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2-04 冒険者の次にやって来たのは


 俺達が村に餌を撒いてから、ダンジョンに冒険者が現れたのは、4日を過ぎてからのことだった。

 5人パーティの冒険者は2人が長剣で2人が槍を持っている。残り1人は弓装備だけど、槍を持つ男は神官服の上に革の鎧を着ている。それなりに場数を踏んだ連中なんだろうか?

 だが、こんな辺境にやって来るとなれば、黒にもなれない低レベルの冒険者だとは思うんだけどねぇ。


「ミーナ姉さんはゴブリンと一緒に行ってしまいましたけど、私達だけで大丈夫でしょうか?」

「俺達が直接戦うわけじゃないからね。基本はここからの作戦指示になりわけだから、状況を見ながら追い払おう」


 作戦はシンプルに、スライムで誘き寄せたところでスケルトンをちらつかせ、後ろからスケルトンの別動隊に襲わせる。

 その場で戦わず、一当たりしたら前方に駆け抜ければいい。冒険者が無傷なら追い掛けて来るかもしれないが、怪我をしていれば追い掛けることはしないはずだ。

 その場で使える物を回収して、冒険者は去っていくだろう。


「ところで、この黄色いのは?」

「どうやら野生の生物が入ってるみたいですね。スライムさんは入り口近くに近寄りませんから、野ウサギでしょうか?」


 魔族は青で、冒険者は赤、俺達は緑の点滅というのは分かってたけど、それ以外にもあったんだな。その他に、ダンジョンに利害関係の無いものを表示する白というのもあるらしい。

 その辺りの区分はキューブが自動的に判断してくれるらしいのだが……、野生の生物とは何だろう?

 さすがに野ウサギは無いと思うんだけどね。


「この部屋を拡大して見れないか?」

「やってみます!」


 キューブの上にもう1つの仮想スクリーンが出現し、回廊を進んで最初の部屋を映し出した。


「甲羅ネズミ?」


 アルマジロのような甲羅を背中に付けたネズミがうろついていた。


「スライムさんより大きいですよ。食べられちゃいませんか」

「さすがに、スライムは食べないさ。スライムがたくさんいるから、守って貰っているようなものだ。しかし、これはありがたいな」


 クリスが首を傾げているから、食物連鎖について話してあげた。

 甲羅ネズミの天敵は荒れ地なら野犬だけど、洞窟のような場所になると、バイパーと呼ばれるヘビになる。5m近くまで成長すると胴は俺の腕より太くなる。


「冒険者時代にだいぶ狩ったものさ。毒蛇ではあるんだが、痺れるだけだからね。それに噛まれてから毒消しを飲んでも間に合うくらい毒の効きが悪いんだ。でもね。その肉は美味しいから、意外と高値で売れるんだよ」

「食べられるヘビなんですか?」


 たぶん今年の冬にはやって来るんじゃないかな?


「ネズミさんだけじゃないみたいですけど?」

「ん? そうか、虫も集まってきてるんだろう。草刈りをしては、あの部屋に投げ込んでたからね。洞窟を利用する生物は意外と多いんだ。作り始めて3年目だから、そんな生き物が住み着いても不思議じゃないよ。それだけダンジョンらしくなってきたってことじゃないかな」


