S-1 RACER 第二戦 ヴィーナス・グランプリ
1966年から69年にかけて放送され、大人気だったスタートレック・宇宙大作戦。筆者も熱烈なファンです。本作はその作品へのオマージュとして書きました。話の中で思い当たる部分もありますのでそれらも含めてお楽しみください。
金星。太陽から2番目の、最も地球に近い惑星である。またその規模は若干地球より小さく、また高濃度の炭酸ガスに覆われ地表は肉眼では見えない。そして、S-1グランプリ第2戦は地球をスタート~ゴール地点とし金星を一周して戻るというコースになっている。
日本、新東京シティ。JǍC本社は幕張にある。人事部から呼び出されたタケルとゴウはエントランスホールで島津監督を待っていた。ゴウは案内カウンターの受付嬢を何時もの調子で口説いてる。タケルは馴れているので無視してロビーで缶コーヒーを飲みながら携帯端末をいじっていた。
「おう、待たせて済まなかったな」
そこに島津監督がレイラを連れて現れた。
「いや、そんなに待ってはいないですよ。ゴウもあの調子だし」
タケルの目配せに気づいたゴウが慌てて飛んできた。五人はエレベーターに乗って上階へ。
「それにしても、もうすぐヴィーナスグランプリ予選が始まるって時に緊急の呼び出しってなんなんですかね。もしかギャラのベースアップとか?」
お調子者のゴウが嬉しそうに島津監督に尋ねた。
「俺にも判らん。何か重大な要件とだけは聞いているが」
島津監督はレイラの方を見るが本人は無表情である。何か情報を掴んでいるのか気がかりなタケルは質問してみた。
「なあ、レイラ。お前のネットワークで何か引っ掛かる話は無いか?」
レイラはタケルを見つめて返答。
「はい。PǍNーǍМが女性型ナビロボットを登録申請した事でSIA内が紛糾しているそうです」
タケルが会話に介入した。
「レイラちゃんと同じアンドロイド?ロッキード社製の。一般旅客用ですって言っててそれは駄目だろ」
タケルが反論した。
「俺達もレイラを入れてるんだから文句言える立場じゃないだろ」
ゴウは言葉に詰まった。
「もしその話が本決まりなら我々も対処を求められるぞ」
島津監督が話し始めた瞬間、エレベーターの扉が開いた。41階、重役室のフロアである。監督は勝手を知ってかスタスタと歩いて行く。タケル・ゴウ・レイラも後に続く。とある会議室の前に到着した。監督がドアをノックする。
「どうぞ」
中から秘書が開けてくれた。黒縁眼鏡のクールなスレンダー美女。ゴウは思わず口笛を吹いた。
「副社長がお待ちです」
会議テーブル中央に副社長が立っていた。秘書に続いて中に進む。秘書が副社長を紹介。
「こちらが弊社副社長、刑部一平でございます」
紹介を受けて刑部副社長が挨拶。
「刑部です。本日はお越しいただき感謝します」
島津監督が返礼する。
「副社長、こちらこそお招きいただきありがとうございます。こんな機会でもなければなかなか本社に来る事など無いですからね」
「遠慮することはない、何時でも来てくれたまえ島津君。但し不用不急以外は御免被るがな」
「確かに」
副社長と島津監督はくだらないジョークで高笑い。どうやら二人は長い付き合いに見えた。美人秘書がたまりかねて会話を中断する。
「副社長、そろそろ」
「おう、そうだった。実は来てもらったのはだな、政府の肝いりでJCL(日本航宙)もS-1に参戦する事になった。当社チームと二本立てで日本代表として年間タイトルを目指す事になる」
タケルもゴウも驚いたが嶋津監督が一番衝撃だったようだ。JCLはJǍCの元親会社である。グループ傘下であったJǍCは採算性の問題から分離・独立されたのだ。実はJǍCがS-1に参戦する以前、島津監督はJCLにSー1参加を提案した経緯がある。だが莫大な資金を必要とするレースへの参加は当時の経営陣からは宣伝広告の効果よりも経費の無駄遣いとして受け止められ、実現しなかったのだ。ここにきてJACWチームがアステロイドグランプリ三位入賞という快挙を果たしたのを目の当たりにし、政府も食指を伸ばしてきたのである。JCLは株式の七割を日本政府が保有する半官半民企業なのだ。余談だが日本から参加しているもう一社、ǍNSは完全な民間企業なので独自路線を取っている。国威発揚に貢献する気はないらしい。
「JCLが参戦するのは勝手でしょう。我々には関係無い事ですよ」
