序章
遠くに見える砂煙が段々と大きくなり、双眼鏡で対象を確認できる距離になる。
ギャギャギャギャギャギャギャギャ
一対の歯車のような車輪が高速回転し、激しい摺動音が鳴り響く。赤黒く光る鋼鉄の身体に、錆びた鉄のような鎧をまとう彼らの右手には、身長ほどのブレードが結合されている。オイルがつたう、ところどころ錆びたそのブレードを地にあてながら高速走行をしているため、砂煙が通常より大きい。おそらくは、進軍している数をごまかしているのだろう。10体弱の機械兵の小隊が砂漠を爆走して、こちらに向かってくることが確認できた。
機械兵マシニクルワン、最下級の機械兵である。その機械兵は近接戦闘に特化したブレード型と遠距離支援に特化したウェポン型の2タイプが存在する。通常、二足歩行であるが、今回のように車輪で機動することもある。最下級兵士であるため、在り合わせの部品で産み出されているのがその理由であり、つまり、数あわせの兵士にすぎないのが一般の認識だ。
岩影から機械兵の様子を伺っていた男は、機械兵の小隊が自信から1キロメートル程の地点に達したところで立ちあがる。そして、腰に巻いているベルトにつけた球体を取り外すと、そのまま目線の高さまで下から上へと軽く投げた。球体の一部が、男の蒼色の目と向かい合い、それは始まる。
「認証シマシタ.戦術形態ヘ移行シマス.」
無機質な機械音が頭のなかに直接語りかけ、宙に浮いた球体が形を崩し、展開を始める。
ゾゾゾゾゾ
男の180㎝はあろうその身体の50%を覆う機械鎧に球体は変化していく。その大半を占めるのは右腕を覆い隠すように展開した装甲である。五指の先端は尖った金属に覆われてるが如く鋭く、掌の中心には透き通った金属による円盤が、肩にはブースターが形成されている。
「10体程度ならこんなものか....」
機械兵の小隊に向けて照準をあわせるように右腕をまっすぐ伸ばし、左腕を補助にあてる。男が息を深く吸った瞬間、右腕の装甲の継ぎ目が赤く輝き、掌に集光していく。
「光波動弾」
掌から放たれた光の塊は機械兵の小隊に着弾し、直径50mほどの爆発を伴って消失した、もちろん、機械兵と共に。後に残ってるのは円形にえぐれた砂漠だけだった。そのえぐれた砂漠も、風が吹き、すぐにもとに戻る。そんな光景を見つつ、男はいつも思う、こんな茶番いつまで続くのか、と。