3 バースディ・プレゼント
最近強く思うこと…―――
英朗は本当に、一香と上手く付き合えていたんだろうか?
女の人の買い物ほど拷問だと思うことはない。何回目かのデートで感じたこと。一香とのデートで、三番目にコレがキツイ。
毎回じゃないから、今日は頑張ろうと決めていたけど……。やっぱりダメだ、と、思ってしまう。
「お待たせ」
とっておき、らしいワンピースの裾をヒラヒラさせて。一香は楽しそうにこっちに駆けてくる。
本当に二十五歳なのか? と、疑いたくなるようなはしゃぎよう……。
『彼と、六年ぶりの再会なんだから、仕方ないよ』
イズルの言葉が、不意に頭の中に浮かぶ。
「……」
一香は、小さな紙袋を一つ手に持っていた。
「次はこっちね!」
そう言って、そのまま次の店へ行こうとする。
ま、まだあるのか……?
午後に待ち合わせして、今の今まで、何店も何店も歩いて、また最初に見たお店へ戻って、やっと紙袋を一つゲットだ。どう考えても効率悪いだろう?
「……今度は、何を見るの?」
「ふふ……、ナイショ!」
そう言って振り返る彼女は、まぶしいくらいにキラキラとした笑顔だった。
「……っ」
普通にボクは言葉を失った。十歳のボクでも可愛いと思ってしまう。一香の無防備な、その笑顔。
そう、一瞬見とれてしまうくらい、一香の笑顔は魅力的だった。
今まで引っ張りまわされていた、疲れが一気に吹っ飛ぶような感じ……。身体中がザワついて、何だか落ち着かない。
「……」
これは英朗の遺伝子の記憶?
恋しい、と思う胸の痛み?
恋なんて知らないボク。そう言う、モノなのだろうか?
ボクにとっては十五歳も年上だけど。英朗にとっては十五歳も年下の彼女。彼は、彼女のこんな所にホレていたのだろうか?
あっ……。
「一香、はしゃぎ過ぎ、転ぶよ?」
「大丈夫! もう子供じゃありませんよ〜?」
そう言って、目の前のエスカレーターに乗り、次のフロアで降りる。
メンズフロア?
「……いったい、何を見るの? 一香」
「誕生日プレゼント」
一香は、振り返らずに言う。
続いて、エスカレーターを降りるボク。一香は、目の前にあるメンズ用の時計やアクセサリーを、楽しそうに物色していた。
「コレ、素敵かも……」
「……」
一香は、時計を一つ持ち上げて、ボクに見せる。
「コレなんかどう?」
「……うん、カッコイイと思う」
正直、まだ子供だし、時計のデザインなんてよくわからない。機能していればとりあえずいいと思っている方だ。
「あっ、見て? こっちもイイかも!」
別の時計を拾い上げて、一香はまた、ボクに見せる。
「……う、ん」
誰の誕生日だっけ?
共通の友達、イズル以外にいた? 聞いても、大丈夫だろうか?
何故か、鼓動が、大きく胸の中を打ち始めた。
「……ダレの、誕生日、だっけ?」
一瞬の沈黙…―――
一香は不思議そうに、きょとん、とした表情でボクを見る。
えっ?
心臓の音が更に激しく自分の耳に響く。
ま、間違えた?
一香は、くす、っと笑い、ボクに時計を差し出して言う。
「英朗のに、決まってるじゃない」
時計を受け取ろうとしたボクの手が、一瞬固まる。
身体中が、凍りつくかと思った…―――