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呪術師とテンプレドラゴン5

 ガラにもない臭い台詞を口走ったせいで、顔が火を吹いているように熱い。サディは、そんな俺の顔を、からかうように覗き込んでくる。やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。彼女の視線に耐えきれなくなり、あからさまに話をそらした。


「い、いっそのこと、お祓いとかで、呪いが解ければいいんだけどね」

「解呪? 可能だとは思う。ただ、通常の手順とは、異なるかもしれない」


 出来るんだ。苦し紛れの話題替えだったけど、それは良いこと聞いた。この場所で、ただただ時間に身を任せるだけのような、二人で穏やかな暮らしもアリかな。なんて、現を抜かしていたけど、万が一があるかもしれない。むしろ、年寄りの運転する某ハイブリッドカーなんかよりも、危険な化け物がうじゃうじゃいるのだから、祓えるのなら、祓っておいた方が良いに決まっている。


「ちなみにサディは、解呪……だっけ? 出来るの?」

「私には無理。電磁力の魔法の使い手じゃなきゃ……それも、高位の。忍は魂だけの呪いで特殊だから」


 電磁力の魔法。主に、電気を操る力。技術である以上、使用者の力量にある程度左右されてしまうものの、攻撃に利用した場合の、単純な破壊力もさることながら、行使の際に、眩い光を放つことから、神聖視されており、高位の使用者ともなると、信仰の対象になっていることもある。例外もあるが、四つの魔法の根源の中で、とりわけ応用力が高く、非常に便利な力であるのだが、重力の次に扱える者が少なく、非常に貴重な力でもある。なるほど。


「魂は、ある種のプラズマだと言われている。高位の電磁力使いなら、もしかしたら、忍の魂だけに干渉出来るかもしれない」


 魔法の構造の難しい話はわからないが、試す価値はじゅうぶんと言うことだな。これで、当面の目的は決まった。しかし、電磁力が使える人は、めったにいないのかあ。こう言うときのセオリーとしては、ありきたりだけど情報収集かなあ。出来るだけ大きい街にでも行って、聞き込みするのが確実だと思うんだけど、ともあれ、まずはサディの説得を。私事で、非常に申し上げにくいのですが、覚悟はよろしいですか?


「サディ……その、言いにくいんだけど……」

「嫌」

「え?」

「私も忍と一緒に行く」


 間違いなく、俺との出会いが原因だろう。この場所で、ずっと一人ぼっちだったサディ。一族の長として、ここに一人残ることを買って出て、気の遠くなるような長い時間、孤独に耐えてきた。彼女の性格を考えると、切っ掛けは、単なる強がりだったのかもしれない。勿論それもあるだろうが、一族の為、森の為と、気を張り続けていたに違いない。


 そんな張りつめた糸のような、彼女の揺るぎない心を、俺との出会いが波をたて、ゆるみを生じさせた。一度ゆるんでしまった糸を張り直すのは、危険かもしれない。今にも千切れてしまいそうなほど酷使ししていた心の糸を、きっとサディは気持ちだけで繋ぎ止めていたんだ、張り直そうと無理に強く引っ張れば、簡単に千切れてしまうかもしれない。いや、出会って間もないはずの俺に、依存しているような言動が見受けられるのは、もしかしたら、もう千切れてしまったのかもしれない。まあ、当たらずとも遠からずだろう。馬鹿だなあ。約束したんだから、サディをおいて行くわけないだろ? でも、勘違いさせてしまってゴメン。だから、顔を上げて。


「いや、そうじゃなくて、今、俺からも頼もうと思ってたんだよ」

「じゃあ……」

「ああ、俺と一緒に来てくれないか? 大事なお勤め中のところ、悪いんだけど」

「ううん、そんなことない! 森の浄化はまだまだかかるから、ちょっとくらいなら平気! 準備しなくちゃ!」


 サディの不安をたたえていた表情が、みるみるうちに晴れやかになっていく。彼女は座ったまま、子どもがはしゃいでいるみたいに、器用にお尻で何度か小さく跳ねると、せわしなく立ち上がり、狭い室内を行ったり来たりし始める。そんな彼女の様子を見ていると、なんだかこちらもワクワクしてしまう。はは、大げさだな。そんなことくらいでニコニコしちゃって。サディはこれから遠足にでも行くつもりかな? あんまりはしゃいでると、部屋の中とは言え、転んでも知らないぞ?


「ふふ、忍、変な顔」


 どうやら俺の顔は、はしゃいでいるサディ以上にはしゃいでいたらしい。そんなの当たり前だろ。これから夢のような、二人旅が始まるんだぞ。はしゃがずにいられるか。つか俺も準備しなきゃ。金槌よし。五寸釘よし。藁人形よし。俺には、準備もくそもなかったな。サディはどうかな?。そうそう、弓持って矢持って部屋飛び出して……え?


「サディ!?」

「ん? なあに?」


 思わず呼び留めると、サディは入り口から顔を覗かせた。待って待って。俺をおいてかないでよ。どこ行くんだい? 


「ひとまず、森をこえなくちゃいけないから」

「あ、そっか……俺はともかく、サディたちには毒なんだもんね」

「うーん、私も力を出してれば平気なんだけど、歩くのは疲れるし、足痛くなっちゃいそうで嫌だから」


 なんだかんだ、高貴なお人なんだね。しかし、それと弓矢になんの関係があるんだ? 全く見えてこない。もしかして、空に向かって矢を放つと、なんかそれっぽいのが現れるとか? いやいやいや……でも、魔法があるんだし、無くはないのか?


