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前世の記憶 (2)

毎週月曜日の投稿にしようかなと、考え中です...


前世編が少し長くなりそうなので、なかなか本編に辿り着けないかも知れない.....


(アルベルト・フォートルガン⁉)


 ぐるぐるぐる、と目が回る音がした気がした。実際は瞬きもせずに固まっていただけなのだけれど。


どうしてこんなところに彼が⁉という衝撃もあったが、今までの自分の行動に、何処か粗相が無かっただろうかという方が正直気になった。何せ、彼はとても冷酷な人となりだと聞いていたからだ。


まさか、そんな人に介抱の様なことをさせてしまうだなんて。首と胴体が永遠の別れをすることになってしまうかもしれない。物理的に。


「し、失礼しましたッ!まさか皇帝陛下だと思わず......」


そう言って勢い良く頭を下げると、全身に痛みが走った。


「阿保か。怪我人が頭を下げてどうする」


「で、ですが」


私がまだ食い下がろうとすると、肩を掴まれて強制的に上を向かされた。


「俺が良いと言ったんだ」


見上げたアルベルトの顔は、不機嫌そうに眉が寄せられていた。


(ひゃゃぁ!び、美形が怒ると本当に怖い!)


 ハラハラしていると、いつの間にかアルベルトのすぐ後ろに控えていたエリックが屈み、結晶花と呼んでいた物を手に取った。


「そんな事より我が主よ、これをどうにかしてくれませんかねぇ?」


そう言ってベッドの周りに散乱した色とりどりの花を見渡した。


「俺じゃない」


「は?」


「俺が出したんじゃなくて、コイツが出したんだ」

そう言って、アルベルトはリリアナを顎で指す。


「......これ全部ですか?」


それに対して憮然と頷くアルベルトを暫く呆けて見ていたエリックだったが、次の瞬間、室内に彼の絶叫が響き渡った。


「いやいやいや、ど、どれどけの魔力量ですか!?あり得ないでしょう!貴方様と遜色無いですよ!?こんな華奢なご令嬢が!?」


「魔力量に華奢も女も関係無いだろう」


「い、いや...確かに有りませんが......」


「....俺はこれが欲しいのだが」


そう言ってアルベルトはリリアナに視線を移した。


「あ、あの、これは一体?」


 アルベルトとエリックの視線に耐えられず、思わず疑問を投げつけてしまう。

リリアナの疑問に答えたのはアルベルトだった。


「これ...?ああ、これは『結晶花』と言って、魔力を養分に育つ特殊な花だ。溜まりすぎた魔力を吸収してくれるので、主に魔力多過になっている患者に使われる。お前も、魔封じの腕輪を着けていただろう?体内に魔力を溜め込み過ぎだ。あのまま行けば、魔力暴走が起きて辺り一帯が平地になったうえで、体が粉々になるところだったぞ」


(か、体が粉々......)


教育の一環として魔力暴走の事は知っていたが、いざ自分の身に起きかけていたとなると、今生きているのが奇跡のように思える。

 

 話ぶりからして、気を失う直前に聞こえた声はアルベルトとエリックの物だったのだろう。この二人には感謝してもしきれない。


 そこで、暫く俯いて考え込んでいたエリックがリリアナとアルベルトに視線を戻した。


「我が主。貴方様は、こちらのご令嬢が欲しいと仰いましたよね?」


「ああ、言ったな」


 リリアナの預かり知らぬところでどんどん話が進んでいってしまっている。だが、確かに先程アルベルトはリリアナを指して、これが欲しいと言っていた。

欲しいと言っても何に使うつもりなのだろうか?この流れからいって、リリアナに拒否権は存在していない。そもそも、アルベルトに向かって拒否出来るような根性も無いし、実力も無い。

