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2-05 盗賊だと?


 ポーカーフェイスのアビス嬢がクリスに手渡した書状は、いつも通りの魔族の引き取りと新な魔族の引き渡し書だ。

 スライムが50体、スケルトンが5体増えるのはありがたいんだが、その後ろにもう1つ追加されていた。若いゴブリンが10体だ。


「人間族との戦で手に入れた品をもたせてありんす。鍛えておくんなんし」

「今の俺達にマナは貴重なんですが?」

「このままでようざんす」


 間にミーナさんがブスっとした表情で座ってるんだけど、その向こうから俺に言葉を掛けてくるんだよな。本当なら、クリスに話さないといけないんじゃないか?


「クネルさん。ありがとう」

「これからも、がんばってお作りなんし」

「これも、渡すでござる!」


 アビスさんがバッグの中から取り出したのは、大きな袋だった。重そうだな? 床に置かれた袋からガシャリと音が聞こえてきた。

 だけど、「ありんす」と「ござる」ねぇ……。なんか無理して付け加えてないか?


 クネリさん達は、アリスが入れたお茶を美味しそうに飲みながら雑談を始めたんだが、少しクリスが引きながら聞いている。あの言葉遣いだからねぇ。ちゃんと理解しているのだろうか?


「ええっ! 最近ダンジョンが潰されているってことですか?」

「心配でありんすえ。1つは数百年続いたダンジョンで、残り3つは3年目になりんした。このダンジョンも始めたばかり」


 心配してくれてるのかな? 何といっても、口調が口調だからねぇ。切迫感のかけらもないんだよな。

 前かがみになって、ミーナさん越しに俺を下から見上げてるんだけど、眼差しが妖艶すぎる。

 こちらの世界で10年ほど暮らしていたけど、元に戻ってるから高校生のままなんだよな。俺には刺激が強すぎるぞ。


「あんまりからかわないで欲しいにゃ。調査隊は出てるのかにゃ?」

「一応、出してありんす。それで、ここの様子が気にかかりんす」


 突然、ミーナさんの体が持ち上げられて、テーブル越しのソファーに放り投げられた。

 クネルさんの両腕が俺に回され、スイッとケネルさんの隣に滑っていく。


「古いダンジョンが潰れたのはキューブの管理システムが暴走したでござる。若いダンジョンは管理者が亡くなったでござるよ」


 若い娘さんが「ござる」口調なのは、やはり止めた方が良いだろうな。だけど上司が上司だからしょうがないのかもしれないな。


「資源の枯渇?」


 俺の言葉に、クネルさんが熱を帯びた目を俺に向けて頷いてくれた。

 なるほどね。俺達も少し気を付けねばなるまい。飢え死には嫌だから狩りをして資金を稼いでいるんだが、さらに工夫が必要ってことだろう。


「お分かりなんし? それでは、そろそろお別れでありんす」


 俺の顔を両手で持って顔を近づけてくる。

 クネールさんは、両目を半分ほどに開いて口を小さく開いている。

 食べられるのか!

 覚悟を決めて目を瞑った時だ。突然俺の体が宙に浮いて管理室の床に放り投げられた。


「私のにゃ!」


 凄い剣幕でクネルさんを睨んでいるのはミーネさんだ。

 一応、助けてくれたんだろうが、所有権を主張するのはどうかと思うな。


「残念でありんす。また遊びにやってきなんす」

 

