6-11 作戦成功
初心者冒険者達は、宝箱の1つを開けて銀貨3枚を手に入れたらしい。途中でスライムと交戦していくつかの核を手に入れたらしいから、彼等のダンジョンデビューは成功ということになるんだろう。
とはいっても、スケルトンとバンパイアに追い掛け回されて、ダンジョンを飛び出して行ったらしいからトラウマにならなければいいのだけど。
「100マナにもならなかったよ。スケルトンを見て腰を抜かすんだから……」
クリスが顔を膨らませながら教えてくれた。
もう少し骨がある冒険者が欲しいということなんだろうけど、あまりレベルが高いとダンジョンをめちゃめちゃにされそうなんだよね。
出来れば冒険者になって、1年程度の連中に来て欲しいところだ。
「まだまだゴブリンの避難者はやってきてるんだろう?」
「残り数回とおばあちゃんが言ってたよ。倉庫に残っていた食料も渡してあるし、ゴブリンさん達が畑から収穫した豆を袋に詰めていた」
名目で作った東の畑が役に立ったというところか。
カボチャもたくさん取れたらしいけど、ゴブリンの数が多いからねぇ。焼け石に水という感じだ。
「他の里から、雑穀を100袋送ってくるみたいにゃ。今年の冬はどこの里も食料が少ないにゃ」
「あの作戦が上手くいけばいいんだけどね。ところで漁もやってはいるんだろう?」
「クロードの作った罠を参考に、たくさん仕掛けているにゃ。小さな浜で子供達が貝を集めてるにゃ」
その上、山麓に広がる森で狩りや木の実、キノコの採取もしているのだろう。
もう直ぐ、冬になるからなぁ。今が一番の頑張りどころに違いない。
「雪が降ったら、また町に出掛けてみよう。ワインが足りないだろうし、ダンジョンのゴブリンやホムンクルスにだって雑穀は必要だ」
「ゴブリン達がだいぶ草を刈ってくれたにゃ。毒草が混じってたけど、それはスライム達が食べてくれたにゃ」
ゴミが出ないというのが凄いよね。
地下の拡張も、4区画の内の1区画が終わったらしい。現在は2区画目の壁面を整形しているらしいけど、それが終われば残り2区画だから、来春には運用を開始できるんじゃないかな。
「クロードさんの昔話のようにいくんでしょうか?」
「きっと上手くいくにゃ。グレッドの戦上手は良く知られているにゃ」
人間族の目が前線にだけ向いているなら、上手くいくはずだ。砦を襲撃することはあっても、中から食い破られるとは思ってもいないだろう。
「雪が降る前には結果が分かるにゃ」
「直ぐに始めるってこと?」
思わずミーナさんに問いかけてしまった。年明け辺りを狙うと思ってたんだけどね。
「あんな作戦は聞いたことがないにゃ。今頃は全軍で準備を始めてるにゃ」
おもしろいと思ったのかな? でも俺の頭の中では死傷者が出ないんだけど、軍と軍のぶつかり合いになりかねないんだよな。
素早く事を運んで、さっさと引き上げるのが一番なんだが、その辺りはちゃんと考えているのだろうか?
「上手くいくと良いですね。ゴブリンさん達がお腹を空かせずに冬を越せます」
「ほんとだね」
クリスも食料事情の深刻さを少しは理解しているようだ。
本来なら俺達が介入することではないのだろうが、ホブゴブリンのお婆さんやゴブリンの少年達にはさんざん世話になってるからね。
これぐらいのお節介は、ダンジョン経営の許容範囲ということにしておこう。
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しばらくは平和な暮らしが続いていたが、今日は朝からクリスとアビスがお婆さん達のところに出掛けて行った。
昼には、冒険者がやって来ると教えた途端なんだよな。
ダンジョンの前に広がる荒れ地はかなり広いんだけど、焚き火を作る場所はいつも同じというのもおもしろい。
その焚き火の様子で、彼等の大まかなレベルを知ることができる。
やって来た冒険者の仕草から見る限り、少なくとも初心者を抜け出した辺りに見える。
クリスはこのダンジョンの管理者なんだから、管理室で状況を見ていて欲しいところだけど、お婆さん達とグレッドさんがいるから、焚き火を囲んで作戦を練っているのかもしれない。
何となく、いたずら好きな連中が集まった感じがするんだよね。お婆さん達も目を細めてクリス達の話を聞いているに違いない。
「やはり、一撃離脱ということになるんだろうな?」
「前回は、驚かせていたにゃ。それに、この子達も気になるにゃ」
ダンジョンの平面図には、クリス達の部屋の壁際にたくさんの青い輝点がある。作戦を聞いているってことなんだろう。
となると、少し複雑な作戦を行うってことかな?
「移動を始めたにゃ。3つに別れて行動するみたいにゃ」
「こっちはスケルトン部隊だろう? これはレイスのおばさんの弓部隊だ。これが分からないよな?」
「この部屋に入って行ったにゃ! ここは、スライムの部屋にゃ」
ひょっとして……、また、落とし穴を使うのかな?
