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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

空っぽのトロイと他人の護衛騎士

作者: 山田
掲載日:2026/05/17

聖女の護衛騎士×勇者の養父

恋愛未満

「神託により、勇者を迎えに来ました」


若い修道女とその護衛騎士が突然、こんな辺鄙な村にやって来た。

村は騒然とした。だって魔王復活だなんて、誰も知らなかったし、勇者だなんてすごい人物が、この村にいるとは思えなかった。

修道女は自らを聖女と名乗ると、俺の養い子であるテオを勇者と祭り上げ、あれよあれよと連れ去ってしまった。


俺は勿論抵抗した。だってテオはまだ13歳で、狩りをするのにも抵抗のある心優しい子だ。勇者だなんて字面は良いけど、命の危険と隣り合わせなんだろ?打倒魔王だなんて、こんな小さな子に世界の命運を託すのか?おかしいだろ?普通は各国の軍隊が協力するもんだろ?

そう言ったもんだから、俺は聖女に楯突く不穏分子だとしてボコボコにされ、気を失っている間に聖女達も、テオも居なくなってしまったのだ。


そんな俺でも魔王側に人質に取られると勇者の精神衛生上困るらしい。目が覚めたら王立騎士団の寮にぶちこまれていた。確かにここなら平民がいても不思議ではないし、何かあっても騎士がいるから安全なんだろうな。ご丁寧にトロイと言う新しい名前与えられ、位置情報を騎士団側が認識できる魔道具を埋め込まれると、俺は軟禁生活を送ることになった。くそが。




今日も朝から針仕事。

穴が空いたり、裂けたり、ほつれたり。直せば着れるよな、という具合の訓練着の修繕が、1日の大半を占める。

別に与えられた仕事ではない。これはただの時間潰し。平民出身騎士の訓練着はよく破れる。しかし頻繁に買い換える程の財力はないそうで、軟禁中のやることのない俺が彼らの代わりに繕うことになった。

ベッドしかない小さな部屋が俺の全て。小さな窓からは騎士達の笑い会う声や木剣を打ち合う音がひっきりなしに響く。


「テオ、怪我してないかな…」


脳裏に浮かぶは可愛い子供の顔。7年前、野盗に故郷を焼かれてから、ずっと一緒だったのにくだらない神託に引き裂かれてしまった。

テオの稲穂のような黄金の髪も、深い青の瞳も、手を伸ばせば届く距離にあったのに。あの小さな手を握り締めることも、彼のこれからの幸せを近くで見守ることも出来なくなってしまった。


針を通す手が、止まる。

ここに来て一週間程は怒りが込み上げることや慣れない針仕事に戸惑うことが多く、なんだかんだ考え込むことはそう無かった。たが、この生活に順応してきた今、虚しさしかない。

生きる理由が何もないのだ。あの日から、俺の生きる理由は全てテオにあった。テオを養うため、テオに教えるため、テオに笑ってもらうため、この7年間がむしゃらに生きてきた。

やりたいことも、好きなことも、昔はあった筈なのに、今はもう何もない。


何もないなら、死んだほうがいいんじゃないか。人質に取られると困るというなら、そもそも俺が死んでしまえばいい話で。少しでもテオの役に立つなら、その方がいいかもしれない。

右手に持つ針の輝きに視線が吸い込まれていく。この細井細い針で貫くなら、目か喉か、舌か。死には至らないが、それでも。針の先端はどんどん顔に近づいていく。唇に触れるか触れないかのところで、ピカッと目映い光が部屋に溢れた。


「わっ…!!」


あまりの眩しさに目が開けられない。

光が収まると同時に頬に衝撃が走る。衝撃に耐えきれず、椅子から転げ落ちた。誰かに頬を打たれたような感覚。誰も居ない筈なのに、なんで。仰向けのまま眩しさと頬の痛みで頭の中が混乱する。ようやく光が収まり目を開けると、あの時の護衛騎士が俺の顔を覗き込んでいた。


「今お前、死のうとしたな!?平和な場所にいて何故死を選ぶ!!」


胸ぐらを掴まれ、訳もわからず揺さぶられ苛立ちが募る。何故死を選ぶだって?お前達が全部奪ったんじゃないか。


「選んだんじゃない…!選ばされたんだ!お前達が!お前が!俺からテオを奪ったじゃないか…!」

「っ、何故そこまで勇者にこだわる。血の繋がりはないんだろ」


護衛騎士も苛立ったように口を開く。

血の繋がりがない他人に生きる目的を見出す俺は滑稽だと思っているんだろうな。


「……世の中の夫婦だって、友達だって、他人だろ。他人であっても、大切な人はいるさ。俺のそれがテオだっただけ……おかしくは、ないさ」


お前だって他人の聖女を護ってるだろ。

そう言うと、護衛騎士はぎゅっと目をつぶり、大きく息を吐く。胸ぐらをつかんでいた手はいつの間にか離れていた。


「……だが、死を選ぶのはあまりに安直だ」

「安直であっても、俺には生きる理由がないから」

「だとしたら、」


護衛騎士の手が俺の後頭部に差し込まれ、引き寄せられる。アッと思う前にはもう護衛騎士の唇が、俺の唇に触れていた。


「俺を生きる理由にしろ」


灰色の瞳が真っ直ぐに俺を貫く。

キスされた衝撃と護衛騎士の迫力に、俺は動けない。


「わかったか」

「いや、それは理不尽すぎるだろ」


テオとは似ても似つかない、しかも俺をボコボコにしたこの男が何を言うか。


それから俺が死にたくなる度にコイツが現れ、なんだかんだ絆されていくのは別の話。



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