リリアナが一人で考え込んでいる間にも、アルベルトとエリックの話は進んでいく。当事者のリリアナに目もくれずに。


数分して、今後の方針が決まったようだ。アルベルトとエリックがこちらに視線を向けて来た。


「リリアナ嬢。貴女には、帝国に来ていただきたいのですが。どうでしょう?来ていただけますか?」


勿論、付いていくつもりだった。

お世話になったあの村も焼けてしまったようだし、他にいく宛も無い。人によっては薄情だと言われるかもしれないが、生き残るにはそんなことは言ってはいられない。


ただ、1つだけ気がかりなことがあった。

起きたときから胸のなかに燻っていて、いつ聞こうかと悩んでいたのだ。返答次第では、この国からリリアナが離れることは出来ない。


「あの、付いていくのはもちろん構わないのですが、あの子達....村にいた子供達はどうなっているのでしょうか?」


 恐らく今回の事件により、親を失ってしまった子供たちが何人かいるだろう。助けられなかったのは心苦しいが、せめて、子供たちだけても助かってくれていると嬉しい。贅沢を言えば、助かった子供たちは教会や孤児院に引き渡してくれると、少しでも心残りが無くなる。

そんな願いを込めて、アルベルトとエリックを見上げる。


答えたのはアルベルトだった。


「その事に関しては安心してもらっていい。連れていかれていた子供たちは、全員無事に保護して、王都の教会にそれぞれ引き渡した」


知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出した。


「あ、ありがとうございます」


(良かった....サラも、ジョンも、レンジも無事だった......)


 浮かんだのは3人の子供の顔だった。サラとジョンとレンジは、特に仲が良い三人組で、常に一緒にいた。一人でも欠けてしまったら立ち直れなかったかもしれない。三人の両親は居なくなってしまっても、お互いに支え合って生きて欲しい。


 安心すると、次々と涙が溢れ出てきた。

気が付かない内に、我慢していたようだ。もしかしたら、村に移り住んでから今までずっと。両親に捨てられたときから。一人で暗い森の中をさ迷っていたときから。私の事を受け入れてくれたお婆さんの、村の皆の叫び声を聞いたときから。

二人の前なのにみっともないと、涙を止めようと手の甲で擦ってみるが、止まる気配は一向にしない。


「す、すみま、せん。す、ぐに止めます、からっ...」


エリックはいつの間にか居なくなっている。部屋に残っているのはアルベルトと啜り泣くリリアナだけだ。


一向に止まらない涙に嫌になっていると、アルベルトが両腕をこちらに伸ばしてきた。


「......落ち着け。そうやって擦ると、後で腫れるぞ」


そう言って、リリアナの両手を目元から引き離すと、自分の長い指でリリアナの涙をぎこちなく、だが、優しく拭った。アルベルトの左手は、リリアナの背に添えられ、ゆっくりと擦っている。


アルベルトの意外な優しさに触れて、更に涙が溢れてくる。


「ひっく、ふ、ふぇぇ....」


「ああもう、何で更に泣くんだ......」







 暫くしてからリリアナが泣き止むと、エリックと5人の侍女達が入ってきた。その内の一人には、先程大慌てで出ていった次女もいた。


 身だしなみを整える為に、そろそろ.....というところで、忘れていた痛みが身体中を走った。


急に押し黙ってしまったリリアナを全員が覗き込んだ。


「.....どうした?」


「か、」


「か?」


「体が痛いです...」


アルベルトに聞かれて答えると、エリックが思い出したかのように頷いた。


「そう言えば、魔力多過のせいで回復魔法が掛けられなかったんでしたね。今の状態なら問題ないでしょう。傷が塞がっていないまま風呂に入るのも苦痛でしょうし、手当てしましょうか」


「お、お願いします.....」


ずっと痛みを耐えているリリアナは息をするのもだいぶきつく、そう言うのが精一杯だ。さっきまで痛みを忘れていた自分を褒めてやりたい。


アルベルトがリリアナの額に右手を掲げる。すると、金色の光が頭上から降ってきた。


(暖かい.....)


リリアナが村で気絶する前に感じた暖かみと同じだ。やはり、最後に聞こえた声はアルベルトの物だったようで、流れ込んでくる彼の魔力からは労りが感じられる。


(誰かしら.....恐ろしい皇帝陛下だと言い出したのは...)