勇者対策でたくさん作ったんだけど、全てを埋めたわけじゃなさそうだ。
怪我や毒を受けたとしても、その対策さえきちんと取っているならそれほど恐れることは無いんだけど、たくさんあるとなれば問題だ。
宝箱を1つぐらいは渡してあげるんだろうけど、それを見付けさせたところでさっさと追い出すつもりなんだろう。
「だいぶクリス達も慣れてきたみたいだね」
「婆さん達の入れ知恵に違いないにゃ。でも、地下1階が出来たら、もう少し遊んであげられそうにゃ」
それは来春以降になるだろうな。雪が降ってきたら、スケルトン達も地下におろしてダンジョン拡張に加わって貰おう。
冒険者達がダンジョンに足を踏み入れるのをミーナさんと眺めていたら、管理室の一角に魔方陣が現れた。
光の中に3人の姿が見える。この前の3人ということなんだろうか?
「作戦の上々吉を報告しにまいりんした」
3人とも笑みを浮かべてるんだが、狼顔の笑みは何となく獲物を見付けて喜んでいるようにも見えるんだよな。思わず背中に冷や汗が浮かんできた。
「どうぞ、お掛けになってください。ミーナさんワインを頼む」
3人が俺の前にあるベンチに腰を下ろし、ミーナさんは棚からワインのボトルとカップを運んできた。
5個のカップをテーブルに並べてくれたから、ボトルの栓を開けてカップにワインを注ぐ。
「辺境ですから、これで我慢してください。上手くいったということですね?」
「一晩で砦の備蓄をみな頂きんした。あれだけの量があればゴブリンの新たな里の門出に十分でありんしょう。魔王も感心しておりんした」
「両者ともに死傷者は出ておらんでごんす。大隊長殿も感心してごんした」
「それは何よりです。たぶん同じ作戦は2度とできないでしょうけど、これからも戦に直接かかわらない領民にはあまり危害を加えないようにお願いします」
そうは言ったけど、戦略的には後方の生産を破壊するのが戦争継続を図る上では一番効果的なんだけどね。
だけどこの世界では、西で長く続いている戦を終わらせるつもりはないようだ。それが世界の意思というのであれば、俺の考えも及ばない何らかの思惑があるんだろう。
そんな動きに干渉するようなことがあれば、俺が排除されかねない。
言動には気を付けないといけないぞ。
「欲しいものがあれば用意するとのことでありんすぇ。何がお望みでありんすか?」
「ここは大きく出たいところです。戦場に散逸している武具を回収していただけませんか? 魔族軍も収集した武具をドワーフ族に渡して再生していると聞きました。再生前の泥にまみれた武具で結構ですから、量が欲しいところです」
管理室の中に笑い声が響く。
グレッドさんが俺の言葉を聞いた途端に大笑いを始めた。礼儀を欠いているんだろうな、クネリさんと副官の厳しい目が向いている。
「ワハハ……、失礼したでごんす。予想外の返礼の品を聞いてしまったでごんす」
「まったく、我等は魔王の代理でありんす。魔王の品位を疑われてしまいんす」
クネリさんの言葉を聞いて頭を掻いてるぐらいだから、グレッドさんは悪い人ではないんだろう。
だけど、上手くいって良かったな。
「ダンジョン経営が一段落したら、我等の部隊に招きたいでごんす。これは作戦に参加した一同の礼でごんす。我等も何とかせねばと思ってはいてのでごんすが、せいぜい、荷馬車を襲うぐらいのことしか思い浮かばなかったでごんす」
「魔王も傍に置きたいと言っていんした。館と美妃10人でどうかと言っておりんした よ」
「直ぐに首を刎ねられてしまいそうです。俺の考え等、所詮冒険者の浅知恵でしかありません。魔王の宮殿であれば、綺羅星のごとく有能な人材がいると思いますからね」
ウフフ……、と笑みを浮かべているのが何となく怖いな。
ラミアの魅了効果が働き始めたのを感じているのだろうか?
「早くダンジョンを拡張して経営を安定化して欲しいでありんす。貴方を招きたいのは我等が望みではありんすが、無理強いは致しんせん」
「そう言っていただけると助かります」
美妃10人にはちょっと心が動いてしまうけど、その見返りを考えるとね。ましてや、長い戦を終わりにするように動いたならどんな災いがやって来るか分かったものじゃない。
その後は、頂ける武具の量について話し合ったのだが、クネリさんの提案では荷馬車10台分とのことだった。
それだけ頂けるなら、地下1階を作ってあちこちに宝箱を置けそうだな。
互いに笑みを浮かべて手を握ったのだが、クネリさんの手は驚くほどに冷たく感じた。
やはり人間とは違うんだと、改めて思い知ったのだが、下半身の蛇体が隠れていると、本当に妖艶な美人なんだよね。
被災したゴブリン達の移動が終わったところで、砦から奪った食料の移送が始まる。
次々に馬車3台分ほどの積み荷が送られてくるから、十数人のゴブリン達が受け渡しの作業をしている。
総量はどれぐらいになるんだろうか?
備蓄砦に集積した食料を丸々奪ってはいるんだが、こんなにあるとは思わなかったな。




