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2-03 呼餌を撒いてみた


 昨日の狩りでウサギの毛皮と鹿を増やしたところで、今日は獲物とスケルトン装備を持って村に向かう。

 所持金が金貨2枚と少しになっているから、今年も俺達の生活費を稼ぐ努力は必要だろう。

 雑穀の購入も見合わせたいところだが、そうすると俺達で草刈りをする日々が続きそうだ。

 昔の冒険者時代に、中途半端なダンジョンが多いことを不思議に思っていたこともあったが、ダンジョン作りに行き詰った結果なんだろうな。

 ここまでやったんだからね。途中で投げ出すのも俺らしくない。


「もう直ぐ村にゃ。高く売れるといいにゃ」

「ウサギの皮も6枚あるし、この鹿だってあるんだ。それに餌だってあるからね」


 ミーナさんがにこりと笑みを浮かべる。

 騙される冒険者がいるかどうかだが、それは俺達の演技ってことになるんだろう。


「もうやって来たのか? まだ山に雪は残ってるだろうに」

「それですから獣の動きが活発なんです。俺達の仲間も町からやってきますから、かなりの肉を運んでこられると思いますよ」

「だが、お前さん達は冒険者とは違うからなぁ。あまり村に金が落ちないだろうよ」

「金は落ちませんが、肉は下せますよ」


 猟師暮らしは山での野宿が基本だからね。それなりに村には貢献してると思うんだがなぁ。


 村の門番とは知り合いの仲だ。軽い冗談を交わして村の通りを歩いていく。

 最初に向かうのは鍛冶屋だ。

 鍛冶屋と言っても、作るだけでなく、農具や武具の販売まで行っている。冒険者ギルドがある以上、冒険者からの注文もあるんだろうな。


 カン! カン! と威勢のいい音が通りまで聞こえてきた。村の一番北にある1軒家で隣の民家から、民家2つ分は離れているし、間に垣根まであるのは金属を鍛える音が煩いからなんだろう。

 西に細長い家なのは工房を持っているからに違いない。煙突から煙まで出ているから忙しく働いているんだろうな。

 扉を開けて、大声で要件を伝える。


「何だ? 売りたいだと。見せてみろ!」


 奥から出てきたのはドワーフ族の爺さんだった。ドワーフ族は若い時から髭面だからあまり歳が分からないけど、普通なら赤い髭が白いからかなり高齢なのかもしれない。

 ドワーフ族が魔族に従っているから、昔一族の住処を飛び出したドワーフ達の末裔なんだろう。騒音の中で暮らしているせいか、声が大きいな。怒っているように聞こえてしまう。


「これです。焚き火で炙って革と木製部分は除いておきました」

「ほう、感心だな。少しは色を付けやるぞ。相手はスケルトンというところだろうが、鉄は問題ねぇ。1パイントで30バイトが相場だ。全て買い取ることでいいな?」


 「いいな?」と言いながら睨みつけるから、否とはいえないんだよね。

 1パルトはおよそ2kgほどだ。背負ってきた金属片をドワーフの親父が用意したカゴに入れて、竿秤で重さを量る。全部で8.6パイントだ。


「一手間そっちでしてくれたから切り上げて9パイントでいいだろう。待ってろよ、今金を用意する」


 ちょっと嬉しくなる。かなりオマケしてもらった感じだ。

 もっとも、向こうだって次を期待してのオマケなんだろうけどね。


 カウンターに並べられた硬貨を確認したところで、改めてドワーフの爺さんに頭を下げる。次は肉屋に向かった。

 

 肉屋に鹿を下ろして150バイト。いつもこの値段だから、鹿の標準価格ということなんだろう。

 最後は雑貨屋だ。スライムの核と野ウサギの毛皮を売って、雑穀の袋とビスケットを購入する。

 核の売値が31バイト。野ウサギは6枚で30バイトだから、1バイト硬貨を4枚テーブルに並べて雑穀とビスケットを購入した。で65バイトになるから、416バイトが手元に残る。


「さて、次だ。上手く冒険者がいれば良いんだけどね」


 向かった先は宿屋なんだが、食堂と酒場も兼業しているらしい。

 1階が、酒場兼食堂らしいが、朝から飲んでる奴もいるな。丈夫そうな革鎧だから冒険者に間違いないだろう。


「ここでワインが買えると聞いたんだが?」

 

 カウンターで大声を上げると、若い娘さんが慌ててやってきた。


「はい、お売りできます。種類は2つしかないんです。1本10バイトに50バイトになります」

「なら、50バイトが1本だ」


 テーブルに並べた銅貨を数えると、娘さんが奥の部屋からワインのボトルを持ってきた。丁寧に紙でくるんで渡してくれたところで、俺達に話をしてくる。


「このワインが売れたのは春分の祭り以来です。何かのお祝いなんですか?」

「祝いなのかな? 仲間と東の洞窟に入ったらスケルトンに出会ったんだ。その装備を売って、仲間と飲むんだが……」


「兄ちゃん、東の洞窟って言ったよな?」

「ええ、東にある洞窟です。少し早めに猟を始めたんで、夜を明かすには丁度良いということになったんですが、奥で物音がするのを見に行ったら、いきなり襲われました」


 冒険者達が俺の話を聞きながら仲間と頷きあっている。

 掴みは出来たかな?