今のアルベルトからはそんなこと一切感じ取れない。


アルベルトの翳されていた手が下ろされる。どうやら終わったようだ。いつの間にか全身の痛みも綺麗に無くなっている。


「有り難うございました」


「いや、かまわない。用意をするのだろう?エリック、ひとまず退出するぞ」


「はいはい、わかりましたよ。そんなに急かさないで下さい。では、リリアナ嬢。私達は後程伺いますので、ゆっくり体を清めてきてくださいね。それが終わったら貴女も私と同じアルベルト様の下僕へ仲間入りですよ~」


そう言うと、ヒラヒラと手を振って退出していった。


(何だったのかしら..げ、下僕だなんて物騒な…)


パタン.....と、扉が閉まると同時に、侍女達に浴室に連れていかれる。


「もうもうもう!一週間も眠っていたお嬢様を直ぐに連れていこうとなさるなんて!世の中の女性には何事も用意というものが必要なのに!!」


そう言って憤慨している侍女達に、あれよあれよという間に来ていたワンピースを剥ぎ取られ、浴槽に突っ込まれる。


久々に肩までお湯に浸かった体は、かさついていた。村にいるときは、冷たい水に浸した布で体を脱ぐって、安い石鹸で髪の毛を洗い流すだけだった。


頭を丁寧に洗われながら、水面に浮いている薔薇の花びらをつつく。


「こんなに傷んでしまわれて…絶対に元の艶々のお髪にしてあげますからね!」


「え、ええ。有り難う」


そうリリアナが返すと、他の侍女達にも大声で否定された。


「いえいえいえ!こんなこと!」


「私達が楽しくてやっているのですから!」


「磨けば磨くほどお綺麗になられる.....」


「ええ、ええ。とても楽しいです!」


捲し立てる彼女達に負けて、お礼を言う気も失せてしまう。


(だって…本当に楽しそうにしているのだもの…)


「少し、毛先を整えさせていただきますね」


「ええと、もう好きなようにしてくださっていいですよ」


そうリリアナが伝えると、髪の毛を洗い流していた侍女は、笑みを更に深くし、もう一人の侍女が嬉々としてはさみを持ってきた。


いつの間にか伸びていた髪の毛だ。そもそも村に入る前もこんなに長くは無かったはずだ。眠っている一週間に一体何があったのか。


「皇帝陛下はお髪が長い方がお好みのようでしたし、そこまで切るつもりはありませんから。では、いきますね!」


ショキ、という小気味良い音と共に、毛先が切られていく。


(アルベルト陛下って、長髪好きなのかしら…)


そんなとりとめの無い事を考えている内に、全て切り終わったようで、頭皮から毛先にかけてお湯が掛けられる。バスタブの足下には大量の髪の毛が落ちていることから、毛先を整えるついでに量も減らしたことが分かった。


「では、もう一度頭を洗わせていただきますね~」


(何時間掛かるのかしら....)


そう考え、リリアナの目が遠くを見ていた事に気が付いた侍女は誰一人と居なかった。




 結局、全ての支度が終わったのは半日程立ってからだった。それでもまだ不服そうにしていた侍女達には、あとは何処を磨くのか、何処を着飾るのかと聞いてみたいほどだったが、彼女達の呪詛が怖くて出来なかった。



 そして呼び出された王宮の一室。扉を三回ノックすると、リリアナだけが入室の許可を貰えた。ここまでついてきてくれた侍女にお礼を言って、エリックによって開けられた扉から入る。


「失礼いたします」


 広い客室には、木製の艶やかな机と、それを挟んで、見るからに上等の二人掛けのソファーが2つ置いてある。更にその奥に鎮座している一人掛けのソファーには、アルベルトが座っている。アルベルトの正面の机の上には、大量の書類の山。

ベッドが置かれていないことから、ここは寝室ではないのだろう。とすると、奥にある扉が寝室と繋がっているのか。


ざっくりと間取りを確認したリリアナは、すぐさまアルベルトに向き直る。

その間、アルベルトは書類から目を離さない。


(さて、どうしたものかしら?)


 部屋の主であるアルベルト陛下の許可が無ければ、リリアナは、座る事すら出来ない。

アルベルトのことだ。リリアナに気がついているが、敢えて無視しているのだろう...しかし、アルベルトの真意がつかめない。

 

 室内に響くのは、壁掛け時計と、アルベルトが資料にペンを走らせ、捲る音のみ。


 どれほどの時間が経っただろう。ふと、窓の外に目を向けると、空が紅く染まっていた。この部屋に来たときには、時計の針は1時を指していたが、今見ると短針が4の数字を指している。

要するに、リリアナとエリックは三時間程立ちっぱなしということだ。


(村に住み始めてから、農作業をしていたから、足腰には自信があるけれど.....流石に疲れてきたわね)