 ソファーからクネルさんが腰を上げると、俺に上半身を向けて小さく片手を振って、管理室に魔方陣を作り出した。

 アビス嬢を呼び寄せたところで、もう1度俺達に手を振ると魔方陣の発する光と共に帰って行った。


 正直、ホッとした気分だ。

 クネルさんに見つめられると、心がトロンとしてくるんだよな。冒険者時代にはあんな魔族にはあったことも無いけど、遭遇したらその場で命を無くしそうだ。

 別な意味で、ミノタウロスを上回る力を持ってるんじゃないかな。


「だらしないにゃ。もう少し【魅了】を逃れる工夫をしないといけないにゃ」

「でも、好意的なんでしょう。問題ないと思うんだけど」

「その内に分かるようになるにゃ。部長は女の敵にゃ!」


 プンスカと怒りまくってる。こんな時には……。


「この間、町で手に入れたワインを飲んでみるか? ずっと取っておいたけど、一応、マナが増えたんだし、魔族からの派遣も増えたんだからね」

「ずっと飲んでなかったにゃ。クリスもお湯割りなら飲めるにゃ」


 急に笑みを浮かべたミーナさんがカップとワインのボトルを棚から運んでくる。その間にクリスがお茶のカップを片付けているんだけど、暖炉傍の小さなテーブルに乗せたところで魔法を使ってカップの汚れを落としている。

 魔法の術者が認識する汚れを落とす【クリーネ】は生活魔法としてほとんどの者が使えるようだ。俺だって使えるからね。


 ミーネさんがカップを俺達の前に置くと、ワインの栓を抜いて注いでくれた。

 クリスが暖炉からポットを持ってくると、半分ほど注がれたカップにお湯を注いでいる。まだ子供だからねぇ。もう少し大きくなってからなら良いんだろうけど、天使見習いが終われば少しは成長するんだろうか?


「滅多に部長は現場に姿を見せないにゃ。アビスで用が足りるはずなんだけどにゃ」

「やはり新たなダンジョン作りが難しくなってる、ということになるんだろうか?」

「私達も来年はきついよ」


 毎年の食費だけで、1万1千バイト近くになってしまう。ゴブリン達のおかげで、狩った獲物を売ることができるのが何よりだ。

 東の尾根を越えた先にある焼き畑も、ゴブリン達の食料になっているから村や町で買い込む雑穀の量もそれほど多くはいらないからね。


「バイトから比べればマナは十分にあるにゃ。でも、ダンジョンレベルが足りないから強い魔族を呼べないのが問題にゃ」

「となると拡張工事をもっと進めないとならないぞ」

「ホムンクルスさんの増員ですか?」


 現在8体で工事を行ってるんだよな。疲れ知らずで24時間働き続けてくれる。

 少しずつ増員を図るしかないのが問題ではあるのだが。


「4体増やせないかな? 6体ずつ2カ所の工事が出来る。スケルトン達は冒険者が来ることを考えると、いつまでもダンジョン工事をやらせるわけにはいかないだろうし。新たなゴブリン達は工事に動員すべきだろうな」


 小学生並みの体格なんだけど、結構力もある。

 切り崩した土砂を運んでくれるだけでも助かるんじゃないか?