 たぶん、ゴキブリやムカデなんかじゃないかな? スライムの餌にもなるかもしれないし、甲羅ネズミの好物でもある。


「それで、あとどれぐらい?」

「いつもの場所で焚き火をするみたいです。やはり松明を作るんでしょうか?」

「ダンジョンに入ったら緊張の連続だからね。一休みは必要だと思うな」


 俺が現役だったころには、一眠りしてから入ったくらいだ。

 ダンジョン内の時間経過を気にするようになったのは、下階へ足を踏み入れるようになってからだった。

 蚊取り線香のような渦巻状の線香の燃焼で時間を計ったんだよな。1つの線香でおよそ半日が計れるから、休憩時間を一定間隔で獲ることが出来るようになったんだ。

 その点、この管理室ではキューブで正確な時間が表示できるようになっている。

 俺の右腕のバングルでも時間だけを示す針が1本の時計が付いているんだが、ミーナさんはバングルに問いかけて答えて貰っているようだ。


「私達も、お茶にします?」

「ありがたく頂くよ」


 ゆっくりお茶を飲んで待つことにしよう。大事なお客だからね。接客はきちんとしなければなるまい。


 仮想スクリーンを2枚、キューブの上に作ってもらい、片方を平面図に輝点で状況を映し出し、もう1つは回廊の奥から眺めた画像を映して貰う。

 画像には遠くに見えるダンジョンの入り口から入ってくる冒険者の姿が映し出されている。


「やはり松明を持ってる。3人で持つなんて、光球の魔法を知らないのかな」

「たぶんね。やはり駆け出しの連中だな。全員配置に着いたよね?」


 クリスが小さく頷いた。

 平面図に表示された輝点を見れば分かることなんだけど、簡単な陽動作戦ぐらいは教えておかないと、クリスを1人に出来ないからね。


「ゆっくり歩いてる。2人回廊に残して部屋に向かった……」

「背後を取られたら、この部屋に閉じ込められてしまう。全員部屋に入るようなら初心者も良いところだ。2人残したということは最低でも赤の中レベルということになる。スケルトンでは荷が重いんだが、今回は1当たりするだけだからね」


 10体近くのスライムが回廊をゆっくりと移動している。

 映像では、冒険者2人が回廊のスライムの動きを監視しているようだ。奥の部屋に潜むスケルトンにはまだ気が付いていないようだな。

 部屋に入った3人がスライム相手に頑張っているみたいだ。数体なら簡単に狩れるだろうけど、あの部屋だけで数十いるんだから、冒険者達が劣勢に見えるな。だんだんと部屋の入口に追いやられている。


「出てきた! スライムさん達が追い掛けないくてもいいんだよね?」

「回廊まで追いやられたけど、核の回収は出来ていないはずだ。そうなると、次にやって来る時を考えて奥に向かうことになる。この角を過ぎたらいよいよスケルトンだ」


 スケルトン数体では冒険者の敵になるとは限らないが、角の奥の部屋にはスライム一杯だからね。それを部屋から出せばどうなるだろう? 俺なら逃げ出すけどなぁ。


 案にたがわず、5人が松明をかざして奥に進んでいく。

 角を曲がった先は土砂で行き止まりなんだが……、一斉に長剣を抜いたぞ。


「スケルトンを見付けたようだ。奥の部屋から残ったスライムを出してくれ!」

「逃げ出したら、ここのスケルトンさんを回廊に出すよ」


 やはり最低クラスのスケルトンだからなぁ。2体がやられてしまった。残った1体が回廊の奥へと退散していくのが見えた。

 部屋から出てくるスケルトンに気が付いたみたいだけど、スケルトンの装備を急いで回収している。このまま外に逃げ出そうということなんだろう。


「下がっていくよ!」

「逃げ出したんだ。松明だって置き去りだろう?」

「なら、急がなくちゃ!」


 通路の奥に隠れていたスケルトンが駆け足で回廊に移動していく。

 逃げる冒険者の足が一瞬遅くなったのは、驚いたというより、作戦を考えるためなのかもしれない。

 それでも、前にも増して移動速度を上げて出口に向かって行く。


「スケルトンさん達はこのまま奥に移動だよね?」

「冒険者に一撃でも与えてくれれば作戦成功だぞ」


 ダンジョンの平面図に、回廊の左右から赤と青の輝点が集まり、交差して、左右に分かれて行った。

 回廊の状況を映し出す画像からは詳しい状況が分からないけど、それでも何度か火花が散ったから互いに剣を打ち合ったことは確かなんだろう。


「終わったの?」

「ああ、これで終了だな。結果を確認してくれ」


 クリスがキューブで確認してくれた結果は、スライムの戦闘参加数130体、攻撃成功数が85体に消耗数27体、レベルの上がった個体数は21体だった。スケルトンは18体が戦闘に参加、消耗数が4体、に攻撃成功数が68体、負傷数が1体でレベルの上がった個体数は2体との評価だ。

