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6-09 食料が全く足りない


 ホブゴブリンのお婆さん達のところで待っていると、レイスのお婆さんに連れられて、壮年の男が現れた。

 ダークグレーの長い髪を後ろで縛った、端正な顔の持ち主だ。

 身長は俺より少し上なんだろうけど、俺と同じで筋肉質には見えないな。黒い光沢のある衣服をまとい、マントに身を包んでいる。

 かなりな男前だ……。俺と比べてどうだろう?


「このダンジョンの管理人とお見受けする。私はグレイ、しばらく厄介になりますぞ。一応それなりの魔法は使えるが、剣はレイピアが使えるのみ。両腕があれば長剣が使えるのだが……」

「ダンジョンの責任者のクリスに、アドバイザーのクロードとミーナです。アビスはクネリさんのご厚意で手伝ってもらっています」


 互いに挨拶を交わしたところで、改めてベンチを1つ持ちだしてグレイさんに座ってもらう。

 話を聞くと、ホブゴブリンのお婆さんよりは、使える魔法が少ないようだ。

 アンデッド種族であることが、その原因であるらしい。確かに【浄化】や【サフロ】等はいらないだろう。

 素早い身のこなしはケットシーであるミーナさんを上回るらしい。長剣を持たせたらそれなりの強さになるらしいが、攻撃力の低いレイピアではスケルトンより少しマシなくらいだと話してくれた。


「何かあれば、スケルトンを率いて指示に従おう。食事はいらぬが、毎日ワインを1杯ぐらいは飲ませて欲しい」

「それぐらいなら何とでもなりますが、今飲んでいるワインで良いですか?」


 笑みを浮かべて頷いていたから、5日おきにボトルを1本渡せば良いだろう。ホブゴブリンのお婆さん達も飲むんだから、まとめて渡せば良いのかもしれないな。

 

「あまり冒険者を倒すことなく、一撃離脱でお願いします。ダンジョンの拡張はようやく地下1階に足を踏み入れたところですから、現在は1階で冒険者達を相手にしているところです」

「それなりに広いダンジョンだ。地下が待ち遠しいな」


 長くいてくれるのかな?

 魔気が強ければ、魔族は体を復元できると聞いたけど、その期間については教えてくれなかったんだよね。ここで会えて聞くことも無いだろう。しばらくは俺達と一緒にいてくれるならそれで十分だ。


 ワインを飲み終えたところで、管理室に戻る。

 直ぐにクリスが仮想スクリーンを開いて、近づいてくる冒険者がいないか確認を始めた。

 がっかりした表情を見ると、いなかったらしいな。

 

「まだまだ雪が降るまでには間がある。今年は勇者にあちこちのダンジョンを荒らされたようだからね。東にやって来る冒険者は多いと思うんだ」

「まだ噂が広がっていないのかもしれないにゃ」

「いや、どちらかというと信じられないというのが本音かもしれないな。この前きた、少しレベルの高い冒険者も、それを確かめに来た感じがするな」


 王都のギルド前で息絶えた魔導士、神官と戦士の持っていた武具が売りに出された……。いずれも勇者と行動を共にしていた連中だ。辺境の小さなダンジョンに倒れたというのは、ほら話に聞こえなくもない。

 勇者達のパーティ内で争いが起こり、それが原因で勇者達は消えて行ったという話の方が信じられるかもしれないな。

 勇者ではなく、一介の冒険者になったと言った方が世間的にも納得しやすいのかもしれない。


「今度は町に行ってくるよ。雑穀で良いかな?」

「畑が上手くいかなかったと言えばもう少し買い込めるにゃ。それにワインはたくさん仕入れるにゃ」

「了解だ。タバコと調味料に塩もいるね。他には?」

「アビスと考えてみる。出掛けるのは明日だよね」


 きっとお菓子がリストに入ってるんだろうな? まあ、今なら潤沢な資金がある。ちょっとした贅沢は許される範囲なんだろうな。


「鹿が2頭狩れたにゃ。それも持って行って欲しいにゃ」


 ミーナさんの言葉に、頷いておく。

 俺達は猟師ということになっている。鹿を持って行くなら世間はそう見てくれるだろう。


 翌日、朝食を終えたところで町へと向かう。

 魔法の袋をアビスに貸して貰ったから、かなり買い込んでも運べるだろう。

 町から離れた森の外れに【転移】して、太い杖をついて歩き出した。なだらかな斜面の下に町があるから、町の周囲が良く見える。

 すでに刈入れを終えて、農家の人達が畑に肥料を鋤き込んでいるようだ。肥料がたくさんあるなら、ああやって畑の地力を保てるのだろうが、焼き畑では色々と問題があるんだよなぁ。

 その辺りの対策も考えないと、5千人にも膨らむ村を維持するのは大変なことになるだろう。簡単な肥料作りを教えてあげるべきかもしれないな。


 町の南に回って、門番に挨拶しながら町に入る。

 土産に野ウサギを1匹手渡したら、目を細めて喜んでくれた。


「良いのか? これだって大事な売りものだろうに」

「鹿を2頭運んできました。途中で狩った物ですし、1匹ではね」

「なら立派な獲物だろうに……。ありがとうよ。嫁も喜ぶだろうな」


 門番と顔見知りのなれるなら安いものだ。

 町に入る前にちょっとした情報を教えて貰えることだってある。今日は何も言っていないから、いつも通りの平和な町だということになる。


 先ずは肉屋だな。通りを歩いていくと、肌寒くなってきたからかあまり人の姿が見えない。たまに急ぎ足で通り過ぎる人を見るだけだ。

 肉屋で鹿を売り払い、銀貨3枚を手にする。次にギルドに向かい、スライムの核を13個引き取って貰った。40バイトに満たない額だけど、ギルドホールで油を売っている連中が羨ましそうな顔をしているぞ。

