呪術師とテンプレドラゴン2
サディの後ろ髪をぽんぽんと、出来るだけ優しく……こんな感じでどうでしょうか? いつか読んだ、ファッション雑誌。女の子が喜ぶなんとやら。まさか、実践する日が来ようとは、夢にも思いませんでしたよ! しかし、ここからどうする? 何をすれば正解? わからん……結局、それを繰り返すことしか出来なかった。
だが、それが功を奏したようで、彼女の昂りは、若干の収束を見せ、今は俺の膝の上で大人しくしている。 大人しくしているのだが、少々勝手が違ったようで、俺たちは、向か合って、重なり合って……熱い視線がその……サディさん近いです。
「……サディ? その、まだまだ聞きたい事があるんだけど」
「んー? なぁにぃ?」
彼女の蕩けた表情に甘ったるい声。どうにかなってしまいそうだ。しかも、サディは何を思ったか、人差し指で、俺の胸元をぐりぐりと刺激してきて、何かを誘っていると言わんばかりの、挑発的な上目づかいで、不敵に妖しく微笑む。まさに、妖艶。その、一見幼く見える小さな身体から、どうやって醸し出しているのか? 危うくも刺激的な色香が、俺を惑わせる。
全く、落ちるもの。とは、よく言ったものである。出会って一日と経っていない。しかし、俺のような未熟な若者が恋に落ちるには、じゅうぶん過ぎるのではないだろうか? ただ、唯一問題があったとすれば、俺に意気地が無かったことである。勘違いだったらどうしよう……などと、最近負った、些細なトラウマから、二の足を踏んでしまった。
たまたま俺だっただけ。きっと勘違いしている。だから、自分を大切にした方が良い。どこかで聞いたような、綺麗ごとでお茶を濁す。すると、彼女は飛びのいて、顔をしかめると一言。
「つまんない」
元の椅子に座り直し、頬杖をついてそっぽを向くサディ。貝に……貝になりたい。物言わぬ貝になって、海の底で静かに暮らしたい。そしたら、こんな思いしなくてすんだのに! 俺の意気地なし! 軟弱者! ラノベ主人公気どり! そんなことだから俺は……
「で? 聞きたいことってなに?」
指で机をトントンと叩く。そうとうに不服だったご様子。なんとか機嫌をなおしてもらわなければ、俺の心は耐えられそうもない。
「そ、そうだ! 今朝、森で色々採ってきたんだよ! 少し遅くなったけど、食事にしない? 話は、食べながらでも……」
「いい」
即答である。早くも、手持ちの弾は尽きた。ここまでか……
「……ねえ、なにを採ってきたの?」
まだ終わってはいなかった。食べられるかわからないんだけど……と、採って来たものを、上着から取り出して、机に並べていく。そして、彼女にジャッジをゆだねた。
「ど、どうかな?」
「んー……忍は食べられなくはないけど、きっと美味しくないよ」
まあ、食べられないよりはましか。しかし、そんなものをサディに食べさせる訳にはいかないし、せっかくの久しぶりの食事が不味いのはちょっと……空腹でもないしなあ。仕方ない、我慢するか。
「はい」
そう言って、口元に差し出される木の実。えーと……サディさん?
「聞きたいことがあるんでしょう?」
「あ、ああ」
「じゃあ、はい、あーん」
「え? あの、これ……不味いんだよね?」
「うん」
彼女は、何を企んでいるのか? 悪戯な表情からは、ろくでもないことを考えているのがわかる。小悪魔とは、こう言う女の子のことなのか?
「話は、食べながら……なんだよね?」
「……はい?」
「だからあ、一つ食べることに一つ、質問に応えてあげるね!」
サディなりの仕返しなのだろう。実に、生き生きとしていた。天使のような、悪魔の笑顔とは、まさにこのこと。代償無しには、何も得られない。神話の時代から、決まっていることなのである。しかし、このくらいのことで、彼女の機嫌がなおるなら、安い物ではないか。しかも、サディが食べさせてくれるのだから、少しくらい不味かろうと、大した問題で無い。俺は喜んで口にした。
ただ一つ、誤算があったとすれば、想像以上に不味かったことであった。しかし、彼女の手は止まらない。次々に運ばれるそれらを、吐き出しそうになるのを必死に堪えて飲み込んでいく。そんな俺の様子を楽しむ彼女の嗜虐的な微笑みが、とても印象的だった。