ドアの前でご面倒
暴力系主人公を書きたくて書きました。
ピンポン。
今日同居人は帰る予定はない。誰だろう。穴から覗いたら、今風若い女性。
ドアを開けた。
実際見ても、若い。ニットワンピースにネイビーのニット帽で化粧もきっちり目が大きく唇がビビッドな赤だ。
「あなたがミサト?洋二とどんな関係よ」
まさかとは思ったが二股かあのバカ男?
あんたが洋二をとったのね?あんた遊ばれてるのよ!
笑えるほどの罵倒が飛び出す。表情を変えない私に余裕をなくしていく女性。私を詰りながら声を荒げていく。派手なネイルの指先がバッグから包丁を取り出す。おしゃれなバッグから包丁という台所道具に、家庭的な部分が感じられて印象UP。
できれば避けたいが、止められず腕を軽く刺される。女性は血を見て手の力が抜けた。からりと金属音が響き包丁の刃にぬめる赤。怯えるなら刺すなや。慌てて逃げようとする彼女を片手で捻って地面に押さえつける。暴れる彼女に「ちょっと見ててね」刺されてない方の腕で壁を殴る。バゴッ。拳から放射状にみるみる広がる亀裂。「怪我したくなければちょっと静かにしててね」こくこくと頷く、いい子だ。
しまった、メアドしか知らん。彼女から電話番号を聞き出し私の携帯からかける。もう仕事終わってるだろうが、取れや。夜中に電話ばっかかけてくるくせに。10回以上鳴らして、ようやく出た。
「はい」
「もしもし、三郷です。ナカハラヨウジさん」
「え、え?三郷?」
無視する。
「質問だけ答えろ。えっと、あなた名前教えて」
「オッケ、かやまはるみ、はお前の何だ?」
「そいつと会ってるんですか!」
「質問だけ答えろカスが」
ドスが効いた声が出た。
「元カノです」
「今すぐアパートまで来い。来ないならこの女警察に突き出してお前は病院送りだ」
「行きます」
5分後、私たちの前にバカは来た。腕から血を流す私と正座で泣き続ける元カノを見て狼狽える。問答無用でバカも正座させる。
「おい、ナカハラ。今すぐ彼女と話し合え。」
「もう別れてます」
「ボケ。承知してないから私が間違えて刺されてるんだろうが」
「は、早く手当てしましょう」
「話によっては病院に行くやつが増えるから手間を省いてやるっつってんだよ」
ナカハラが震えた。二人に向かって何気なくぼやく。
「あのさぁ、私の姉、マジでカスな男としか付き合わねえの。しかも本気で気づかないし」
「そろそろいい年なんだから、痛い目見ればいいとは思うんだけど、火の粉が降りかかってきちゃうとね、咄嗟にはね除けてしまうじゃん?」
カスを蔑んだ目で見た。
「と言うわけで、話し合いによっては」粉砕した壁を指差した。元カノの悲鳴にバカも青ざめた。
廊下で額をすりつけて謝る男。呆けたように男を見つめる女。そして、ドアに凭れて待つ私。
10分後、話は終わったらしい。
「どうなった?」
「話はつきました。怪我させてすいませんでした」
ぼこり。顎を砕いてやろうか。バカは地面にめり込んだ。
「ボケ、女から謝るんなら許すがカスから謝られたら腹立つだけじゃ」
「ごめんなさいごめんなさい」
元カノさんも必死で謝る。
「ふーん、もういいの?」
「はい、すいませんでした。吹っ切れました!」
「ならいいかな。じゃ、今から病院行くから金出せ」
振り返り、
「カス、お前もだ」
しめて3万円。情けない顔するなや。姉御に言わない口止め料だ。
「じゃあ、元気でな」
歩き出した。あ、いけない。
「おっとナカハラ(カス)」
「名前を呼ばれてる気がしない」
「呼んでないからな」
「今度子供できた女でも来たら姉御に関係なく潰すからな」
優男が震え上がった。
「女なめるのもいい加減にしろよ」
にこり。さて、運転してくれる友達はとガラケーを開く。
「あー佐井ちゃん、元気?」
後ろの二人がどんな顔してたかって?知らん、興味ないから。
メモ
主人公:
見た目普通の女。かわいくはない。が、怪力で戦闘力が異常に高い。姉の超人的男運のなさによって鍛えられた部分もある。姉から初めて引き合わされたときから今回もカス(ナカハラ)だと気づいていた。
因みに、警察にはお世話になってるので(被害者として)助けてくれる人が多い。苦笑いで迎えられる。
周りに男の友人はいるが、カスはいない。女遊びで本気になった女を責任もって片付ける悪い大人が固めている。こいつらの誰かに姉を任せたら楽なのにと思っている。
姉:
見た目若く、なかなか可愛いが惚れっぽい。妹に彼氏を片付けられているので、人を見る目は低いまま。
ナカハラ(カス):
彼女ができるとべったりタイプ。今回年上彼女(主人公姉)なので余計にべたべた。元カノとは別れきれたと思っていた。カス具合は低。ただの弱気男。姉と別れる日は自分の最期かもしれないと震える。
元カノ:
ナカハラから軽く別れを告げられて人間不振。かっとなって切りつけた相手がまるでヤクザで恐怖を覚える。有りがたいことに今回の件で、話もしないで着信拒否のカス男に未練が消える。