「洞窟を見付けても深入りしない方が良いぞ。それほど立派な武器を持ってるわけじゃないだろうに、上手く退けられたのは運が良かったと思うべきだろうな」

「忠告、感謝します。とはいえ、今夜は美味い酒を飲んでみますよ」


 小さく頭を下げて宿屋から出ていく。

 ミーナさんと顔を見合わせて互いに笑みを交わした。これで、数日後には間違いなくやってくるはずだ。


「ただいま!」

「おかえりなさい。反応はどうでした?」

「やって来るにゃ。楽しみにゃ」


 とりあえず部屋に下がって着替えをしたところで、棚の木箱に売上金の366バイトを入れておく。12日分にはなったはずだ。次も早めに獲物を届けることにするか。


 暖炉傍のソファーに座ったところで、クリスがお茶を用意してくれた。

 一仕事を終えた後のお茶は美味しく感じるな。


「2人が出掛けた後で、キューブと相談してみたの。そしたら、こんな回答が来たんだけど」

「どれどれ、……ゴブリンの期間限定特例雇用?」


 目の前に開かれた仮想スクリーンの画像を見る。

 ゴブリンの期間限定雇用は1体当たり1カ月30マナになるのだが、これだと10体を半年間で100マナになっている。

 なぜこんなに安いんだ?

 仕様書のような文面を詳しく読んでみると、どうやら若い世代達らしい。ゴブリン戦士になる手前の連中だが、それなりに使えるんだろうか?


「世話係の老婆が2体付くにゃ。それにゴブリンが10体なら、狩りと草刈りを任せられるにゃ」

「食料はこちらで用意することになるんだよな」

「雑穀と狩りの獲物を少し渡せばいいにゃ。鹿は全部貰って野ウサギは中身を渡せばいいにゃ」

 

 使えるってことか。なら問題は無いはずだ。

 となると、彼等の住居を確保しておかねばなるまい。

 ダンジョンの計画図を取り出して、封鎖区画を移動して1部屋を確保すればいいか。


「丁度広場前の横の通路から北に延びる回廊を封鎖することになる。昨年と比べて部屋も増えたし回廊も入り組んでるから、これで良いだろう」

「了解にゃ。直ぐにホムンクルスに土砂を移動させるにゃ。スケルトンはどうするにゃ?」

「変更なし、右手4つ目の部屋で13体を待機させる。2つの部隊を作ってダンジョン内を動き回ればいい。だけど基本は広場前の横の通路だ」


 いくら何でも、入り口から直ぐにスケルトンではねぇ。手前がスライム、奥はスケルトンでいいだろう。


 翌日に、クリスがゴブリン10体を召喚した。

 元々小柄なゴブリンだけど、やって来たゴブリンはどう見ても小学生サイズなんだよな。婆さん2人が一緒に来たけど、これって魔族の口減らし政策なんじゃないか?

 ミーナさんがやって来たゴブリン達に、暮らす場所と役割を説明している。

 スケルトンにも指示を出すことができるが、ゴブリン達とは普通に話が出来るようだ。


「転移魔方陣を使って、周辺で狩りをするにゃ。川にこの仕掛けを沈めれば魚が獲れるかもしれないにゃ。魚は皆で食べても良いけど、魚以外はスライムにあげるにゃ」


 ミーナさんの説明を真剣に聞いてるから、少しは期待できるかもしれない。少なくとも草刈りは確実にできるだろう。

 説明が終わったところで、ミーナさんが雑穀の袋を1つ手渡している。

 婆さん2人で、雑穀のスープを作るんだろうか? 次に村に出掛ける時には塩を買ってきてあげよう。

 

 管理室に戻ったところで、3人で顔を見合わせる。

 やはり俺と同じように、あのゴブリン達を頼りないと思っているのかもしれないな。


「使えなければ、次は無しでいいんじゃないか? 格安だったから文句は言えないし、草刈りをしてくれるだけでも助かる話だ」

「どこで草を刈るの?」

「東の尾根の向こうにゃ。海に向かって斜面が続いているだけにゃ。冒険者が近寄る心配もないにゃ」


 それなら安心できそうだ。キューブの仮想スクリーンで尾根の東を見てみると、森が無くて荒れ地と灌木が続いている。

 だれも行かないような場所だから、鹿の群れがのんびり雑草を食んでいるのが見えた。

 あれを狩れないとなれば、ゴブリン失格だろうな。

 ゴブリン達は丸腰だから、安物の弓矢を3人分と短剣を人数分揃えてあげよう。これも必要と、クリスが10人分の食器と鉄の鍋を追加した。キューブを通しての購入だから手間は掛からないけど、これで500バイトが飛んで行った。

 がんばって狩りをしてくれないと、来年は大変なことになりそうだ。


 翌日。朝食を終えたところで、ミーナさんがゴブリン達を率いて狩に出掛けた。ゴブリン達の宿舎では、小さな焚き火で婆さん2人が鍋をかき混ぜている。

 あんな場所で焚き火をしても、酸欠にならないのが不思議なんだよな。ジェネレーターは魔気を出す装置らしいが、ダンジョン内の空気の安定化にも寄与してるんだろうか?


「中々やってきませんね?」

「そうでもないぞ。キューブで周辺状況を最大にして見ると、森にいくつか冒険者のパーティが入り込んでいるし、このパーティはまっすぐここに向かってる感じだ」


 明日にはやって来るんじゃないかな。

 せっかくスケルトン装備を村で換金してきたんだから、去年よりもお客が少ないようでは困ってしまう。


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