6-08 魔王からの贈り物
冒険者達は合わせて9名。約3日程度の滞在で、結構怪我を負わせることが出来たから、370マナが入ってきたようだ。スケルトンとスライムの戦闘回数と攻撃成功回数で140マナ。合計で510マナになったようだ。お宝は戦利品と貰いものだから俺達の懐は痛まない。
倒されたスライム数十体とスケルトン6体が残念な結果になってしまった。
アビスは、すぐに兵站局が送ってくれると言ってはいたけど、俺達と暮らしていた魔族だから、ちょっと感傷に浸ってしまう。
とはいえ、雪が降る前に、もう2、3回来てくれると助かることも確かだ。
現金の方は勇者達を倒したことで、かなり残っている。勇者が持っていた金貨だけで6枚もあったぐらいだ。金貨1枚を銀貨に両替してもらって、宝箱に2、3枚ずつ入れておいたから冒険者には好評なんじゃないかな。
もっとも、レベルの高い冒険者であればがっかりするところだろうけど、ダンジョンがまだ1階だけなんだから文句は言われたくないな。
「また来てくれないかな?」
「西で宝箱を3つも見付けたにゃ。あれだけで銀貨数枚にゃ」
ギルドで評判になれば、我も我もとやって来るんだろうか?
村との距離が開いてるし、レベルの低い冒険者が多いから中々やってこないんだよな。
「地図の上には、次の冒険者達がいないようだね」
「明日は、狩りに出かけるにゃ。ついでに草を刈って来るにゃ」
ホムンクルスやスライムの餌も必要だし、子羊達の餌も必要だ。干し草作りが間に合わなければ雑穀を与えることになる。
せっかくゴブリン達の食料として買い込んできたものを、子羊へと使うことになるのは問題だ。とはいっても、少しは子羊用にキープしておかないといけないだろう。
今度は村に出掛けて買い込んでくるか。
「お願いするよ。なら、俺は村に行ってくるけど、雑穀以外に何か買う物はあるかな?」
「ワインが欲しいにゃ」
「ワインならその内にクネリ殿が持ってくるでござるよ。勇者達は魔族の敵でござるから、その功績は魔王とて無視できないでござる」
「戦場から見つけた武具を貰ってるけど?」
思いがけない話を聞いて、アビスに問いかけてみた。
クリスもキョトンとしているから初耳なんだろうけど、ミーナさんは嬉しそうに頷いてるから、そういうこともあるってことかな?
「あれでは、魔族の諸将の手前問題になるでござるよ。さすがに地下の魔宮に招待しての歓待は無理でござろうから、それに近いことはしてくれるでござる」
「断ることはできるのかな?」
「そんなことをしたら、魔族軍がこのダンジョンに攻めて来るにゃ! ここは相手の贈り物を受け取って感謝しておけばいいにゃ」
とんでもないという感じでミーナさんが俺を睨みつけて教えてくれたけど、俺は魔王の配下になったわけではないんだけどなぁ。
「分かったよ。受けとれば良いんだよね。でも、変なものなら倉庫行きだよ」
「変なものは送ってこないにゃ。その辺りは、クネリさんが調べてるにゃ」
要するに、クネリさんが選んだものを魔王が褒美として俺達に下さるってことか。魔族特有の品ということにはならないんだろうけど、クネリさんだからねぇ。あまり安心できないな。
翌日は。俺一人で村に出掛ける。ライムギと雑穀を3袋ずつ購入して、ついでにワインを6本手に入れた。
銀貨8枚が無くなったけど、俺達の懐が温かいことを知ってダンジョンに来てくれればありがたいところだ。
ダンジョンの管理室の隣に設けた倉庫に着いたところで、荷物を棚におろしておく。ライムギの袋とワインは、ミーナさんがお婆さん達に届けてくれるだろう。
さて、ゆっくりお茶を飲もうと管理室の扉を開くと、暖炉傍のソファーにいた人物は、クネリさんだった。クネリさんの隣の女性は初めて見るけど、アビスがこちらに来ているから代りの副官になるのかな?
「どなたもいないのでありんしたから、わたしがお留守番をしていんした。どうぞこちにいらしてくんなまし」
「それは、申し訳ありません。たぶんクリス達はダンジョンの視察に行ったのでしょう。ミーナさんはホムンクルス達の食料調達に今朝早く出掛けましたし、俺も村での食料調達から今帰って来たところです」
慎重に移動しながら、クネリさんからテーブルを挟んだ反対側のソファーに腰を下ろした。
クネリさんの副官がお茶を入れてくれたけど、アビスよりも年上に見えるな。どちらかというと俺とあまり大差ない歳に見える。
「アビスさんに手伝って頂いていますが、今日は復帰の命を伝えに?」
「いえいえ、そうではありんせん。アビスはこのまんまお使いくんなまし。今回は魔王様のお使いで来んした 。『今回の首尾、まことに上々。持って褒美を取らす』とのことでありんすぇ。 これが御褒美の品でありんす」
副官がバッグから魔法の袋を取り出して、その中から木箱を取り出した。
丁寧に木箱を結んでいた飾り紐を解くと、そっと木箱の蓋を開ける。
白い煙が出てきたらどうしようかと思っていたけど、中から出てきたのは4個の指輪だった。
緑色の透明な宝石は楕円形に磨かれている。エメラルドなのかな?