 冒険者の方は、軽い負傷を負った者が2人だけだったらしい。


「凄いです! スライムさん達が167マナ、スケルトンさん達が87マナ、それに冒険者さん達からは45マナです」

「299マナってことか。今年も数回やってきて欲しいね」


 マナがたくさんあるなら、スケルトン装備をリストから手に入れて村に下ろせば、バイトを稼げる。

 ゴブリン達を使って狩りをしているんだけど、その成果だけでは来年の食事代を工面できそうもない。

 

「今回は増員が無いの?」

「増員というよりは、交渉人が来るみたい。誰がくるの?」


 クリスの素朴な質問に、思わず首を傾げてしまった。

 来るとするなら魔族なんだろうけどね。となると、ミーナさんに同席してもらいたいところだ。

 

「いつやって来るのかな?」

「今夜とだけ書かれてる」


 なら、ミーナさんも同席してくれるだろう。

 春先だから、夜がまだ冷え込むので狩りは日中だけだからな。

                 ・

                 ・

                 ・

「それなら、兵站部局からにゃ。ダンジョン担当の下役のはずにゃ」

「偉い人じゃないってこと?」

「偉い人は、忙しいにゃ。毎晩宴会にゃ」


 クリスには聞かせたくない話だな。どこの社会も似たようなところがあるってことなんだろう。一番の犠牲者は一般兵士に違いない。

 クリスに目を向けると、キョトンとした表情で俺達を見ているから、まだ世界の情勢には疎いということなんだろう。


「食事が終わりましたから、もうそろそろだと思うんですけど」

「ところで、何をしに来るんだろう。まだダンジョンを評価するには早いんじゃないかな?」

「嫌味なら来ないで欲しいにゃ」


 ミーナさんの言葉が終わらない内に、管理室のいつもの場所に魔方陣が描かれてクルクルと光を発しながら回り始めた。

 眩しい光に思わず目を閉じた俺達が、再び目を開けると2人の女性が立っていた。


 2人の女性と言っても、1人は背の高い均整のとれたミーナさんより少し年上に見える女性なんだが、銀色のビキニアーマーのトップを付けただけで、下半身は蛇体の姿だ。

 腰に巻いたベルトから上におへそが見えるのは、俺には目の毒以外の何ものでもない。

 近くにやって来たときに、ベルトではなくメイスの握りに付けた鎖であることが分かってしまった。

 美人なんだけど、戦闘もするんだろうか?

 もう1人は、ミーナさんの姿によく似ているけどネコではなくイヌの耳と尻尾の持ち主だった。俺より若く、クリスより年上に見えるな。


「新たなダンジョンを作り始めたでありんすか。先ずはおめでとうでありんす」


 妖艶な笑みを浮かべて、俺の隣に座り込んできた。尻尾が俺の片足に絡みつくと強く締めこんでいる。


「兵站部局のダンジョンを担当するクネリ部長でござる」


 犬耳の娘さんが教えてくれた。


「クネリでありんす。おもしろそうなダンジョンだと知って、やってきたでありんすよ。まさか人間族がおられたとは……」

「天使様からクロードさんの話は聞いているでござるよ。今までは無かったことだと言っていたでござる」

「そうでありなんしたか。なら、問題ありんせん。それで、今回の入れ替えでありんす。アビス、書状を渡しておくんなんし」


 何か無理して使ってないか? 爺ちゃんと一緒に時代劇を見てたから何となく意味が分かるのも問題だよな。

 ちょっと熱があるような声で、俺の顔をなでなでしながら言うのはもっと問題だと思うけど。


「部長、クロード君をからかうのは止めるにゃ。だんだん【魅了】が効いてるにゃ」

「言いなんすな。もう少しこのままでおくんなんし」


 片足の拘束が解かれたかと思ったら、今度は俺の腹に巻き付いて引き寄せている。この部長、ラミアなんだろうな。

 魔法を使わずに【魅了】効果を持つんだから、とんでもない魔族だ。思わず目を閉じたら、グイ! と両手で引き寄せられた。

 

「私のにゃ! 獲ったらダメにゃ」


 俺を無理やり引き離して間に割り込んできたのはミーナさんだった。

 俺はいつからミーナさんの物になったのか理解できないけど、とりあえず助かったのかな?


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