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呪術師とテンプレドラゴン4

 強膜は黒く、瞳は赤く。鏡に映る不気味な俺の左目が、俺を見つめ返している。違和感は無い。右目を閉じる。視力はある。これが、アンデットである証なのだろう。どうして……どうしてこんなことになってしまったんだ!? 俺が……俺が、アンデットなんて……嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! などと、今さら取り乱すわけもなく、ちょっとカッコイイなんて考えていた。


 流石に、アンデットだとは思っても見なかったけど、今にしてみれば、思い当たる節はあったのだ。身体が丈夫になってるような気がしたり、睡眠時間が短くなってきたりと、白い靄のおかげだと思っていたけれど、だいたい何で、白い靄をとりこむことが出来るのか? なんてことはない、アンデットだったからである。……え?


「忍は、多分、半分だけ死んでる」

「半分? あ、左半身ってこと?」

「違う。半分は、身体と魂。魂が死んでる。それが、左目に現れてる。何か、心当たりはある?」


 十中八九、あれだろう。ちょっと辛いことがあってね。いきおいで罰当たりなことをしちゃったんだよ。それで気づいたら、この世界に立っててさ。サディに会うまで、森でサバイバルしてたってわけ。正直、かっこ悪いから話したくはなかったが、今さら隠す意味はないだろう。嫌われたら、泣くだろうけど。


「かっこ悪ーい」


 冷めた視線が突き刺さる。予想はしていたが、これはくる。二度目の失恋は目の前だ。


「でも、私は可愛いと思う」


 俺の春は終わらねえ! とうとう来たか? 待ちに待ったぞ! モテキ! サディの境遇を利用しているようで心苦しいが、今のうちに、出来るだけ親密になってもいいじゃないか。サディが俺以外の男と出会ったときに……サディに限ってそんなことは万に一つもないだろうが、もし、もしもよ!? 超イケメンが相手とかだったら、親密さだけでも上じゃないと、勝ち目ないだろ? 舞台にすら上がれないよ。だから、それぐらい大目に見てくれ。


「ふふ、それで、忍が呪いをかけたとき、代償として、まず、魂が死んだ」

「魂だけ? 何で?」

「わからないけど、多分、忍がおこなった呪いは、たちが悪い」


 文字通り、半分だけ。サディが言うには、俺の肉体を殺すために、こちらに落とした可能性がある。出来るだけ惨たらしく。無念と後悔を魂に刻み付け、苦痛と絶望の中で死んでいく。そこまでが、俺の呪いの代償であったと。


 まあ、そうだよな。呪ってやる! って代償が、お互い死ぬだけってのも不公平だ。時と場合にもよるだろうけど、俺の場合は、なんてことはない、醜い嫉妬。しかも、二人だ。普通にくたばるなんて許されないのだろう。そこまで壮絶に死んだとしても、支払いが足りてるかどうか……適当な手順でやったのも、マイナスっぽいよな。


「こっちに来てすぐに、大きい獣が襲ってきたんでしょ?」

「ああ」

「断定は出来ないけど、多分、そう言うこと。でも、忍は思いもやらなかったことをした」


 そう、土壇場で、死から逃げたのだ。偶然だが、呪いを呪いで切り抜けた。マイナスとマイナスを掛けるとプラス。と言う、単純な話ではないだろうが、アンデットになったことによって、呪いの代償は無くなったのかもしれない。おかげで、のうのうと生き延びている。自分に都合の良い、適当な理由をつけて逃げたくせに、サディに出会えたことに、幸せさえ感じてしまっている。みっともない話だ。


「これも多分だけど、代償は無くなってない」

「……と言うと?」

「忍の言う白い靄は、魂」


 死んでしまっている俺の魂は、徐々に劣化していく。呪いを使えばより早く。肉体は滅びずとも、魂が消滅してしまえば、抜け殻の肉体も時間の問題。魂の劣化を、他の魂をとりこむことによって補い、現状を維持している。


「満たされるのは、そのせい。余剰分で、肉体の修復や筋力強化もおこなっている」

「そう言う仕組みかあ……俺が死んだら、呪いはどうなるの?」

「忍の世界と、どうやって繋がってるかわからないけど、おそらくは、かけた相手を殺す」

「そっか……」


 マズいな。いや、自分でかけておいてなんだけど、俺の勝手で、アイツらを死なせるわけにはいかない。最低でも寿命分。あと七・八十年……いや、念には念を入れて、百年は生き抜く必要がある。


「これは、死ぬわけにはいかないな」

「どうして? 呪い殺したいほど憎いんじゃないの?」

「いや、若気のいたりと言うか何と言うか……お恥ずかしい」

「ふふ、良かった。私も忍とお別れしたくないもの」


 俺もサディとずっと一緒にいたいよ。なんて、スマートに言えたらなあ。


「でも、一つだけ不満だわ」

「?」

「死ねない理由はそれだけなの?」

「あ……いや、その」

「私をおいて行かないんでしょ?」

「えっと……俺もずっと……サディと、ずっと一緒にいれたらなあ……と」


 俺の歯切れの悪い台詞に、サディはため息をつくと、呆れたように笑った。しかし、その笑顔は、どこか満足げであった。 、 

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