〜旅立ち〜
強襲作戦への準備を進める中で、
鬼黒神には、拭いきれない不安があった。
その不安を取り除く為には、ユーラがいれば─
刻々と過ぎる時間を思いながら、強襲作戦の開始を遅らせる訳にもいかない─!!
effeuiller基地・鬼黒神中隊長室
『中隊長殿!!準備完了しました!』
背筋を伸ばし、直立不動のまま鬼黒神中佐の前に立つレイノルド中尉、ホワイト少尉。
思ったよりも早かったな─
と、呟きながら、自らのデスクに座り報告を聞く鬼黒神中佐。
レイノルド中尉、ホワイト少尉を交互に見ながら、クインシー小隊とユーラ小隊はどうなった?と、尋ねた。
中将からの話を聞き、準備を指示してから3時間─
先程の、レイノルド中尉からの報告から2時間は経過していた事もあり、中隊全体での進捗が知りたかった。
鬼黒神中隊長からの質問の意図を汲み取っていたレイノルド中尉からは、中隊全体での準備が完了した。と、言う報告であると言われた。
無論、クインシー少尉とユーラ少尉に関しても帰隊しているとの報告を重ねて受けた訳だが─
良い報告だ─!
コレで強襲作戦を開始出来る!
内心喜んだ鬼黒神ではあった。
しかし─
鬼黒神は出発前にどうしても腑に落ちず、どう考えても答えに辿り着けず、迷路の中に迷い込んだかの様に、決めかねてる事があった。
『ユーラ少尉を呼んで貰えるか!』
レイノルド中尉に指示を出すと、座っているイスを回転させた。
鬼黒神自身の獣の様な感もそうなのだが、本能的な部分で、軍人としての今までの経験で、どこから攻略をするべきかを、直前になった今になっても、決めかねていた。
鬼黒神にとって、これ程悩む事も少ない─
原因はわかりきっていた。
相手の拠点と思われる場所の情報が、あまりにも少なすぎる!
そうなのだ─
周りに囲まれた山々にしても、どこかに隠された入口があるかもしれない。
洞窟もあるかもしれないし、突然現れる絶壁の様な場所もあるのかもしれない。
拠点の大きさに関しても、どの程度の物なのかまでは、ハッキリわかっては居なかった。
おおよその大きさや、おおよその位置に関しては中将からの情報で、なんとでもなるだろう。
そう言う意味での2個中隊派遣と考えれば、納得は出来る。
だが─
今更ながら、エルドに準備を開始して欲しいとは言えない。
しかし─
ユーラ少尉の力を持ってすれば、その不確定要素が大幅に減るだろう。
とにかく今は、少しでも不確定要素を取り除いておきたかった。
時間が、もう少しあればな─
紛れもない本音だった。
そんな迷える鬼黒神を見ながらも、ホワイト少尉は何も言わず、ただ直立不動のまま待っていた。
鬼黒神が自らのデスクでそんな事を考えていると、ノックが聞こえ、ユーラ少尉とレイノルド中尉が入って来た。
『中隊長!お呼びですか?』
いつも通りの事ながら左脇にパソコンを抱え、鬼黒神の前に立つ。
中隊長室へ来る際に、レイノルド中尉からある程度の話は聞いて来たと言いながら、パソコンと向かい合うと何が分からないのかを手短に、それでいて的確な質問をしながら、その画面に色々打ち込み始めた。
いつも思う事なのだが、彼女が扱うパソコンのモニターにはよく分からない文字や、記号や文字列が並んでいた。
2分程でパソコンのモニターを中隊長に向け、差し出す様に見せたユーラ少尉が持つパソコンには、おおよその大きさや、おおよその位置として、それまで朧気でしかなかった情報が、しっかりとした位置情報として、映し出されていた。
『ユーラ少尉なら、どこから攻める?どこを攻略ポイントとする?』
素朴な疑問をぶつけてみる事にした。
情報処理や、ハッキングを生業としていた時期もある、プロとしての彼女の意見が聞きたかった。
自らの軍人としての直感や経験を踏まえた所で、おおよそのポイントは、目星を付けていた。
しかし─
プロの観点からの、意見を聞きたかった。
ユーラ少尉からの意見を聞きつつ、最終的な作戦としてのポイントを記したプリントアウトを頼み、小隊長に配布をする様に指示を出す。
プリントアウトと聞き、一瞬ではあるが眉にシワを寄せると怪訝そうな顔をしたユーラ少尉。
だが─
小隊長のみと聞いて納得をすると、用意をしてくれた。
その用意されたばかりのポイントの記された用紙を見ながら40分後の出発時間を伝え、中隊全体に対して招集命令を出すと、自らも装備を整えていく。
今宵の強襲作戦では、どの様な敵が待っているだろうか─
1つ1つ装備を確認しながらも、鬼黒神は自身のまだ見ぬ強敵に対するワクワク感は不安よりも勝っていた。
中隊全体においても、僅か25分程で準備を終わらせると、用意されていた輸送機2機に分乗して乗り込む事にした。
鬼黒神中佐と、レイノルド小隊と、ホワイト少隊が同じ先発の輸送機に。
もう1機、後発の輸送機にはユーラ少隊と、テインズ少隊が乗り込んでいった。
クインシー小隊はいつも通りの陸送で向かう事にして、軍用車輌へと分乗すると、ミサイルを積んだトラックを伴いながら移動を開始する事に。
輸送機内でも無線による最終的な打ち合わせをしながら、また、クインシー少隊とも道中で連絡を取ることにしながら、集合場所となるポイントを決めると、それぞれが続々と基地を出て行った。
難攻不落と言われた要塞、Wall Riran攻略まで、残り数時間─
必ず戦果を上げ、良い報告を土産にしてやる!
と、強く誓った鬼黒神であった。
遂に─!
難攻不落の要塞と言われた、Wall Riranへと出発を開始する鬼黒神。
胸に去来するまだ見ぬ強敵へのワクワクと、一抹の不安。
彼らは、果たして攻略する事が出来るのだろうか!?