行方不明者
――この世には、分岐した世界が無数に存在するらしい
僕は、昔嘲笑ったとある友人の言葉を思い出した。
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《昨夜、また新たな行方不明者が出ました。今回新たに行方不明者となったのは都内○×高校に通う――…》
僕はこんがりと焼いたトーストを口に頬張りながら、聞き飽きたニュースに嫌気がさしテレビを消した。
ここ数年、同じようなニュースばかりが流れている。
行方不明者の情報を述べた後は、決まって「引き続き捜査を続けていますが、未だ行方不明者の行方を掴むことはできていません」だ。
「あーっ!お兄ちゃん!ニュース聞いてたのに…!」
ダイニングテーブルの斜めに座っている妹がパンを食べる手をとめ、僕を睨みつける。
丘埼やよい、僕の妹。
天真爛漫で明るくしっかり者の小学5年生。
隠キャ道を極めた僕の妹とは思えない。
「どうせ見たとこで何も変わんねーよ。行方不明者が出始めて何年たってると思ってるんだ。」
僕はわざと顎をしゃくらせてウザい顔で妹のやよいのほうを見る。
「もーー!!そんなことないよ!絶対いつか見つかるもん!!どうしてそんなこと言うの!
もしかしたら今日かもしれないじゃん!!!」
口を尖らせて怒る妹。これがまた可愛くて辞められないのだ。
年の離れた妹のやよいのどうしてこんなにも可愛いんだろうか。
僕が妹のやよいのことを密かに溺愛しているのはここだけの話だ。
「そんなことより、早く食べないとショウくんとの待ち合わせ遅れるよ。」
「あっ!やばい!!ご馳走さま!!…ていうか、お兄ちゃん、待ち合わせじゃなくて集団登校だから!!!それにショウ君だけじゃなくて他のみんなも――!」
「はいはい、わかったからいってらっしゃい。」
やよいは残りの食パンを口に詰め込むと、ランドセルを背負い、勢いよく家を飛び出した。
ちなみにショウくんとは、隣の家の小学5年の男の子である。そしてやよいが思いを寄せている相手だ。
僕らの両親は共働きでどちらも朝早くから夜まで仕事だ。
それ故、僕たち兄妹は一緒に過ごす時間は多いし、一緒にゲームをしたり髪を結ってあげたりすることもあるほど仲良しだ。
妹の背中を見送った後、僕もリュックを背負って高校へと歩き出す。
僕は冴えないし、決してリア充でもパリピでもないが、こんな平凡な日常が結構、いやかなり好きだった。