ゴウが吐き捨てる様に言うと副社長は困惑の表情で返した。
「ところがそう言う訳にはいかんのだ、ゴウ君。JǍXǍ(国立航空宇宙開発機構)から両社が協力してマシンの開発からレース攻略まで行うようにとの通達があった」
ゴウは副社長の発言よりも自分の顔と名前を知っている事に驚いた。タケルが苦言。
「はあ?ってことは新参者のJCLの面倒をこっちで見ろと言うことですか。しかも手の内までバラシて」
「まあそうカッとなるなタケル。気持ちはわかるがお上の意向には民間の我々では逆らえんのだ」
島津監督は宥める様に諭した。納得していないタケルを無視して語る刑部社長。
「そこで紹介したい人物がいる。入り給え」
入ったドアとは別の、おそらく隣室と繋がっているのであろう扉が開いて三人の男性が現れた。
「紹介しよう、JCLレーシングシャトル・チームの伊達忠宗監督、レーサーの長宗我部秀一郎君、ジークムント・ハインリッヒ君だ」
タケル達は驚嘆である。まさかこの場でライバルとなるJCLメンバーと対面するとは。場の空気を読んだ島津監督は伊達監督に握手を求める。
「宜しく伊達監督。JǍCWチームを統括しております島津です。日本の威信を掛けて共に戦っていきましょう」
島津監督の手を力いっぱい握り返す伊達監督。
「こちらこそ島津監督。初心者ですので今後ともご指導・ご鞭撻のほど宜しくお願いします」
初っ端から火花を散らす監督達。ゴウの前にシュウイチロウ、タケルの前にはジークムントが立っている。にらみ合う四人。たまり兼ねた嶋津監督が促した。
「タケル、ゴウ、握手だ」
二人は渋々手を差し出す。シュウイチロウもジークムントもその手を握るとこれでもかと力を込めてきた。タケルとゴウもやり返す。四人は険悪ムード。
「宜しくな」
ゴウの言葉にシュウイチロウが答える。
「今後とも宜しく頼むぜ先輩」
語気は荒いが取り敢えず挨拶を交わした両チーム。刑部副社長の執り成しで何事もなく交流を済ませた。目前にヴィーナスグランプリを控えていたが既にJCLチームはJǍXǍ全面協力の元万全の体制で準備していたのである。ただ、その全貌はJǍCWには知らされていない。
ヴィーナスグランプリのスタートはヒューストン国際宇宙港特設会場からである。二戦目からは予選は無く前回の決勝順位でスタート位置が決まる。各チームが抽選で決められた順に天空に向かい湾曲した発射カタパルトから次々にレーシングシャトルで飛び立っていく。後発のチームは自社のピットで思い思いの態勢で待機している。タケルとゴウもパドックをうろうろしながら暇をつぶしていた。彼等JǍCWチームは最後尾から三番目の発進なのである。彼等がPǍN-AMのピット前を通りかかった時、PǍN-AMのパイロット達も待機に退屈していたのか外でライバル機の出立を眺めていた。チーフ・パイロットのビクトル・イェーガー、コ・パイのシャルル・デュポワ、そして金髪の派手なキャンペーン・ガール?その美女が声をかけてきた。
「あら?日本のJǍCチームの皆さんですか?」
レイラはその女性に動揺しているようだ。緊張感がゴウにもタケルにもヒシヒシと伝わって来た。タケルがレイラに耳打ちする。
「レイラ、この娘が例の?」
レイラは何も答えない。代わりにその美女が語りかけてきた。
「初めまして。今年からPANーAMクルーに加わりましたジェニファーと申します。気軽にジェニーとお呼びください。それと、お姉さまお久しぶりね。研究所以来かしら」
タケルの予感は的中していた。彼女も人型AI、ボーイング社製のレイラの後継機である。開発段階でレイラの次に製造された為、双方に面識がある。
「初戦では活躍されたらしいわね。とは言え所詮はプロトタイプ。改良を重ねた最新鋭のナビゲーションシステムとの違いを思い知らせてあげますわ」
「何だコイツ。見た目はカワイ子ちゃんだが口は悪いな。俺達のレイラにイチャモンつけようってか」
ゴウが怒りに任せて苦言。ビクトルが口を挟む。
「すまんな、ジェニファーには勝負に拘る様気性が強い設定がされているんだ。ちょっと高慢ちきなのは俺も閉口してるんだが」
「ジェニファー、基本設計は同じなのだからオプション機能程度では勝てないわ。経験で得た知識が実戦では物を言うのよ」
珍しく対抗意識剝き出しのレイラの言葉にタケルもゴウも驚いた。火花を散らすジェニファーとレイラに焦ったタケルはビクトルとシャルルに社交辞令を述べる。
