間すら、もどかしかった。


『後発の輸送機は何時に出るか?』


中将からの直接の連絡を受け取った受話器の向こうの整備班は、驚き、たじろいだがスグに返事が帰って来た。


鬼黒神中隊しか乗っておりません。。と。


その答えに戸惑い、何度も確認したがエルド中隊は出る予定がないと言う…。


なぜだ─!


私の命令を聞かないとは…。

鬼黒神中隊だけでも、任務遂行には支障はないだろう事は、中将自身も感じていた。


だが─

なぜ命令違反をしたのか…。


あの、きかん坊達め─


考えればわかる事だった。


あんな納得の行かない表情をした2人が、素直に言う事を聞くわけもないか─


ケイジとエルドをよく知るからこそ、ある程度の理解を示し、今まで多少の違反には目を瞑って来たからこそわかる、親心の様な物を感じていた。


無事に任務を達成し帰還した際には、ケイジとエルド(大きな息子たち)を叱りつけてやろう。。


そう思いながら受話器を置くと、ケイジからの連絡を待つことにした。


そう─

彼なら、どんな任務であろうと必ず遂行するはずなのだから。

強襲作戦の為に出発をした、鬼黒神敬司。


ピクニックにお出かけするかの様な、楽しく、騒がしかった時間も終わりを迎えようとしていた。


攻略まで、残り僅かに迫る─!


一方、基地内で吉報を待つドニーもまた、

苛立ちを隠せない様で……

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