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Lame world  作者: 冷凍なす
4/4

失くしもの

――放課後


「絃。帰ろうぜ。」

 僕は教室のドアに寄りかかって立つ篠原の方をみる。


「あ、篠原。まって今いく。」


 僕はリュックを背負うと教室のドアに向かう。

 僕が教室のドアに向かっているこの数秒で篠原はクラスの女子に囲まれていた。


「篠原く~ん今からカラオケ行こうよ!」

「あ、私もいきたい!」


 イケメンで派手なくせに頭がいいというギャップは女子受けがとにかくいいらしい。

 ちっなんだよこいつ、と僕はこころの中で舌打ちをする。


「ごめん、俺今日は絃と帰るからごめんね。また今度あそぼ♡」

 篠原はそういうと僕の肩を掴んだ。


「え~!じゃあオカケンも一緒にいこうよ」

 クラスの女子はとんでもない提案をする。

 いや、僕は女子とカラオケ行くメンタルなんて持ち合わせていないぞ。


「いや、俺ら歌下手だからやめとくわ!じゃあね。」

 篠原はそう言って強引に女子の隙間を縫って行く。


 おい、僕を理由にしたな、今。それに篠原は歌がうまい。 


「まてよ、じゃあ僕もこれで」

「え~残念。じゃあね、篠原くん、オカケン。」


 僕は篠原の後を追う。

 

 篠原のこういうところにムカつくときもあるが、こうやって僕のような暗いやつが女子に気持ち悪がられずに会話ができているのは篠原のおかげだといのは紛れもない事実であり、感謝せざるを得ない。


「あ。オカケン!明日の報告まってろよ!」


 教室を出たところで部活に向かう鈴木と山下のコンビに声を掛けられる。

「はーい、じゃあまた明日。」


 僕は明日の報告に欠片も期待していないため、適当に別れを告げる。


 教室のドアから少し離れたところに立っている篠原に「おせーよ。」と小突かれて僕らは岐路についた。誰のせいだよ。


 僕らはだいたいいつも一緒に帰宅している。

 僕はオカルト研究部の幽霊部員で、篠原は帰宅部だからだ。学区も同じだしな。


 僕ら一般生徒は必ず部活に入らなければいけないが、特待生の篠原は対象ではないようだった。


 歩いて10分くらい進んだところで僕らは別れ、別々の道を歩みだす。


「あ。」


 それぞれ別の方向を向いて歩きだしだとき。

 篠原の声で僕は振り返った。


「お前、あんまり余計なことに首突っ込むのはやめとけよ。」

「え?なんのことだよ。」


「だから――…オカ研のやつらがやっているようなことだよ。」

「はぁ?何言ってんだよ。僕はオカルトに興味なんてないし、首突っ込むことはないよ。じゃあな。」


 僕はそういうとまた前を向いて歩きだした。

 

 いつになく真面目な表情をした篠原の顔を思い浮かべながら――。




―――


「ただいまー。」


 僕が家に帰ると、先に帰っていたやよいがリビングのソファでくつろいでいた。

「おかえりー。今日は夜ご飯なににする?」


 やよいは読んでいた女児向けファッション誌を閉じ、僕に駆け寄ってくる。


 やよいが高学年にあがってからは、僕たち二人で夜ご飯を作るのが日課だ。


「今日はシチューとハンバーグにするか~。」

 冷蔵庫を開け中身を確認すると、今日の献立を決める。

「やったあ~。」


 僕らは一緒にキッチンに立ち、手際よく料理を始める。


 僕は料理が嫌いじゃない。というより、やよいと過ごすこの時間が好きだ。

 料理をしながら今日学校であった出来事を話してくれる。


「そういえばね、お兄ちゃん…。」

 いつものはきはきした口調とは違い、もじもじしながらやよいが話し出した。


 おい、まさか。


「わたしね、ショウ君と…」


 やめてくれよ、妹。


「…付き合うことになったの!応援してよね!」


 …なんてタイムリーなんだ。


 まさか本当に彼氏ができるなんて。いや、でも相手がショウくんならいいのか?でもまだ小学生だろ。ていうか僕より先に恋人できたのかよ。嘘だろ。


 僕は無言で試行を巡らせた結果、「おめでとう。よかったな。」と宇宙一引きつった笑顔で妹を祝福した。



―――


 ハンバーグを熱し、シチューを煮込んでいる間、僕はソファでごろごろしていた。

 やよいは2階の自室に戻っているようだ。


「あーーーー!!!!」

 するとやよいがものすごい勢いで発狂しながら階段を駆け下りてきた。


「どうしたんだよ、お前。」

 僕は驚いてやよいを確認する。


「ないの…お気に入りのリボン!明日初デートなのに…。」

 なにやらやよいは探し物をしているらしかった。


 デートなんて小学生のくせに生意気な…と思ったが、やよいは涙を浮かべている。


「どこにもないの!どうしようお兄ちゃん…」


「どんなリボンだよ?しょーがないからごはん食べたら一緒に探してやるよ。」

「これくらいの大きさの、赤いリボン…。」


 やよいは「これくらい」といって手で7~8センチほどの円を作った。


 ふーん、これくらいの赤いリボンね…、リボン…。


 僕はそこまで想像したところで、この事件の真相を理解した。

 ――…このリボン消失事件の犯人は俺だ。



 体操服入れに入っていたやよいの赤いリボンを僕は教室の机の中にしまった。


「いや…どこだろうなぁ…リボン…。」

 しらばっくれようと僕は不自然に目を反らす。


「…やっぱり見てないよね、ありがとうお兄ちゃん。」


 やよいはうるうるした瞳で僕にお礼を言う。

 …だめだ。さすがに胸が痛すぎる。


 僕は意を決して、学校に取りに行くことにする。


 時刻を見ると、まだ7時30分。きっとまだ校門はあいているはず。


「あ~!思い出した、実は間違えて俺が学校に持ってっちゃったんだよ。悪い。これから取りに行くわ。」


 僕は白々しく演技し、すると学校に向かった。



 

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