「まあお互いベストを尽くして正々堂々渡り合おう。健闘を祈るぜ」
早々にその場を引き揚げるJǍCWチーム。這う這うの体でその場を凌いだタケル達だったが暫く歩くとそこへたまたま秀一郎・ジークムントのペアとすれ違った。
「おや?先輩、レース本番なのに余裕ですね。悠長に散歩ですか」
シュウイチロウの嫌味にゴウがやり返す。
「そちらさんも随分暇と見える。二戦目からの参戦なのにのんびりしてていいのかねえ。Sー1は甘くないぜ。必死で作戦練らないとビリで終わるよん」
ムッとするシュウイチロウ。
「全然余裕さ。俺達にはJǍXǍとIHI(石川島播磨重工業)が付いてるんだからな。最新鋭の機体と超高性能エンジン。負ける訳がねえぜ」
シュウイチロウの言葉にタケルとゴウは愕然とした。JǍXǍの話は聞いていたがIHIまで協力していた事実は初耳である。JǍCWのコンストラクター、ホンダに対抗するのにIHIを起用するとは。IHI(石川島播磨工業)は国内髄一のロケットエンジンメーカーである。その技術は世界トップクラスとも言われている。シャトル本体をJǍXǍ、エンジン部分をIHIが用意するとなると…とんでもないモンスターマシンが誕生しているのかも知れない。唖然とするゴウの脇腹を小突いてタケルが一言。
「レースはマシンの性能だけで決まるもんじゃない。ドライバーがへっぽこなら宝の持ち腐れだ。お前達のようなど素人じゃとても百戦錬磨の怪物達には太刀打ちできないぜ」
「な、何を‼俺達がど素人だと⁈」
怒りに震えるシュウイチロウを押さえる様に腕で遮り、ジークムントが言葉を返した。
「彼の無礼はお詫びします。ですが我々もラッキーでこのポジションを得た訳ではありません。確かにプロドライバーとしては新人ですが数々の審査を通り抜け厳しい訓練の元ここに立っているのです。皆さんに引けを取るつもりはありません。我々は国から優勝を託された運命共同体なのですから共にベストを尽くしましょう」
道理である。ジークムントの言葉にタケルもゴウも黙ってしまった。ゴウが尋ねる。
「ジークちゃん、日本語上手いじゃねえか。誰に習ったんだい?」
馴れ馴れしいゴウに戸惑いながらもジークムントは答えた。
「母方の祖母が日本人でしたので。私自身日本にもう5年も住んでいますからね」
「成程、クォーターてわけか、道理で。今どこに住んでるんだい?」
「はい、大洗の祖母の家に」
「そりゃ日本語も上手くなるわな」
ゴウは何時ものお調子で場を和ませた。二組は別れて自社のピットに戻っていった。
JǍCWの飛燕より先にJCLのシャトル発進順位が回ってきた。嶋津監督もタケル達も興味津々でそのシャトルを見物にカタパルトに向かった。巨大クレーンで発射台に降ろされようとしているその機体は…兜蟹をスリムにした様なフォルムをしている。機体色はカーキグリーン、よく見ると側面に大きく「零」の文字が漢字で表記されている。他の文字は英語なのに。三人が呆然と眺めていると伊達監督が傍らに寄ってきた。
「どうです?我がチームのシャトルは。最新鋭レーシングシャトル、零ー壱型です」
黙っている三人を尻目に伊達監督は勝手に喋り出した。
「船体はJǍXǍが開発、IHIが心臓部を担当。従来の一線級レーシングシャトルの性能を三〇パーセント上回る事に成功しました」
どういう基準だ?と思いつつ社交辞令を述べる嶋津監督。
「素晴らしいですな。ウチの飛燕も見劣りしますよ」
「いや、前回のレース動画を拝見しましたが感動しました。脅威のスペックですねえ。ウチのゼロも参考にさせていただきました」
伊達監督も嶋津監督も談笑しながらも目は笑っていない。程なくJCL機の発射時刻となった。アナウンスが流れる。
「さあ、次は今期初参戦となるJCLの発進だ。機体はクールなボディのゼロ・ワン!コイツは速そうだぞ。どんなパフォーマンスをみせてくれるのか楽しみだ、みんな期待しようぜ」
DJ風の解説の次にカウントダウンが始まった。
「只今JCLゼロ・ワンの発射二〇秒前。カウント開始します」
「20・19・18・17…」
「6・5.4・3・2・1・ゼロ、ファイア!」
JCLゼロ・ワンは激しいアフターバーナーを噴き上げ矢の様に飛び立つ。カタパルトを離れるとアッという間に点となって空に消えてしまった。
「凄い初速ですな。どのチームのシャトルよりも速い」
感心する島津監督に伊達監督は笑顔で答えた。