「婆さんの1人が半レイスにゃ。実体化も出来る幽霊だから監督を頼めるにゃ」


 そうなると、褒美も考えなくちゃならない。雑貨屋に行った時にでも、土産を買い込んでくるか。

                 ・

                 ・

                 ・

 ダンジョン作りは意外と単調な暮らしになってしまう。

 小さなダンジョンと村では認識されているらしいが、あまりにも規模が小さい。スライムの核を狙うのは冒険者の初心者ばかりなんだよね。

 とはいえ、一番強いのがスケルトンなんだから、中級クラスが来たら根絶やしにされかねない。

 そういう意味ではありがたいところなんだが、もう少しやって来る頻度を高めたいところだ。


「去年は余りやってこなかったよ。今年はそれ以上来るのかな?」

「餌を撒いたからやって来ると思うよ。スケルトン装備ならスライムの核の値段よりも遥かに入手金額が多くなるからね。意外と欲が深い連中なんだ」


 俺も欲を出してやられてしまったんだよな。

 あいつらは元気にやってるんだろうか? 出来れば足を洗っていて欲しいな。


「中央広場の工事が遅れてる。周辺回廊はだいぶ進んでるんだけど……」

「空間が大きいからしょうがないよ。ゴブリンの連中も手伝ってるんだろう? 来年には何とかしたいんだけどね」


 中央広場と西の回廊を今の公開区画に合体すれば、一気に2倍以上にダンジョンが広がる。

 それまでに冒険者との争いで、マナをたくさん貯めたいところなんだけどね。


 若いゴブリン達は2つのグループを作って、狩りと工事を行っている。

 人数が増えたから、だいぶ野草も集められるようになってきた。途中まで出来た部屋を保管庫にして積み上げている。

 朽ちた大木を丸太にして運んで来た時には何に使うのか考えてしまったけど、どうやらキノコの苗床に使うらしい。

 どんなキノコが生えるか楽しみだけど、毒キノコはスライムの餌に出来るらしいから無駄ではないようだ。


 ある日のことだった。

 ダンジョンに近づく人間達をクリスが見つけてくれたんだが、いつもと違ってやたらと人数が多い。20人近い冒険者のパーティなんて、大型ダンジョンに挑むにしたって多すぎるぞ。

 10kmほど先だから、このダンジョンを目指しているようにも思えないんだが、進行方向からすれば、南の荒れ地を通るはずだ。


「やって来たのかにゃ?」


 婆さん達からウサギの毛皮を受け取りに出掛けたミーナさんが、キューブの上に展開した仮想スクリーンに見入っていた俺達に気が付いたようだ。


「来てることは確かだけど、ダンジョンかどうかまでは分からないんだよね」

「来るにゃ。ここに2つ先行してる連中がいるにゃ」


 一目でミーナさんは状況を理解したようだ。

「まだ小さなダンジョンだぞ。こんなに大勢で来るのが理解できないんだけど?」

「こいつらは冒険者じゃないにゃ。盗賊にゃ」


 何だと! そんな馬鹿な、ともう一度仮想スクリーンで彼らの状況を確認してみる。

 確かにミーナさんの言う通り、黄色の輝点が2個ずつ、部隊の前にいるようだ。よく見ると、後方にも配置している。

 追手から逃げているんだろうか? この辺りは辺境も良いところだから、ほとぼりが冷めるまで隠れるには都合が良いのかもしれないけど……。


 心配そうな顔をしてクリスが俺達を交互に見てるんだよな。早めになんとかしないといけないだろう。


「たぶん、ここにやって来るにゃ。奥にはスライムが一杯だから手前の部屋位で諦めると思うにゃ」

「あまり俺達には関係ないってことかな?」

「でも、スライムさんを相手にしたら戦ったことになるよ」


 スライムの数が多すぎるからねぇ。戦闘になれば、さて……、どちらに分があるのだろう。出てってくれればいいんだが、そのままスライムと長い戦を始めかねないな。


「出来れば戦って逃げて欲しいところだけど、それが上手く行かない時には町に行って教えてあげるべきかもしれないな。危険な盗賊なら討伐隊がやって来るだろう」

「それなら、数日待つにゃ。ゴブリン達の狩場は尾根の東だから、盗賊達と係わることは無いにゃ」


 ついでに毛皮を売るつもりなんだろう。

 それなら、ここで状況を見守り続けるだけで十分だ。


 盗賊の先行部隊がダンジョンを見付けたのは夕暮れ時だった。1組はダンジョン前に焚き火を作り、もう1組が本隊に知らせに向かっている。

 焚き火の明かりで本体を導くつもりなんだろうか? まだまだ距離が離れているし夜道を歩くことになる。本隊到着は深夜になりそうだな。


「スライムとスケルトンは奥に移動させたんだろう?」

「入り口から2つ目の部屋までは、甲羅ネズミぐらしかいないにゃ。でもスライムは気ままにゃ」


 まぁ、8割が奥に下がってるなら問題ないだろう。どの世界にも指示に従えない奴はいるからねぇ。


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