〜未来への讃歌〜
強襲作戦は、バレていた─!?
見えない敵を前に、鬼黒神敬司は難攻不落の要塞を目前にしながら、何を想う─!?
ケイジを想い、嫌な汗の正体に気付いたエルドは、果たして、、、間に合うのか─!?
ふと時計に目を落とすと、時刻は0:35になろうとしていた。
細心の注意を払い、周りを確認し、充分な索敵を繰り返しながら、前に進んだ。
敵の影はおろか、動く物は見えなかった。
隠れていた岩場から、200m程進んだろうか。
鬼黒神敬司は、拠点が闇の中にぼんやりと見える位置までは、来ていた。
部下達の死体の山を乗り越え、やっとここまで辿り着いたのだ。
拠点の中に入ってしまえば、敵の指揮官を殺るだけの任務である。
おおよその地図は、頭の中に入っていた。
もう、後ろを振り返ってなどいられない。
今は前に進まねば─
そんな事を思いながら周りを確認するや、今一度警戒する。
今、敵に見つかる事は絶対に、避けねばならない。
だが─
そんな鬼黒神にとって、予想外の事が起こる。
突如として、どこから飛んで来たかわからない、爆撃を受けたのだ。
『敵はもう、目前だ!!総員!生きてるか!』
頭の中が一瞬混乱し、パニックに陥った鬼黒神は生きている隊員が、自分の他に1人でもいる事を信じたかったのかもしれない。
しかし─
無線に向かって叫ぶ声だけが闇に吸われ、虚しく響いていた。
『生きている者は、順次応答せよ!!!』
更に、無線に対して叫び続ける。
だが─
応答はない。。。
もう自分しか生き残っていない。と、言う受け入れがたい現実と、今まで積み上げて来た栄光と、歯車としての自分の使命は、ここまでなのだと悟った。
『くそ!ぬかった!』
ふいに出た言葉。
考えてもみれば、簡単な事だった。
我々最強と謳われた部隊が、そんな簡単に崩壊するはずもない。
裏切り者がいたのだ─!!
主犯は誰だろうか?
何か不満があったのだろうか?
色々な感情や言葉が頭を駆け巡る。
だが─
考えても、理由はわからなかった。
いわば、クーデターに巻き込まれたと言っても良いだろう。
クーデターを起こした首謀者にはどんな形であれ、一発お見舞いしてやらなければ中隊長としても、1人の男としても、気が済まなかった。
『誰でも良い!応答せよ!!』
再び叫ぶも、やはり応答はなかった。
たった1人でもやってやろう─!
そう心に決め、辺りを見回しながら拠点の場所を確認し、もしも反逆者が応答してくれれば…と、僅かばかりの期待を込めて、再び無線を怒鳴りつける。
『応答…』
最期は叫ぶ間もなく、付近に落ちたミサイルの爆発に巻き込まれた。。。
鬼黒神敬司。
最強と言われた部隊effeuiller中佐。
部下達を想い、部下達の為に生き、自らの強さを追い求めた男。
最強の士官。。。。
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0:33─
前線本部。
もの凄いブレーキ音と共に、装甲車が1台砂煙を上げて止まった。
エルドと共に、トネル小隊の面々が装甲車から駆け下りて来る。
だが─
いつもはそこにいるはずの、椅子に腰掛けながらパソコンを操作しているユーラ少尉はおらず、本部のテントの中には支援班数名が、居るだけだった。
『ユーラ少尉はどこに行った!前線は、どうなっている!戦況は?』
もの凄い剣幕でまくし立てると、隊員全員が装備している、そこにある無線を、もぎ取って叫んだ。
そんなエルドの様子を見ながら、前線本部に残る支援斑は何も言えず、呆然と立ち尽くすのみだった。
『ケイジ!生きているか!生きていたら、応答しろ!』
無線機に叫んだ直後に、前方での爆撃。
ケイジが危ない─!
そう直感で脳が告げるのに、時間は要らなかった。
だが─
無線の応答は、ない。
なぜ、届かないのか─?
苛立ちを最大限抑えながらも、無線を握るその手は離さないまま、目だけをキョロキョロと、動かす。と、ある場所で目が止まる。
目に止まったのは普段では見慣れない、無線機に刺されたひときわ目立つ、赤々と光っているUSBメモリーを、なんの迷いもなく引き抜いた。
だが─
それを合図としたかの様な、突然の爆発が前線本部を取り囲んだ。
逃げる手立てはない。
何とか身を屈め、飛んで来る何かの破片や石や砂利などを避けながらも、無線に怒鳴りつける。
『メーデー!メーデー!コチラ、空爆を……』
言い終わる前に、爆発音にかき消された。
なぜだ─!?
なぜ、こんな事になったのだ─!?
エルドは混乱していた。
周りの支援班や、トネル小隊の面々もどうにも出来ずに倒れて行くのを、ただ見る事しか出来ない。
『応答……』
無線の向こうで、誰かが叫んだ。
ケイジだ!
直感がそう告げると、エルドは叫んでいた。
しかし─
そんな叫びも虚しく、前線本部に降る、爆発の雨が止まる事はなかった。。。
エルドレッド・ブラハム。
最強と言われた部隊effeuiller中佐。
鬼黒神敬司と共に最強を追い求めた男。
自らの正義に従い、正義に準じた男。。。
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0:45─
Wall Riran入口前。
後から3人が合流を果たすと、難攻不落の要塞の前に7人の男女が集結し、これからしなければいけない事を話していた。
前々から決まっていた、自分達の楽園を作り上げるべく始まった『クーテーブタイ』と言う名の新しい部隊の起ち上げ。
その為に、今まで隠れて行動を起こしていたし、バレない様に、入念に準備をして来た。
難攻不落の要塞も、本音を言えばまだバレて欲しくはなかった。
今、この場に集っているのはその楽園の理念に共感し、共闘戦線を張り、前線に立ち続け、水面下で動き続けた7人の同志達。
その楽園を作り上げる為に、正直effeuillerも、鬼黒神も、エルドも邪魔だった。
しかし─
楽園を起ち上げる為には、まだ最後の大仕事が残っていた。
その仕事を遂行する為に、7人は二手に分かれると帰還する為の準備をクーテーブタイの面々と進めながら、月夜の照らす黒い空を見上げた。
輝かしい未来を、切り拓く為に。。。
クーデター。
俗に言う、裏切り。
味方と思っていた、部下達の反乱。
そんな凶弾に倒れた、鬼黒神敬司。
しかし、やるべき事を成す為には………。
今後の展開を、お楽しみに、、、