月蝕―影に隠れる本当の心―
僕と彼女は、まるで表と裏。
何もかもが正反対。
誰とでもすぐ仲良くなれる彼女。
誰ともうまく付き合えない自分。
明るく、周りに笑顔を振りまく彼女。
前髪を長く伸ばし、表情を隠す自分。
ありのままの自分でいられる彼女。
ありのままを誰にも見せない自分。
何もかもが正反対。
きっと――
本来なら、交わる事なんか無かった二人なのに。
『ふふっ、君の秘密、知っちゃった♪』
『誰にも言わないよ。 私と君の二人だけの秘密』
そう言って、僕に構うようになった彼女。
彼女の仲間達も、僕と仲良くしてくれた。
でも、それは、所詮偽りの自分。
僕はずっと、友達にも、家族にも、偽りの自分を演じ続けている。
ある時、それが辛くなって、唯一秘密を知っている彼女に、勇気を出して言った「付き合ってください」の言葉。
でも、答えはやっぱり――
『ごめんなさい……君とは付き合えない』
わかってた。
わかってても、悲しかった。
溢れてきた涙を、彼女が指ですくってから――
『付き合う事は出来ないけど』
『今と同じ、月蝕の時だけは、ありのままの君と、恋人でいさせてくれる?』
――泣きじゃくる僕をぎゅっと抱き締めて言ってくれた。
今日は半年振りの月蝕の日。
年に数回の、ありのままの僕でいられる時間。
いつも通り、ブラウスとチェックのスカートで。
家の前で、しばらく待っていると、彼女がやってきた。
「お待たせ、美月、行こっ♪」
指を絡ませ手を繋ぎ、向かう先は、月がよく見える高台の展望台。
月にも届く太陽からの光を、地球が遮ってしまう月蝕のように。
僕に向けられた世間の眼から、彼女が僕を隠してくれるように。
月が赤銅に染まる数時間だけが――
私が、僕でいられる時間。