「そうなんです。IHI社製NB06型エンジンは発進時に最大トルクを出せるよう調整されているんです。コイツはオーバーテイクにも威力を発揮しますよ」
嶋津監督は若干不安になった。まさかJCLが最強のライバルなのでは?タケルが声を掛けてきた。
「監督、そろそろ俺達の出番ですよ」
「おお、そうだった。では伊達監督、私共の番なのでここで失礼します」
「島津監督、健闘を期待してますよ」
嶋津監督とタケル、ゴウは伊達監督と別れ慌ててピットに戻る。発進順位は次々席まで迫っていた。
飛燕はカタパルトの発進位置でシグナルの合図を今や遅しと待っていた。
「そういやPǍNーǍМから何も言ってこなかったな。協会も特に動きはないし…何か不気味」
ゴウの言動に相槌するタケル。
「確かに。自分らもチートやらかしてるから気兼ねしてるんじゃないか」
会話の途中、インフォメーションが入る。
「JǍCW001、準備完了。何時でも発進可能だ。随時スタートされたし」
「こちらJǍCW001、了解した。カウントダウンしてくれ」
例によってDJのマイクパフォーマンスの後、管制塔からアナウンスが流れる。タケルはロケットのスターター・スィッチをオンにする。噴射口から激しいアフターバーナーが吐き出された。
「只今JCLゼロ・ワンの発射二〇秒前。カウント開始します」
「20・19・18・17…」
「6・5.4・3・2・1・ゼロ、ファイア!」
タケルはスロットルレバーを徐々に引いた。火力はぐんぐん上がる。
「ゴー!」
バックレストに押し付けられるような加速Gを感じ、飛燕は一気にカタパルトを飛び出した。矢の如く天空に駆け昇る機体はあっと言う間に大気圏にまで到達した。前方のシャトル達に合流すべく周回軌道を急ぐ飛燕。ほどなくグループの後端に追いついた。一団は指定ポジションを取って地球周回を繰り返す。やがてレースの開始時刻となった。スタート告知の通信が入る。
「各チーム準備よろしいですか?只今よりヴィーナスグランプリを開催します。アーユーレディ⁈」
「オー‼」
パイロットはおろか観客・配信を観る視聴者までも…全地球が叫んだ。
「ゴー!」
レースがスタート!各機が周回から金星に向け次々と離脱していく。ポールポジションのPǍNーAMが先頭で抜け出す。二番手はユナイテッド、続いて飛燕。初戦のアステロイドグランプリとは打って変わって瞬発力と最高速度に特化したチューニングに各チーム仕上げてきてるのでパワーにさほど差は無い。JCLは初参戦なので最後尾からのスタートとなる。
一団は一路金星に向け航行していた。すると先頭のPǍNーAM機から全シャトルに通信が入った。
「レース参加者全員に警告!本機前方に巨大ガス雲を発見。見た事の無い現象だ。注意されたし」
無線を傍受したタケルがゴウに問いかける。
「見た事ないガス雲?金星までまだかなりの距離だぞ。第一宇宙空間で雲だけ存在するなんてあり得ないだろ」
「だな。レイラちゃん、画像を分析して何か判らないか?」
ゴウがレイラに尋ねる。レイラはネットに接続して各機の情報を網羅し解析を開始した。
「ガス雲の中心に高熱源が検知されます。物理的球体で強力な磁場も形成されているようです」
「それって極小の游星ってこと?けどそんな情報入ってこなかったけどなあ」
ゴウの言葉に答えるレイラ。
「確かにレース前のコース調査でも確認されていません。突然出現したものと思われます」
「と言う事はワープして来たんじゃないのか。異星人の宇宙船かも…ともかく注意した方が良さそうだ」
タケルはガス雲を大回りして回避するコースに舵を切った。
「え?みんなそっちへいっちゃうの?」
ゴウが叫んだ。先頭のPǍNーAM機が飛燕とは反対方向に進んだ為他のシャトルはそちらに追随したのでタケル達は一団と離れてしまった。だが飛燕はそんな事にお構いなくガス雲の外周を進む。ガスからかなりの距離を取って進むため相当の大回りになるが他の機も同条件になるためレース的には差は出ない筈だ、そう思いながらタケルは一団と離れてしまったことに心の中で言い訳していた。だが彼等と別れた事が功を奏した。
PǍNーAM機を先頭とするレース機の一群がガス雲に差し掛かったその時、ガスが彼等に向かって広がってきたのだ。圏外に逃げようと全速で離脱するレース機だが、規模の大きいガス雲の拡散はそのスピードを上回りあっという間に一団を呑み込んでしまった。
