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8-3 人魚がやってきた


 ラミア教の神殿に参拝した御利益は、夫婦円満に、子宝と子孫の繁栄、さらには商売繁盛と豊作まであるらしい。

 聞けば聞くほど怪しく思うのは、俺の信仰心が足りないせいだけではないんじゃないかな?

 ミーナさんだって呆れた目をしてクネリさんを見ているし、アビスはまた始まったといううんざりした目で上司を見ているんだよな。

 クリスだけが目を輝かせて聞いているのは、神となるクネリさんが目の前にいるからなんだろう。

 神の眷属ならもう少し、色々と自重して欲しいところだけどね。


「中々良い案でありんす。アビス、後で取りに来るでありんす」

「了解下でござる。どれでも良いでござるな?」

「成人になった時に作った像がありんすよ」


 いきなりクネリさんの尾が俺に巻き付いて、隣の席に移動させてしまった。両手で俺の顔を持つと、媚を含んだ目で俺に迫ってくる。


「私んにゃ!」


 ポイっとミーナさんに席から投げ飛ばされてしまった。

 ミーナさんの所有物ではないんだけど、とりあえず危機は去ったということになる。

 床に打ち付けた背中をさすりながら元の席に戻ると、改めてクネリさんに問い掛けた。


「このダンジョンにクネリさんの像を祭ることは、魔族として問題ないということですね?」

「そうでありんす。人間族にも人気が出ると思いんす」


 貰えるなら貰っておこうか。クリスに視線を向けると小さく頷いてくれた。

 アビスは余り感心無さそうだし、ミーナさんは神像に泥を塗りかねないな。注意しておこう。


「そうだ! クネリさんの事務所にアリクイがいるとアビスに聞いたんですが、頂くわけにはいきませんか?」

「アリクイでありんすか? アビスに捕まえさせたら良いでありんす」


 これでエコなダンジョン設計ができるぞ。

 話が終わったから、帰ってくれるかと思っていたんだが、思わぬ話をクネリさんから伝えられた。


 どうやら、東のゴブリン村の食料が足りないらしい。

 俺達も援助はしてるし、魔族の中でもそれなりの援助をしているようだが、ゴブリンだからねぇ……。直ぐに増えるし、増えればすぐに食糧難になってしまう。


「ゴブリンの安住の地は無いんでしょうか?」

「難しい話でありんすねぇ。戦がその助けではありんすが……」


 悲しい話だな。種族の個体維持数の調整を戦で図るとはねぇ。

 少しでも生存率を上げるためにミーナさんが少年達を訓練しているんだけど、個体数の増大に寄与するわけではない。どちらかと言うと逆に働くことになる。


「動員する数を増やすということになるんでしょうね。でも、まだ開墾する場所はありそうに思えるんですが?」


 俺の言葉に、クネルさんがテーブルの上に仮想スクリーンを開いた。たぶん魔法で作ったんだろうな。ラミア族はかなり上級の魔法まで自由に使えると聞いたことがある。


「クロード殿のおかげで、小さな谷を埋めることができたでありんす。尾根の東は平地が少ないようでありんすねぇ」

「ちょっと、今のところを大きくしてくれませんか……。ここは使えそうですね。これだけあれば、地下3階が作れます」


 俺が指さした画像の場所を見て、皆が驚いている。

 V字型に尾根深くに斬り込まれた谷だ。これを埋めればかなりの耕作地を作れっるんじゃないか?


「ここでありんすか? かなり深そうでありんすよ」

「砂漠を作るための残土処理でござるか! 確かにこれぐらいは埋まりそうでござるよ」


 アビスの言葉に、クネリさんが目を丸くして部下を見ている。

 

「砂漠を作るのでありんすか?」

「ダンジョン内の環境選択が出来るということで、水の次は乾燥地帯を考えた次第です。地下3階ですから、少しは強い魔獣も配置できるでしょう。でも、このダンジョンの理念は『追い返せ!』ですよ」