 出所は、東のダンジョンとカウンターのお姉さんに話しておいたから、冬越しの資金が足りなければやって来るに違いない。


 最後に向かったのが雑貨屋だ。

 今日は娘さんではなくふくよかな体形をしたおばさんだった。粗末な紙に書いたメモを取り出して、揃えて貰うことにした。


「かなりの量になるけど、あんた1人で運ぶ気なのかい?」

「仲間の魔法の袋も借りてきた。冬越しの為にそろそろ用意しないとな。丸太小屋は作ったんだが、焼き畑では収穫量もあまり無くて……」


「焼き畑ではたかが知れてるよ。来年はソバを試してごらん。あまり麦から比べれば味は落ちるかもしれないけど、土地が痩せてるほど美味しくなると聞いたよ」

「出来れば試したいね。種はあるのかい?」

「試すなら、1袋用意するよ。晩春に種を撒いて秋に実が生るんだ。しっかり乾燥させて種を取るんだよ。そのままリゾットにもできるけど、石ウスで粉にすればパンと同じようにして食べられるよ」


 ソバなら俺も何とかできそうだ。焼き畑には適した穀物に違いない。

 おばさんが俺と話をしながらも、リストの品をこちら側の床に積み上げてくれる。

 途中から旦那を呼び出して、雑穀とライムギの袋を運ぶように言いつけていた。


「お椀はこれになるけど良いのかい? 包丁は3本とも肉切り包丁にになるよ。10人用の鍋となればこれぐらいだろうかねぇ」


 10人どころか20人前のシチューが作れそうな鍋だ。木で作ったお玉とかき混ぜ棒がセットらしい。

 一番高額なのはワインになる。1本銀貨1枚の品を10本買うことにした。


「それにしても、豪勢だねぇ。何か良いことがあったのかい?」

「夏前に東のダンジョン短槍を見付けたんですよ。ギルドに持ち込んだら、金貨を出してくれましたからね。こんな生活で金貨を手にできるとは思いませんでした。今年の冬は贅沢できます」


 勇者達のパーティがいなくなったことは、このおばさんも知っているのだろう。

 なるほどねぇと納得した表情で俺を見ている。


「これぐらいなら贅沢とも言えないけど、あんた達なら十分に贅沢な品なんだろうね。無理をしないで暮らすんだよ」

「ええ分かってますよ。一時の贅沢を楽しめるだけでも仲間達は喜んでくれます。暮らしは辛いですけど、頑張ればたまにこんなこともできるぐらいの気持ちでいますから」


 うんうんと、自分のことのように笑みを浮かべておばさんが頷いている。

 いつの間にか、旦那はいなくなっているから、必要な品が全て揃ったということなんだろう。


 おばさんの告げる代金をカウンターに乗せてあるザルの上に乗せる。全部で5750バイト。ワインが少し高かったかな?

 雑穀とライムギの袋が10袋ずつというのも多すぎた感じがしないでもない。


「はい確かに……。これはおまけだよ」

 

 そういって、ポケットからタバコの包を2つ手渡してくれた。1個3バイトだから、たくさん買ってくれたお駄賃というところなんだろうな。俺の買い物に警戒心は持っていないようだ。

 床に置かれた買物品を魔法の袋に次々と入れていく。俺達が使っている魔法の袋は大きいから、すぐに買物品を納めることが出来た。

 タバコの礼を言って、雑貨屋を立ち去る。

 買い物を済ませたなら早めに町を出るに限る。今日は俺1人だ。冬越しの資金を持たない連中に襲われないとも限らない。


 どうにかダンジョンに戻ったところで、買い込んだ品々を倉庫の棚に積み替える。

 買い込んだ雑穀の袋1つで200人程が1食の恩恵を受ける程度だろう。雑穀と合わせて20袋だから、まだまだ不足してしまう。どこかの食糧倉庫をでも襲わないとかなりの餓死者を出してしまいそうだ。


 管理室に入ると、やはり誰も戻っていないようだ。

 1人で棚からワインを取り出しカップに注ぐと、暖炉傍のソファーで今後を考えることにした。


 戦場では3万人以上が、東西に長い戦線を作って一進一退を繰り返しているらしい。当然両陣営ともに、兵站をしっかりと構築してその戦線を支えていることだろう。クネリさんも兵站局の魔族なんだよね。魔族兵士の底上げをダンジョンを使って行なっているのだろう。

 ゴブリン達を移動することで当座の兵士の供給は維持できるかもしれないけど、餓死してしまったら戦線に穴が開くんじゃないか?

 ちょっとしたほころびが戦況を変えることもあるだろうから、魔族の方もそれなりにゴブリンの避難には気を使っているのだろうが、いかんせん食料自給までの道はかなり長い。来年には少しは自給できそうだけど、とりあえずは今年の冬を乗り越えねば話の外だ。


 バングルを使ってキューブから王国の全体図を表示させる。

 クネリさんは輸送部隊を襲うことを考えていたようだけど、狙うんだったら食料の備蓄砦にして、この問題を一気に片付けたいところだ。


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