「どういう事だ、エンジンが停止してしまったぞ!」
PǍNーAM機のヴィクトルが叫ぶ。シャルルも計器盤を見ながら報告。
「電子機器も生命維持装置以外は機能を停止してしまっている」
シャルルは気になってジェニーを見た。彼女だけは正常に起動している。
「どうやらガスと思っていたのはシールド·ドームのようね。包まれると何らかの干渉によって機械類は制御されるらしいわ」
ジェニーの物言いにカチンときながらもシャルルは尋ねた。
「シールドということは人為的なものか?どうやってシャトルの機能を支配しているんだ?」
ジェニーは唇に左人差し指を添えて返事した。
「さあ?それは解らないわ。地球の科学には無いもの」
「てことは地球外生命体、つまり宇宙人か」
ヴィクトルが呟く。シャルルは慌てた。
「大変だ、俺達宇宙人に捕まっちまったぞ?」
PǍNーAM機を含むレースシャトルはガスに包まれたまま動けない状態であることは飛燕のレイラも二人に報告していた。が、シールドで通信機能も使えない為連絡が取れない。タケルがゴウに相談。
「大変な事になったな。何とか奴等を救出してやりたいが」
ゴウはいきなり過激発言。
「じゃあ敵地に乗り込んで拿捕装置を破壊するか」
タケルは苦言。
「たぶん異星人じゃないかと思っているだけで本当のところはわかってないんだぞ。仮にそうだとしても空間転移できる科学力を持ってる相手に武装も無いシャトルでどうやって戦うんだ?」
タケルの言葉にレイラが突拍子もない提案をする。
「仮に異星人の仕業だとしたら話しあって拘束を解除してもらうのは如何でしょう」
「は?何言ってるのレイラちゃん。相手がどんな奴かもわからないのに」
ゴウのネガティブ発言をタケルが否定する。
「いや、正論かも知れん。外宇宙を航行する程の科学力があるなら相応の知性を持っているだろうから案外話し合いに応じてくれるかも」
呆気に取られるゴウを尻目にタケルはレイラに相談してみた。
「なあレイラ、彼等とコンタクトを取る方法は無いか?」
ゴウが口を挟む。
「そんなのできるわけないっしょ!英語でも日本語でも地球の言語なんて知らないんだから」
ゴウの突っ込みを返すようにレイラは妙案を出す。
「可能だと思います。言語ではなくイメージ映像を相手に送れば言葉の壁は解消されるかと。情報も共有できますし」
タケルは思わず指をパチンと鳴らした。
「それだ!早速頼むレイラ」
レイラはガス雲の中心にある球体に向けて動画を送信した。自分達が地球人である事、またその歴史、そして敵意が無い事等全ての情報を送るには二時間程時間がかかった。送信後更に一時間経過。突然レイラが身体を小刻みに震わせた。
「ヴ…ヴ…ヴ…ヴ」
声にならない呻きとも取れる音を発してレイラは身体を硬直させた。
「貴方方の事情は理解できました。我々も次元跳躍時のトラブルで予想外の星系に出てしまい、いきなり多数の宇宙船に向かって来られたので攻撃を無効化しました。どうやらこちらの勘違いだったようです。失礼しました」
レイラは普段とは違う合成音で淡々と語りだした。
「え?何言ってるの?どうしちゃったんだレイラちゃん」
戸惑うゴウにタケルが耳打ちした。
「異星人がレイラを通じて話してるんだ」
タケルはレイラに向かって言った。
「俺はタケル。こっちはゴウ。あんた達は何者なんだ?レイラのイメージを見たなら俺達が敵で無い事が理解できた筈だ。今すぐ仲間を開放してくれ」
「承知しました、タケル・ユニット。お仲間は開放します。が、その前に我々の星に招待したいのですがいかがですか。我々はあなた方にとても興味があります」
タケルとゴウは顔を見合わせた。
「どうする?先に開放しないなんて何かの罠かもしれないぞ」
「でも会わないと奴等を開放してくれないかも知れん。ここは奴等の申し出に応じてみよう」
タケルの意見に危惧しながらもゴウは渋々ながら従った。飛燕はガス雲に突入、中心に向かって進んだ。ガス内に入っても飛燕の機能は制限されず、スムーズに航行できたのは異星人が機体を自在に制御できる証なのだろう。更に進むと件の球体が見えてきた。やはりゴウの言う通り小惑星のようである。おそらく月の六分の一位の大きさだろう。だが近づくにつれ、その認識が甘かったことを思い知る。地表は自然の情景は無く、完全に機械化された要塞のそれだった。
