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前世の記憶(3)

更新が遅れてしまい、申し訳ありません(ーー;)


 

 滞りなく完了した血の契りは、リリアナに幾つかの変化をもたらした。


 まず、アルベルトと念話のような物が出来る様になった。なぜ『ような』とついてしまうのかというと、厳密に言うと念話とはまた違う(くく)りにあたるから、らしい。細かいところは、契約の儀式について疎いリリアナにはさっぱり理解できなかった。


 因みに、アルベルトと主従の縛りを作っているエリックとは、リリアナにも僅かだが影響が出たようで、アルベルトと同じように念話モドキが出来る。

 しかし、あまり距離が離れてしまうと聞き取り辛くなったり、会話が出来なくなってしまう。具体的に言うと、皇都の端から端まで、らしい。アルベルトとリリアナは距離の関係は無く、何処にいてもお互いの位置が分かるし、念話が届くと言っていた。


 次に、お互いの心臓の辺りの肌に、不思議な模様が浮かび上がったという事だ。薔薇の周りを蔓がぐるぐると渦巻いて囲っているような青色の模様で、これはアルベルトと血の契りを交わしたという証拠になるらしい。相手が生命的な危機に陥るとこの模様が痛むので、直ぐに分かるのは便利だ。


 これについては、お互いが了承すれば、死んだ後も残ると教えてくれた。





「…おい、リリアナ、あまりぼけっとしていると躓くぞ」


 説明を聞き、暫く物思いに耽っていたのだが、アルベルトの一声でリリアナは食堂に向かう足を止めた。


「あの、この契約内容…私が裏切ったらどうするんですか…?」


 この契約内容だと、例えばリリアナが寝返ったとして、その際に敵にアルベルトの居場所を簡単に伝えられてしまうというデメリットがある。上手く使えればいいが、一歩間違えれば最悪命を落とす可能性もある。まさに諸刃の剣だ。


「裏切るのか?」


「成る程分かりました。もういいです」


(この人、馬鹿なのかもしれない)


「お前今、失礼な事を考えただろう」


 あまり表情の動かないアルベルトだが、不服そうに切れ長の白で縁取られた瞳を細めた。


「いや、俺の方にも語弊があったか。正しくは、()()()()()()、だな」


「どういう事ですか?」


 リリアナから数歩ほど前を歩いていたアルベルトが更に3歩進み、ゆっくりと振り返る。


「お前は、命の恩人を反故にしたりはしないだろう。それに、教会に子供達も居る。そもそも、俺が逃げられる前にお前を殺すからな。問題ない」


「…成る程」


 窓から差し込んだ夕陽に照らされて陰ったアルベルトの顔には影が落ち、酷く冷徹に見える。


 リリアナが目を覚ましてからというもの、意外と感情のある様に見えるアルベルトだが、実際に戦場の悪魔と恐れられる皇帝だ。あながち、その噂も嘘では無いのかも知れない。


「それに、だ。裏切ろうと思っている奴は、裏切ったらどうするのかなどとは聞かない」


 そう言うと、リリアナに背を向けて歩き出した。

 その背に隙なんてこれっぽっちも無いけれど、ただそれが、これ以上なく頼もしく感じた。


(この人は…)


 もしかしたら、感情を消しているのは必要な時に、大切なものを切り捨てられるようにしているのかもしれない。









「……なんて思った私が馬鹿だったぁッッ!!」


(ホント、優しいのか優しく無いのか分かりにくい!)


 少なくとも、今この現状を見て優しいと述べるのはエリックくらいだとリリアナは断言できる。


 翌日、アルベルトと共に向かったのは、国内最大の鍛冶場。リリアナの武器を選びに行くためである。

 

 公務の方は大丈夫なのかとエリックに訊くと、『自分の護衛の剣は自分が選ぶと仰いまして…』と、もう色々と悟った顔で言われてしまえば、胃薬を渡すしかリリアナに出来ることは無い。ちなみに、なぜアルベルトに聞かないのかと言うと、『問題ない』の一点張りで突っぱねられてしまうからだ。


(でも、全部終わらせてはいるのよね…)


 問題なのは、どちらかと言えば公務ではなく、アルベルトの外出の方なのだ。武器も持っていないド素人の娘一人を護衛として、皇帝が外出していく。これがどれほどに危険なことか。


 自分が皇帝であるのを自覚していないのかと疑うくらいである。




 そして現在。リリアナはアルベルトやお針子の着せ替え人形と化している。


「あの、アルベルト様。私は、今日武器を買いに来たのですよね?」


「ああ、来たな」


 そう言いながら新たな膝当てを手に取る。


「では、今いるのは一体?」


「防具屋だが?」


 リリアナの膝に防具を合わせると、一つ頷く。


「武器屋ではなく?」


「そうだな。だが防具品も必要だろう?」


 それも今終わったと言って、防具品を諸々3つずつ購入する。


「いや、ちょっ、待って下さい!流石に自分の主人に防具を買わせるだなんて出来ません!」


「いや、必要な出費だ。」


 それから数分間言い合いをした後、支払いができるようになったら、リリアナがアルベルトに購入金額を返すと言う事で落ち着いた。


「それで、今度は何処へ?」


「あぁ、今度はちゃんと武器屋だ。これは俺が払う」


 不機嫌そうにアルベルトに睨まれて、リリアナも流石に折れるしかなかった。


(口よりも目がモノを言うタイプね…)


 やってきた武器屋は、先ほどまでいた防具屋の斜め前の店。



『リートン武器屋』

 こじんまりとした外観だが、中に入ってみれば小汚さは無く、大量の武器が所狭しと並んでいた。


「オイ、ヴィー。ヴィーはいるか!」


 そう言って声を張り上げたアルベルトに驚いていると、奥からガタガタと物を倒したり引き摺ったりとした音を鳴らしながら、大柄の男性が顔を出した。


「ホイホイっと。おお、弟子に呼ばれて誰かと思いきゃ、アンタか」


「あぁ、久しぶりだなヴィー。なんだ、また太ったんじゃ無いか?」



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