「極上の風の魔石でありんすぇ。台座に彫られ魔方陣は【カミル】の効果を持っていんす。3身長までの物体を引き寄せられんすよ」
「近くのものを手に取ることができる?」
「そういうことでありんすぇ。念じれば発動しんす」
使えそうな、使え無さそうな微妙な指輪だけど、綺麗な品だから宝石としての価値の方が高いんじゃないかな?
「ありがたく頂きます」
俺の言葉に笑みを浮かべて箱を俺の方に差し出してくれた。
突然、倉庫の扉が開くとクリス達が入って来た。クネリさん達を見た途端、軽く頭を下げたから、一応の礼儀は出来ていると思いたい。
俺の隣にクリスが腰を下ろしたところで、アビスがお茶を再び用意してくれる。
「私を戻してくれるのでござるか?」
「アビスはこのまんまでありんすぇ。将来に備えてここで学んでくんなまし。ところで、例の話しでありんすが、ここで療養をさせて貰えるのでありんしたら、バンパイアを1体送ることができんす」
「タダで良いってことですか?」
「もちろんでありんす」
強請ってはみるものだな。だが、待てよ。タダより高いものはないと世間では言われてるんじゃなかったか?
「重大な欠点があるとか?」
「そんなことはありんせん。魔気があれば食事も必要はないでありんしょう 。強いて言うなら、片腕の再生が整いんせん。魔気の濃い場所で2年も過せば現役復帰できるのでありんすが」
「バンパイアなら、片腕が無くとも魔法を十分に使えるでござるよ」
「なら、よろしくお願いします」
ゴーレムと同じってことだな。
このダンジョンはリハビリセンターではないんだけど、リハビリを行いながら俺達に協力してくれるんなら問題はないな。
笑みを浮かべながらクネリさんが帰って行ったけど、忙しいんだろうな。4つの指輪を渡してくれるだけなら、副官に頼めば良いと思うんだけどね。
夕方になって帰って来たミーナさんが揃ったところで、指輪を1個ずつ貰うことになった。箱はクリスがキープしていたけど、棚に置いたところをみると小物入れに使うつもりなんだろう。
「【カミル】の魔法にゃ。持ってる魔導士は少ないにゃ」
「落ちてるものを拾う時に使えるでござる。誰にも見られずにポケットに入れられるでござるよ」
それって、ネコババと言うんじゃないか? やはり、使えない魔法なんだろうな。
でも、レアな魔法ということで皆喜んでいるんだけどね。
数日過ぎた頃、約束通りバンパイアがやって来た。
お婆さんの配下ということになるんだろうけど、実際のレベルはバンパイアの方が上になるらしい。
「片腕を戦で無くしている状況では仕方がないにゃ。療養が主で、手伝いは従になるみたいにゃ」
「気が向かないと、手伝ってくれないとか?」
「それは無いでござる。こちらの魔族の統括は3人のお婆さん達でござるよ」
そんな話をしたところで、本人に会いに向かうことにした。
やはり、1度はあってみるべきだろう。このダンジョンにいつまでいてくれるか分からないけど、ここにいる間は俺達の仲間なんだからね。
管理室の隣の倉庫にある転移用の魔方陣を起動させると、俺達4人はお婆さんが住んでいる部屋の手前の回廊に出る。
お婆さん達の部屋からは良い匂いがするから調理をしている最中なのかな?
「「今日は!」」
「おやおや、大勢でやってきたのう。隅に長椅子が置いてあるぞ」
手造りの長椅子は、背もたれがないベンチのような代物だ。
ゴブリン達が作ったんだろうな。両手に1脚ずつ手に取って、お婆さん達がかき混ぜている大鍋の反対側に腰を下ろした。
お婆さんが席を立ち、これも手作りの棚からワインとカップを取り出したのを見て、アビスが手伝いに向かった。
「やって来た理由は聞かずとも分かっておるよ。じゃが、今はレイスの妹と共にダンジョンを巡っておるぞ。なぁ~に、すぐに戻って来るじゃろうがのう」
「どんな人物かを見に来たんですけど」
「あ奴なら問題あるまい。仲間をかばって腕を失ったと聞いたが、バンパイアとしては温厚じゃろうな」
ん? バンパイア族は温厚な人物は珍しいということなんだろうか?
魔族には色々な種族がいると聞いてはいるが、所属の特徴と言うのは余り聞いたことが無いんだよな。
他の冒険者に聞いても、強い、弱い、たまに魔法を多用するぐらいしか教えて貰えなかったんだよな。