「ヤバいぜタケル。コイツら戦闘民族なんじゃないか」
「どうやらその可能性は高い。俺らも覚悟してかからんと」
飛燕は牽引ビームに従ってとある円形ステージに降り立った。タケルとゴウは外宇宙服を着て乗降ハッチを開ける。三人が外に出ると巨大なペンライトのような円筒が垂直に浮いていた。全長は一メートルくらいか、下半分は銀色、上部は赤。黄色の冠部。光を放っている。そのペンライトは突然言葉を発した。
「ようこそ我が星へ。私は案内ユニット。あなた方の言葉はそこのメカユニットの情報から学習しました。我らのマスターの所へご案内します」
案内ユニットに従い進むと地面に金色に光るサークルが描かれていた。そのサークルの中に入ると円盤は一気に下降した。エレベーターだったのである。物凄い速度で降りて行く中、タケルは見た事もない超科学文明を目にする。生物の体内を機甲・巨大化したかのような構内。彼等は人類の遥か先を行っている高度な文明を持っている。
「コイツはたまげた!予想はしていたがこの連中とは遣り合いたくないな。戦闘になれば一瞬で終わるぜ」
「同感だ。迂闊な事はできないぞ。ここはひとつ相手の出方を慎重に見極めないといけないな」
二人のひそひそ話は案内ユニットにしっかりモニターされていた。ほどなく円盤は星の中心と思しき球状の構造物に辿り着いた。内部に入りとある階で停止する。そのまま横移動を開始し広い部屋に入った。神殿のような造作で、東京ドーム程はあろうか。中心に案内ユニットの親玉のような巨大ペンライトが聳え立っている。
「ようこそお越しくださいましたタケル・ユニット、ゴウ・ユニット。私がグランド・マスターです。理解しやすいよう当方の固有名ではなく地球言語に翻訳しました。以後GМとお呼びください」
その言葉にゴウが苦言。
「おいおい、レイラには挨拶なしかよ?何で一人だけスルーするんだ」
GМは非礼を詫びた。
「これは失礼。我々には機械を人格と認める習慣がないもので。あなた方の流儀に従いましょう。宜しく、レイラ・ユニット」
レイラはゴウとGМに答えた。
「私はAIなので気にはしていません。GМの仰ることは至極当然の事と理解しています」
レイラは自身が人として扱われている事が逆に不思議であった。
「あなた方の要望に従いやって来たぜ。今すぐ仲間を開放してくれ」
タケルが威圧的な態度なのでGMは申し訳なさそうに答えた。
「まだあなた方を完全に信用したわけではありません。もう少しコミュニケーションを通してあなた方を理解したい。ご協力願えませんか」
タケルは焦らされる事に苛立ちながらも渋々同意した。
「なら仕方ない。何でも聞いてくれ」
GМは事務的に語り出した。
「あなた方はここで何をやっているのですか?我々に向かって進行して来たので敵対行為かと思われましたが機体をセンサーしたところ武器らしき物は搭載していない」
タケルは説明を理解してもらえるか不安を感じたが率直に事実を話した。
「俺達はレースをやっている。どの宇宙船が一番速いかを決める競争だ」
「競争?その事に何か意味があるのですか。移動手段なら最も優れた技術を共有すればいい」
「まあそうなんだが人間にはライバル心というものがある。地球では競い合う事で切磋琢磨して科学を発展させてきたんだ」
「不思議ですね。あなた方の星では全体の意思統一というものができないのですか。そのような事では個性の衝突が起こり争い事に発展しませんか」
GМは痛いところを突いてくる。タケルは反論した。
「確かにその通りなんだが俺達は一人ひとりの個性を尊重するんだ。それで発展してきた。あんたの言うように集団で一つの考えを持つのが正しいのかも知れないがそれでは蟻と変わらない。俺らは人間だ。知性を有する生物なんだ」
「蟻の情報を取得…成程、あなた方・地球人の考え方にも共感できる部分はあります。ただ進化していく上で弊害となる恐れは多分にあります。どうでしょう、我々の科学を取り入れてみては?恒星間飛行の技術提供もしますので統治者の方に提案してはもらえませんか」
何が狙いだ?タケルはやけに下手に出るGМに不信感が募るばかりである。
「言いたいことはわかった。あんたの申し出は帰って総督府に伝えてやる。だが俺達はさっきも言ったようにレースの真っ最中なんだ。早く再開したいんだ。開放してくれ」
GМは一瞬沈黙した後返答した。
