クラスメイトと彼女
「な〜〜!オカケン!今朝のニュースみたか?新しい行方不明者のやつ!」
「ほんとやばいよねw」
学校に着くなり、クラスメイトの鈴木と山下が興奮気味に僕の机に集まってきた。
鈴木はとにかく明るい。そして空気が読めない。
高校生になって5ヶ月も経過しているが、未だに中学の頃にしていた坊主を守り抜いているのが特徴的だ。肉付きのいい体型と相まって、風貌は田舎の大将のようだ。
対し山下は、大人しくて折れそうなほど細い。サラサラのセンター分けの髪型で、細めの目が印象的だ。一見気が合わなそうな二人だが、オカルト関係の話をしている時はすごく仲が良さそうに見える。
そんな二人と僕が仲良くなったきっかけ――それがこの高校にあるオカルト研究部だ。
鈴木と山下はこの興奮具合から分かるように、オカルトが大好きだ。
僕はオカルトなんて興味がないし、むしろ苦手な部類なんだが、――
「なぁ!“オカケン”はどうおもう?!」
僕はこのあだ名のせいで、鈴木に「オカケンって名前でオカルト研究部に入らないなんて勿体ない」などと訳のわからない因縁をつけられ、強引に勧誘され入部することになったのだ。
オカケンこと僕の名前は丘埼 絃。
入学後間もない頃、あるクラスメイトの読み間違いでオカザキゲンと呼ばれたことがキッカケで、オカゲンとあだ名を付けられ、それから一週間もすれば気が付くとにオカケンと呼ばれていた。
まぁ、鈴木の強引な誘いを断ることも出来たとは思うが、僕の通うこの学校では入学後必ず部活に入らなくてはならなかったし、特に入りたい部活もなかったため鈴木の誘いに乗ることにした。
ちなみにオカルト研究部なんてものは入学当初はなく、鈴木が設立した新しい部活だ。
部活の条件である、‘部員三名以上’を満たすために選ばれたメンバーが僕というわけだ。
「鈴木…こいつ全然話きいてないぞ」
一人回想に耽る僕は山下の言葉にハッとして顔を上げると、目の前に鈴木の顔があった。
「わっ…!ごめん、ニュースのことだろ、聞いてたよ。」
目前にある鈴木の顔に驚き僕は思わずのけぞりながら、適当にはぐらかす。
「あ、お前、また夢華たんのことみてただろっ」
鈴木が思いついたように、僕に耳打ちする。
「はぁ?ちげーよ」
僕は教室の中心で女の子たちに囲まれてにこやかに笑っている彼女にバレないよう、僕はユメカタンになんて微塵も興味がないという表情と共にクールに言い切った。
「へぇぇ〜〜??」
鈴木はニタニタとした笑みを浮かべ僕の顔を舐め回すように見た。
相変わらず、勘だけは無駄にいいやつだ。
「まぁ仕方ないよな!夢華たんは!誰が見ても可愛いし皆に優しい。しかも胸もで――」
「おいやめろ、聞こえるだろ」
どんどんヒートアップし、声が大きくなっていく鈴木の口を山下がさっと思いっきり両手で塞いだ。
「はは、わりー」
鈴木は大して悪びれる様子もなく、半笑いで僕らに謝罪をする。
こんな会話をしているのがもしも聞こえていたら――と彼女の方を見たが、いつも通りにこやかな笑みを浮かべて談笑している姿を確認し、僕は安堵した。
可愛い女の子というのは、こんな下衆な話題にされてしまうのだから大変だな、なんて他人事ながら少し同情する。
筒井 夢華。
僕のクラスで、学校一の美少女――というか、近隣の高校でも有名らしいので、すでに学校とかいう規模ではない美少女だ。
身長はやや小柄で、色白。少し癖っ毛の明るめの茶色の髪の毛。人形のような長いまつげ。極め付けには巨乳。
この世の女の子という存在をぎゅっと濃縮したような女の子だ。
しかも、可愛いだけじゃなく性格もいい。
単純で女慣れしていない僕は、入学して一月にも満たない頃に「おはよう」と挨拶をされただけで彼女の虜になってしまった。
とはいえ、不釣り合いだと自分でも自覚しているし、付き合いたいだとかいう感情はないし、そもそも好意をほのめかすような失態はしたことがない(つもりだ)。
くそ、なんでよりにもよって鈴木にばれてるんだ…。
僕は冷や汗を流しながらも冷静を装う。
「違うんだよ、今日はそんなことはどうでもよくて!!」
微妙に白けた空気の中、鈴木がいつも以上のハイテンションで話し出した。
「そうなんだよ!」山下も普段では考えられない声の大きさで鈴木にのっかる。
「なに?」
どうせオカルト関係だろ、内心興味ないなと思いつつも一応話に乗っかる。
「行方不明の事件の真相!昨日ネットで見たんだ、あれ実は誘拐とかではなく、異世界に連れていかれてるっていう説が有力らしいんだ、しかも行き方までネット上ですでに噂になってるんだ!!」
鈴木は鼻息を荒くして息継ぎもせずに語る。
「はぁ…。どうやって行くの?」
異世界なんてあるかよ、と思いつつも目をキラキラさせて語る鈴木のために質問をする。
「その行き方ってのが、これ!」
山下が僕にスマホの画面を見せる。
スマホの画面には、
〔以下の条件を満たすとき、扉は開かれる。
月、光、影、鐘、――〕
興奮している二人には悪いが、いかにも中二病と思える文章を僕は途中で止むのをやめた。
「ロマンだよな?!」
「これでもし本当に異世界にいけたら――…」
ガラガラッ
二人が自分たちの世界へ入りそうなタイミングで丁度担任の朝川先生が入ってきた。
「あーー!まだ話し足りないのに!オカケン、今日も部活来ないよな?明日の朝報告する!」
鈴木は名残惜しそうに自分の席に帰っていく。
僕は妹がいるから基本的に放課後には部活動はしない。
ていうか、明日の朝報告するってまさか試すつもりか?
なんて質問をする間も無く日直の挨拶により朝のホームルームが始まる。
そもそも、本当に異世界に行けてしまったら、どうやって報告するんだよ。
まぁそんなこと有り得ないんだろうけど。
勢いで書き進めてしまったため、恐らく今後修正を行います。