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しあわせのかたち

雲一つない澄んだ空。

そよそよとそよぐ風に耳を傾けながら、大きな木に背を預けてぼんやりと人の営みを見ていた。


「ははうえー。おはなー。あいっ!」

「まぁ、素敵。ありがとう、ユーマ」


黒髪黒目の幼子がにっぱと笑うから、私もつられて笑顔になる。

私がかつて愛した人の忘れ形見。引き継がれたのはその髪と瞳だけだけど、私はもうこの子が可愛くて可愛くてたまらない。


「あのねぇ、おなか、なでなでしていーい?」

「ええ。優しく、いい子いい子、してあげて」

「あい!」


小さいユーマが笑顔になって、ちっちゃいお手てで私のお腹を一生懸命よしよししてくれる。


「はやくあいたいねぇ」

「そうだねぇ」


小さいユーマに微笑めば、にへらって笑い返してくれる。

あぁ、本当に可愛い。


「……息子が可愛いのはしかねぇが、そうでれでれされると妬けるな」

「子供に嫉妬しないでよ」


不意に背中から声がかかる。

いつの間にか回り込んだのか、私のもたれていた木の裏手から、赤髪の偉丈夫が顔を出す。

彼は私のこめかみにくちづけを落とすと、私の隣に胡座をかいてユーマを膝の間に乗せた。ユーマが手を叩いて喜ぶ。


「こうも平和だと腕がなまっちまいそうだな」

「平和なのはいいことでしょ」


天魔が媛之国から……世界から消えて三年が経つ。

媛之国はこれまで通り三柱の姫神子が人々の拠り所になりながらも、国の在り方を変えていった。

神力を必要としない護国の体勢を整え、戦うばかりであるのをやめて外交に力を入れだした。

益荒国とは同盟を結び、何かあればお互いに助け合う盟約が結ばれた。

世界から神秘の力が失われ、これからは人が言葉で世界を渡り歩いていく。

媛之国も足並みを揃えて、そんな国々の一つになった。

……そして私も、グエンに望まれ、ただの一人の女として、グエンの元に嫁いだ。

ユーマを一人で産み育てようとしていた私を、一番傍で支え、気遣ってくれたのがグエンだったから。

そこに大きな理由はなくて、一緒にいるうちに私も絆されちゃったんだと思う。

もちろんあの時の言葉を違えず、お腹にいたユーマごと、グエンは受け入れてくれた。

だから私は、和玉の姫神子としてもう一度立つことも望まれたりもしたけれど、媛之国を出て、益荒国にいる。


「ははうえー、なでなで」

「はいどーぞ」


グエンの足の間から短い腕を伸ばして、私のお腹を撫でるユーマ。

それを見て、グエンも笑ってる。

ユーマがいて、グエンもいて―――新しい命もここにいて。

人と人のつながりが、和やかに、穏やかに、優しく、連綿と続いていく。

この姿こそが世界のあるべき姿だと、私は思う。


ねぇ、遊真。

あなたとの出会いの先に繋がった未来で、あなたは幸せになれたかな。

そうだと、いいな。


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