「中々おもしろそうありんす。ゴブリン族への貢献を魔王にお伝えしんす」

 ころころと笑い声を上げているんだけど、出来れば手伝って欲しいところだ。


「土砂の運搬にクローラーを貸して欲しいにゃ。谷を埋め立てる期間だけで良いにゃ」

「期間限定でありんすか? このまま戦が続けばゴブリン族と言えども増える速度は落ちると思いますなぁ……。魔王様に確認しんすから、お待ちくんなまし」


 脳内での通常言葉に変換するのが面倒な人なんだよなぁ。

 とりあえず、返事待ちということなんだろうな。

 俺達に笑顔を振りまいて帰って行ったけど、正直ほっとした気分になる。

 良い人? には違いないんだろうけどねぇ。


「これで、地下2階を一気に進められるでござるよ」

「まだ分からないにゃ。魔王様の裁可次第にゃ」


「違うでござる。魔王様とは貢献の代価としてこれだけで良いかの確認でござるよ。それ以上に褒美が期待できるでござる」


 あれでか? それならそうと言ってくれた方がこっちとしてもありがたいんだけどなぁ。また戦場での鹵獲品を貰えたはずだ。


「台座を考えないといけないよね。またカタログで探すよ」


 クリスの言葉に、俺とミーナさんが笑顔で頷く。

 クリスの納得する物を作れば良い。このダンジョンのマスターはクリスなんだから。

 俺は、また賽銭箱を作っておくかな。ついでに神像に祈る場合の順序と効能を示した立札を作っておこう。

 サイ緯線箱の風習がこの世界に無いんだったら、教えれば良いに決まってる。

 1階の大広間の賽銭箱の傍にも作っておけば、来年こそたっぷりとお賽銭が集まるに違いない。


 数日後に、クローラーが3体届けられた。

 数が増えたから、一気に工事が捗る。雪が融ける頃には大きな地下2階の空間が現れた。

 後は、クリスとアビスが神像を設置するらしい。神像を収める祭壇はクリスがカタログの特売品から選んだようだ。

 特売品ではあるが、円柱に支えられた屋根があるし、数段の祭壇の階段の一番上には、捧げものを置く石の台があったから、そこに手作りの賽銭箱を置いておく。

 賽銭箱の左右に看板も出したから、これで新たな風習が作られるに違いない。

 魔気を作るジェネレーターは天井付近に埋め込んでいると言っていたから、後は魔獣を配置すれば良いことになる。


 地下3階の工事にミーナさんが4体のクローラーを移動していった。10m以上地下に潜って始めるようだから、クリスに火狂して貰えるなら床が抜けることは無いだろう。


 クリスとアビスが、配置する魔獣をマナの在庫を確認しながら悩んでいる。

 今回はクリス達で十分だろう。水を必要とする魔獣はそれほどいないだろうし、強力な魔獣はマナ不足で雇えないからね。クラゲに、カニと半魚人辺りじゃないかな。

 ダンジョンの入り口で、クリス達の選ぶ魔獣を想像しながら夕日を眺める。

 明日も良い天気に違いない。

 春までもう少しという感じがするな。


「クロード殿、来て欲しいでござるよ。アビス様が、地下2階の指揮者候補を連れて北でござる」

「指揮者候補? あの池にそんな人物がいるのかなぁ?」


 『Z』字形の島の真ん中に、小さな祠とその島を取り巻く池、という感じなんだけどなぁ。

 どう考えても、迷うことは無いはずだ。小さな島に地下1階から続く階段はあるんだけど、あれは見せ掛けだけだし、水深は3m程度だ。泳ぐ冒険者もいるんじゃないかな。


 とりあえず管理室に戻ると、クリスとミーナさんが来客2人の相手をしている。

 アビスさんの隣にいたのは……、人魚だった。

 人魚は魔物なんだろうか?

 セイレーンやローレライという人魚もいたらしいから、魔物ではあるのかもしれないな。


「やって来られたでありんすな。こちらが指揮者候補の『ローラ』でありんす」

「『ローラ』どす。よろしくお頼のう申します」


「どす」来た~! 年の頃は18歳前後、長い緑の髪と、エメラルドの大きな目。絵本で見た人魚のように貝殻のビキニトップだ。腰から下は魚だけど、腰に細い金鎖を幾重にも巻いている。


「人魚とは思いませんでしたが、お高いんでしょう?」

「このダンジョンで養生をさせて欲しいのでありんす。海で中隊を率いてありんしたが、深手を負いもうした。表面の傷は癒せても、内臓は時間が掛かるようでありんす」


「そんな体でだいじょうぶなんですか?」

「士気であれば、体は使いまへん」


 まあ、それはそうなんだけどねぇ。ちらりとクリスを見ると、目を輝かせてローラを見ている。

 断ることは無さそうだ。


「でも、部下となるのは……。アリス、どんな魔獣を選んだんだい?」

「え~とね。クラゲが20、カニが10、ヒトデが10にイソギンチャクが5つ。魚は鉄砲魚にノコギリザメが10でしょう。半魚人は3体かな」


 色々と選んでるようだけど、ヒトデは魔獣なんだろうか? それに鉄砲魚は淡水魚だったんじゃなかったか?


「適当に魚を50匹追加してあげんす。ローラもこのダンジョンの理念は理解していんすね」

「殺さへんで時間を稼ぐどしたなぁ。おもしろそうどす」


 どうやらマナは必要なさそうだ。地下2階はフリーハンドだったけど、ローラがいるなら色々と冒険者の邪魔をしてくれるだろう。

 どんな手を使うか、ゆっくりと見せて貰おう。


 ローラが指揮者となることで、俺達が池で泳いでも全く害はないそうだ。

 ダンジョン住人全員が対象だと言っていたから、ゴブリンの少年達もあの池で水遊びが出来るんじゃないかな。

 クリス達は、カタログで水着と浮き輪を手に入れたようだ。

 外の無い場所で、皆と遊ぶんなら日焼けを気にせずに遊べばいい。

 深窓のお嬢さんだったらしいからね。生前出来なかったことをここで行えるなら、誰も文句は言わないだろう。


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