「.....そろそろか」


アルベルトがペンを置くと、扉の前で控えていたエリックが頷き、退出していった。


「...もういいだろう。リリアナ、正式にお前を雇うことにした」


「.....判断基準をお訊きしても?」


アルベルトは1つ頷くと、不敵な微笑みを整った顔に浮かべた。


「先ず、魔力保持量だ。あれほどの量の結晶花を咲かせる事の出来る魔力のストックを持ったヤツは中々居ない。これはまあ、あれば良いなという程度の事だ。」


笑みを更に深くし、アルベルトは続ける。


「次に、どれ程の忍耐力があるかだ。お前が部屋に入ってきてから三時間程経過したな。まあ、大抵の奴等は入室してから5分と経たない内に、声が掛けられないことについて何かしら言ってくる。そもそも俺は俺の事をどうこう言われたくはないし、聞き入れるつもりもない。だから、俺の行動について文句を言ってくる部下は持たないと決めている」


 そう言えば、エリックがどれだけ捲し立てても、無視していたな.....と、思いだし、そういう理由があったのかと納得した。


「成る程、そうでしたか。では、そちらの書類の山の中に契約書が?」


「いや、俺は基本的には契約書は書かせない」


では、どうするのかと聞きかけたが、口をつぐむ。


(あの目は、答えを待っている目だわ.....)


恐らく、アルベルトはリリアナが自分で答えを導き出すのを待っているのだろう。何も言わずにこちらを見ている。


(契約書は書かない.....けれど、契約はさせなければいけない。確かに、紙の契約書では心許ないわね。裏切られる可能性があるし。そうなってくると...そうか、紙じゃ無ければ良いのね!)


 とある魔法の一種に、『血の契り(ちぎ)』というものがある。

 別に血でなくとも良いのだが、お互いの体液を取り込み、体、しいては魂に誓いをたてるのだ。そうすることで、魂どうしで直接契約が結ばれる。破った場合は魂が破壊され、輪廻転生の輪から弾かれてしまうのだが。しかし、この契りで主従関係を結び、お互いが承諾すると、様々な利点があることから今でも稀に使われることがあると聞いたことがある。


「血の契り...でしょうか?」


「そうだ。まさか分かるとは」


答えられたことに驚いたのだろうか。アルベルトが僅かに目を見張る。


(自分で聞いたのでしょうが...)


「まあ、そういうことだ。早速始めるぞ」


そう言うと、アルベルトは椅子から立ち上がり、側に立て掛けてあった剣を手に取った。


 装飾の少ない実用性のある剣だ。黒光りする鞘には、帝国の紋章と僅かな、しかし細かい装飾が金で施されている。

シャラリと金属同士の擦れる音と共に現れたのは、光すら吸い込んでしまいそうな程に黒い刀身。しかし、禍々しさは感じず、丁寧に手入れされていることが分かる。


 アルベルトが触れるか触れないかわからない程に、左手の親指を刃に当てると、プクリと血の玉が白い肌に浮かんだ。

ほら、と剣を差し出してくる。成る程、これで指を切れば良いということかと理解し、剣の柄を両手で握る。


(重ッッ!?)


 両手で握ったにも関わらず、手が震える。アルベルトは軽々と片手で持ち上げていたのに。動揺を悟られないように、表情を作るが、時すでに遅し。アルベルトは血が流れていない右手で口元を覆っていた。


その姿に僅かに腹をたたせながらも、どうにか右手で剣を支える。左手の親指に熱が走り、血が流れた。


深く切ってしまったようで、血がドレスの袖に付きそうだ。どうしようかと眺めていると、アルベルトがリリアナの手にしている剣を奪った。


「何してるんだ!?」


そのまま剣を鞘に戻し、リリアナの左手首を掴む。


(大きな手...)


じっとアルベルトの手を眺めていると、僅かな暖かみと共に、傷の大部分が治っていく。


「すみません。有り難うございます」


怪我をした筈なのだが、以外と取り乱すことは無かった。つい最近、大怪我をしたからかも知れない。


「いや...取り敢えず、術を完成させるぞ」


そう言ったアルベルトに1つ頷き、左手を差し出した。



中途半端な所で切ってしまったので、早めに更新しようかなと思ってマス。( `・ω・´)ノ

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