 ついてきて。と言われ、とりあえずついて行く。井戸のある広場までくると、サディは王冠を外し、力をこめるように凝視すると、王冠は宙に浮かび、空へ空へと上昇していった。何が起こっているのか、全くわからない。すいませーん! 質問良いですかー!


「サディ? これは、何をしてるの?」

「王冠を乱回転させて、光を反射させてる。光るものが好きだから」


 空をよく見ると、王冠が光をちかちかと反射しているのが見え……いや、さすがに見えないよ。どこ? どこに王冠があるの? と言うか、今、何をしているの?


「来た」


 サディがつぶやくと、はるか上空にあった王冠が落下してきて、彼女の胸元でピタリと止まった。彼女はそれを手に取ると、何故か俺の頭に被せ、さらに上着のフードも被せると、自身の視線の先の空を指さした。反射的に目をやると、なにやら黒い影が、こちらに向かってきている。


 あれって……ぐんぐんと近づいてくる影に見覚えがあった。間違いない、ご神木の上で俺を襲ってきた巨大な怪鳥! そうか! アイツを手なずけて、空から森を越えようってことなんだな? なるほどね。確かに、この広大な森を歩いて抜けようなんて、現実的じゃないもんな。


 巨大な怪鳥は、村の上空に到達すると、こちらの様子をうかがっているのか、警戒するように旋回を始める。来るならきやがれ! こっちには、すごい魔法の力を持ってるサディがいるんだぞ! ええ、俺に生け捕りは無理です。対空攻撃の手段も持ち合わせておりません。情けないが、頼るしかないのだ。とりあえず、形だけでも金槌かまえとこ。


 怪鳥は、品定めでもしているかのように、ゆっくりと大きな円を描いている。降りてこないな。まあ、そりゃそうだろうけど。旋回する怪鳥を見つめていた時だった。怪鳥が、巨大な影に飲み込まれた。突然に夜がおとずれたのかと錯覚してしまいそうな影。怪鳥が小鳥だと思えてしまうほど、ソレは、圧倒的だった。


「竜王」


 ドラゴン。ファンタジーの代名詞とも言える巨大生物。それが突如として、目の前に現れたのだった。あまりの衝撃に、開いた口が塞がらない。デカい……想像の何倍もデカい。ジャンボジェットくらいないか? 


「はは……な、何あれ?」

「竜王」

「竜王? なんか、おっかない名前だね……ははは」

「大丈夫。ちょっと大きいだけの空飛ぶトカゲ」


 いやいや。いやいやいやいや……そんなわけないでしょ! あれはヤバいって! 俺の直感的なものも、逃げろって言ってるよ! ほら! サディ逃げるよ! ハンカチ持った!? ティッシュは!? 取り乱す俺を、サディがなだめる。


「大丈夫だから。ほら、見て」


 龍王は、先ほど飲み込んだ怪鳥と同じように、村の上空を旋回していた。ただ、迫力が段違いだな。羽ばたく音と風圧がすごいのなんの。でもなんだ? こっちには目もくれないな。


「王冠を探してる」

「王冠を? 何で?」

「竜王は、光るものが好き。巣に集めてる」


 ん? 烏みたいだな。


「あれをやっつける」

「はあ!? どうして!?」


 思いもよらないサディの言葉に、思わず語気を強めてしまったが、彼女は気にする様子もなく、淡々と続ける。そんな彼女を見て、俺も少しだけ冷静さを取り戻す。


「乗り物にする。それに、竜の素材は高額で取引されていた。旅にお金は必要だし、多い方が良い」

「いや、ごもっともなんだけど……相手が悪いって」

「問題ない。今までに三回くらい負けてるけど、今日は勝てる。忍がいるから」


 サディの表情からは、確信めいたものがうかがえる。謎の自信と言うヤツか? それにしても、良い笑顔! でも、無理だって! 俺、役立たずだもん! 再び取り乱していると、上空から、重低音のような声が響き渡る。


「我が名は、竜王!」


 竜王喋ったー!? ヤバいよヤバいよヤバいよ! 喋るヤツじゃん! 


「我が名は、竜王!」


 また喋ったー!?


「我が名は、竜王! 我が名は、竜王!」


 ……なんだ? アイツ。聞こえてるっての。もしかして、こっちも名のれってこと? それからも、壊れたレコードのように、繰り返し繰り返し、竜王は名のりを上げ続ける。


「サディ……何あれ?」

「竜王」

「うん、それはわかったよ。アレがずっと言ってるし」

「竜王は、誰かがつけた、蔑称」

「べ、蔑称……?」


 ドラゴン。その力は圧倒的で強大だが、この世界では害獣扱い。長命ゆえの知識はあるが、それを活かす知能がない。光物を集めるのが好き。オウムのように、憶えた言葉を繰り返す。どこで憶えたのか、ちょっかい出すと、ほとんどのドラゴンが、愚かな人間どもよ! と喋る。駆除する場合は、罠が有効。ああ、イメージが……


 でも確かに。よくよく考えてみると、俺の世界の昔話とかでも、ドラゴンって結局は人間にやられてるんだよな。思ったより大したことないのかも。


「忍はコレ使って」


そう言うと、サディは俺に弓矢を渡し、駆け上がるように宙に飛び上がり、竜王の元へ向かって行った。

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