「わかりました。お仲間たちを開放しましょう。レースは続けてください。我々は先にあなた方の母星に向かいます」
「勝手にしてくれ。俺達はレースの続きができればいい」
「承知しました。お仲間は開放しましょう。母星·地球への報告連絡をお願いしますよ。侵略者と間違えられてはたまりませんからね」
本音が出たな、と思ったタケルだが先ずは脱出する事が最優先だ。
「わかった。艇に戻り次第地球政府に報告する」
「宜しくお願いします。では自船にお戻りください。レースのご武運を」
GMの声はわざとらしく、タケルもゴウもイラっとなったがレイラは平静である。案内ユニットに導かれ神殿から円盤エレベーターで円形ステージへ向かう三人。
「やけにあっさり済んだな。聞きたいことがあるって言っておきながら大した話はしてないぜ」
「ゴウ、聞かれてるぞ。もっと小声で話せ。お前気付かなかったのか?あの部屋にいた間ずっと身体をスキャンされていたんだぜ。どうやら俺達地球人の生態を調査するのが目的らしい」
「へ?そうなの?まあ、生身の情報はレイラの送ったデータでは解析できないだろうが」
「そういう事だ。やっこさん、地球に比べれば遥かに進化した科学力だが未だ相手の考えを読む精神感応までは出来ないらしい。武装している表層を見ても俺らの何百年か先ってとこだな」
ゴウはタケルの読みに感心した。
「ちょっと会っただけでよくそこまで深読みできるな。良い作家になれるぜ、タケル」
「さあな。どうだレイラ、俺の推理は当たってるか?」
レイラはタケルの問いに答えた。
「思考パターンが違うので難攻しましたがなんとか向こうのマザーにアクセスする事ができました。概ねタケルの思った通りです」
タケルは満足そうに頷いた。
「わかった。後は飛燕の中で話そう」
暫し沈黙。地上の飛燕までたどり着いた。
「ご足労いただきありがとうございました。シールド圏外までは牽引ビームは掛かりませんのでご自身で航行してください。またお会いできますよう。それまでお達者で」
案内ユニットの如何にも人間の言いそうな台詞に二度と会いたくねえよ、と心の中で叫びながら三人は飛燕に乗り込んだ。コックピットに着座したタケルはレイラに指示。
「レイラ、奴等の盗聴をブロックしてくれ。ここからはオフレコだ」
「はい、タケル。もう何を話しても大丈夫です」
タケルはロケットに点火、飛燕はゆっくりと離陸する。
「奴等に怪しまれぬよう平常運航で飛行する。で、どうだレイラ。連中の情報は何か得られたか?」
レイラはタケルの方を向いて答えた。
「彼等は極度の人口増加により母星から送り出されたようです。おそらく三百万光年以上離れた惑星から植民星を求めて旅しています」
ゴウが疑問を振った。
「人口増加って、ペンライト以外見かけなかったけど?」
タケルは呆れて返した。
「お前は馬鹿か?なんで見知らぬ異星人の為に歓迎パレードするんだよ。相当な距離を旅してるって事はおそらく冷凍カプセルかなんかで仮死状態になってるんだろ。航行はマザーコンピューターとあのメカがやってるんだ」
レイラが補足する。
「タケルの言う通りです。百二十億余りの保管ユニットが管理されています」
ゴウは驚愕した。
「百二十億⁈そんな数の異星人、地球に収まる訳ないだろ!奴らは昆虫サイズなのか?」
「いえ。体長二・五メートル、形状は仰る通り孵化したてのスズメバチに似ていますが」
レイラの返答にゴウは顔を歪め舌を出した。
「うえっ!そんな怪物が攻めてきたらたまらんぜ」
タケルはゴウに言った。
「そうならないよう俺達がやるんだ」
「どうやって?武器もないし、相手がデカすぎるって!」
ゴウの悲観的な発想にタケルが返す。
「武力ばかりが打開策じゃないぜ。首尾はどうだ、レイラ」
「はい、仕込んでおきました。彼等には謀略、騙されるという発想がないので思考回路にファイアーウォールが存在しません。無防備なので一度侵入できれば後は容易でした」
ゴウは二人のやり取りが理解できない。
「どういう事だ?何かやらかしたのか」
タケルはニヤリと笑った。
「奴らの電脳にウイルスを仕込んでおいたんだ。時間がくれば星ごとどこかにワープされる。行き先は知らないが外宇宙の星も何もない星海だ」
「え~、いつの間にそんな事話してたんだ?あの星じゃ会話は筒抜け…」
タケルは得意気に語った。
