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平日のある日

誤字脱字満載。多分。ないなら褒めてくれ

 キンコンカンコンと。


 チャイムがなるとふと、中学の頃はどうだったかなんて他愛のないことを考えたりすることがある。


 その『ふとした時』が訪れた。まんま同じだったか?それともリズムが違ったか?なんて少し考えてから答えが出ないことを思い出し思考を止める。そして鞄から一冊の本をとりだした。


 いまは4限目が終わり、昼休みの休憩時間中。眠れなくなってから何か脳内に影響があったのかは知らないが、最近は前まで全く興味を持たなかった哲学書などを購入していたりする。今広げて読んでいるのがそのうちの一つだ。



「ねぇ、奏君」


「……あ?」



 冴崎(かなで)


 数週間前から『眠らなくて良い能力』に目覚め、夜は毎日近所にラーメンを食べにいき、昼はそれまで通り普通に通学しているとある高校生の名前である。『眠らなくて良い能力』なんて言うと聞こえはいいが、そんな大したことでもない。空でも飛べたほうがよほどいいだろう。漫画の住民を羨む。


 (かなで)なんて今の時代こんなことを言って良いかわからないが……女々しいというか、男らしくないというか。俺はこの名前が好きではなかった。だから下の名で呼ばれるとあまり良い気はしない。


 いまは3限目が終わり、10分の休憩時間中。眠れなくなってから何か脳内に影響があったのかは知らないが、最近は前まで全く興味を持たなかった哲学書などを購入していたりする。今広げて読んでいるのがそのうちの一つだ。


 紙面から視線をあげ、声の主へと向けるとそこには篠坂愛がいた。


 篠坂(しのざか)(あい)。同級生。それ以上でも以下でもない。学校のアイドルなんて呼ばれてるが少なくとも俺は彼女との接点は何もない。故にこんな名前で呼ばれる筋合いもなければ、俺に伝えたい用事など皆目見当がつかなかった。



「何ですか」


「何って、はい、こーれ!」



 彼女の身体で影になっているが、所作からその影になっている机から何かをこちらの机に移そうとしたのが目に見えてわかった。咄嗟に広げていた本を体に引き寄せる。


 ドンッ!、と。


 響くほどではないがそれなりの重さを思わせる低音が鳴り、ブワッと風がおこる。


 机の上にはノートの山が鎮座していた。



「えーと、……これは?何?」


「何って。提出物だよ」


「え?あ、ごめん。俺出してなかったか」


「え?……もー!違うよ」



 何がそんなにおかしいのか満面の笑みで笑う。「ほら」と言いながらビシッ!と効果音でもなりそうな勢いで黒板の左下を指さす彼女。そこには冴崎奏と篠坂愛の名前が並んでいた。



「日直!サボっちゃダメだよ?」


「……あぁ」



 つまり運べと。そう言うことらしかった。












「でも奏君って力持ちなんだねー、そんな筋肉あるようには見えないのに」


「え、あぁ、うん。そうなんだ」



 あの提出物の他に職員室に持っていくのはまだあったらしく。それを本来なら分けて持っていこうとしたらしかったが、俺はそれを一つにまとめて現在進行形で運んでいる。


 別にいい格好したかったから無理しているとかそんなのではない。午前の授業の合間、黒板を消す仕事を彼女は全部やってくれていたわけだし、力仕事くらい全部男の俺がやろうと。そう思ってとりあえず机の上に置かれた提出物を持った。


 するとどうだろう。まだまだ全然余力があった。それならとりあえず増やして持っていく回数を減らそうと思ったら。最終的にそれらを全部持ってもあまり重さを感じないことに気づいたのだった。


 筋トレなんざ縁がなかったし体育はあまり好きではない『THE 隠キャ』な体型であるため前までなら最初の提出物だけである程度の重さを感じていたはずだ。眠れなくなったことによる弊害……いや、どちらかと言うと恩恵だろうか。


 とりあえず筋力が上がったことで損することなどない。素直に感謝しよう。神社にでもいっておけば良いのだろうか。実家は浄土真宗なのだが。



「で、何で篠坂さんがいるんですかね。俺が全部持ってるけど」


「だって、サボるなっていった側から私がサボったらダメでしょ?荷物は奏君に任せて、ついていくだけついていくことにしたの」


「さいですか……」



 程なくして職員室に着いた。担任の先生は居ないらしく、入って机の上に全部乗せた。廊下に出る。



「お疲れ様!」


「あ、ありがとう」


「奏君、力持ちだってわかっちゃったから!また何かあったら今日以降もお願いするかも!」


「おいおい勘弁してくれ……」


「じゃ、私友達とお昼ご飯食べるから!またね!」


「あ、あぁ」



 風をきって元気一杯に向かい出した彼女。職員室から出てきた数学の女教師に『廊下は走らない!』なんて叱られながらも受け流して見えなくなった。


 初めて話してから十数分しか会話していないにもかかわらず、いつのまにか彼女に対して口調が緩んでいる自分がいたことに気づいた。奏と下の名前で呼ばれることにも最初は少し不機嫌だったがあんなに連呼されると慣れてしまっていた。なぜか知らないが顔が赤くなる。それは先程までの少しどもり気味の自分を彼女に見られたことによる羞恥だった。



「好かれるわけだな」



 そう嘯きながら、俺は教室へと足を運んだ。この日はそれ以降彼女と話すことはなかった。




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