「飛燕を出る前にレイラと打ち合わせしてたんだ。万が一に備えてな。奴らが単細胞で良かったぜ。地表の様子から地球に似た進化をしてそうだったから意外といけるかも、と思ったんだ」
レイラも会話に加わった。
「言語形態等多少異なりますが理解できればプログラムは可能でした。ウイルスの侵入にも気付かれていません」
ゴウは二人の企みに感心。
「すげえな!そこまで考えてたのか。やっぱお前は歴戦の勇者だぜ」
「そんな見え透いた世辞はいい。間もなくシールド外に出る。レイラ、ジェニファーにいつでも脱出できるよう連絡してくれ」
ゴウはタケルの言葉に驚いた。
「ジェニファー?あの高慢ちきに?直接連中に通信すればいいだろ?」
「ゴウ、無線は傍受されてるだろ?ナビAIはテレパスを使った特殊回線が使えるそうだ。それなら奴らに聞かれることはない。レイラ、どうだ?」
レイラが答える。
「はい、ジェニファーとは情報の共有が出来ています。周りのシャトルにも連絡済みだそうです。何時でもオーケーです」
会話中に飛燕はシールドを突破した。レイラはジェニファーに連絡。
「今シールドを抜けたわ。あなた達もすぐに脱出して」
ジェニファーから返信。
「了解。お姉さま、宜しく」
レイラがタケルに報告。
「シャトル群はシールド圏外に向かっています。間もなく境界線を越えます」
「そうか、じゃあシャトル群が出たタイミングで発動してくれ」
レイラが答えた。
「承知しました。ウイルス開封まであと5秒…3、2、1、開放!」
一瞬の静寂。そして星はガス雲ごと忽然と消失した。ゴウが驚喜。
「やったぜ!タケル!俺達が地球の危機を救ったんだ!俺達英雄だぜ」
タケルは失笑した。
「ゴウ、お前は何もやってないけどな。レイラ、他の機の連中は無事か?」
「はい、全機無事です。この後どうされますか?一度地球に帰還されますか」
レイラの問いかけに真顔で答えるタケル。
「そんなの、レース続行に決まってるじゃないか!各機に連絡してくれ、ここから再スタートだ」
「はい、ジェニファーに連絡します。今は彼女がリーダーらしいので」
レイラの笑顔にゴウが茶々を入れる。
「へえ、いつの間に仲直りしたんだ?今やリーダーシップ取る役なんてジェニファーらしいが」
レイラが言い返す。
「ナビAIは対立している訳ではありません。競争という立場にあるのでライバルという立ち位置ですが通常は相互協力するよう作られているのです」
「へえ…そうなの」
ゴウとレイラの無駄話をタケルがさえぎった。
「二人とも、レース再開するぞ!気合を入れろ」
「了解!」
ジェニファーから通信が入る。
「スタートしますわよ。カウントダウン10秒前!9・8・7・6・5・4・3・2・1・ゼロ!ゴー‼」
レーシングシャトルが一斉に加速した。ヴィーナスグランプリは再び開始された。
再開されたヴィーナスグランプリ、結果は意外にも中華航宙が一位、二位にPǍNーNǍМ、三位にユナイテッド航宙となった。四位ルフトハンザ、JǍCチームは五位という成績に終わった。それにもましてJCLが六位にまで躍進している事に驚かされた。再開位置が飛燕にとって最も金星に遠かったという事、
異星人との一件でモチベーションがイマイチだったことを鑑みても残念な結果であった。だが地球連邦からは大讃辞を受け歓待され、三人は地球を守った英雄に祭り上げられた。JǍC本社も日本政府にも絶賛され彼らのギャラは三も割アップし、特別ボーナスも支給された。
夜空を見上げながら種子島基地でディレクター·チェアに腰掛けながら酒盛りするタケルとゴウ。
「大変なレースだったが悪い事ばかりじゃなかったな。なんか楽しかったぜ」
ゴウの呟きに思いを巡らせながらタケルが同意。
「そうだな。作り話と揶揄もされたがジェニーの情報やステーションの観測データにも記録されていて助かったぜ。ただ大した事してないのに英雄扱いされるのは堪んねえな。振り回されっぱなしだ」
ゴウはニヤっと笑った。
「いや、ちやほやされるのも悪くはないぜ。なんせ親方(JǍC)の株うなぎ上りだし俺達お金持ちだしカワイ子ちゃんにはモテモテだし」
「違いねえ」
二人は大声で笑い合った。雲一つ無い夜に月が美しく輝いていた。
ー 第二話・ヴィーナスグランプリ 完 ー
スタートレックは一時間番組だったのですが本作は30分物のアニメを想定していますのでいささか強引に展開しているところがあります。子供向け番組として受け止めていただければ幸いです。




