6-03 1つ先の町
ギルドの間取りはどこの町も同じだな。
カウンターにいた受付嬢の1人に近づくと、向こうから言葉を掛けてくれた。
「この町は初めてですか?」
「初めてだ。近くまで来たんで寄ってみたんだけど、これを買い取って貰えるだろうか?」
俺の話が終わったところで、ミーナさんがバッグから布に包んだ短剣をカウンターの上に置いた。
包を解いて現れた短剣を、お姉さんがちょっと驚きの表情で俺と短剣を何度も見比べている。
「な~に? どうしたの」
「これよ。これって、あれよねぇ」
俺には何のことかさっぱりだけど、見る人が見れば分かるのかな?
「ちょっと、こちらにいらしてくれませんか?」
「ああ、構わないけど。俺達は冒険者じゃないんだが、そちらに行っても良いのかな?」
「構いません。これは預かりますね」
短剣を再び布に包むと、俺達をカウンターの中に案内してくれた。先になって案内してくれてるけど、このまま行けば小さな会議室があるはずだ。
「こちらでお待ちください。直ぐにマスターを呼んできます」
とりあえず椅子に掛けて待っていると、老人を伴って受付嬢がやって来た。直ぐに下がって、今度はお茶を用意してくれる。
俺達にお茶を配って、ギルドマスターと共に、対面の椅子に腰を下ろしたところで、ギルドマスターが口を開いた。
「どこで手に入れた。これは貴族の紋章がある以上、貴族に渡すのが筋だが褒賞は渡さねばなるまい。相手に報告する義務がある以上、手に入れた経緯は話して欲しいところだ」
「俺達は猟師ですから、出来れば買い取って頂きたいところです。猟師仲間の冬越しの食料と酒を手に入れられればありがたいんですが」
「金貨1枚を渡すぞ。買値ならばもう少し安いのだが、貴族ならばそれなりの矜持があるからのう」
「ありがたく頂きます。場所と時期でよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい」
10日程前に、東のダンジョンの中にある広間のような場所と伝えておいた。
周囲に死体は無かったが洞窟サボテンがあったと言えば、相手が勝手に解釈してくれる。
「その前に、やはり猟師が短槍を見付けたと聞いたが?」
「俺達の仲間ですね。それを聞いて俺達も向かったんです。金貨を手にするのは久ぶりですから、行っただけの価値はありますね」
「それを持っていたのは、勇者達のパーティだ。戦士は貴族の次男坊。腕はあるはずなんだが、洞窟サボテン以外にそのダンジョンにはいないのか?」
「スライムとスケルトンは見たことがありますね。獲物が獲れない時にはスライムの核は良い収入です。かなり大きな広間で、真ん中に池まであったんですが、魔物はそんなところです。もっとも、奥はどうだかわかりませんが」
俺の話を聞きながら頷いているのは、自分なりの解釈をしているんだろうか?
ゴブリン弓兵と毒矢の話はしないでもだいじょうぶだろう。すでに、毒矢については王都のギルドから情報を得ているはずだから、予想外にダンジョンが深いのではと考えているはずだ。
「それにしても、その広間までは冒険者ではなくとも入れるとはのう。そこでこの短剣が見つかったのなら、死体は回収できんじゃろう。出掛けようとする冒険者には十分に注意させねばならんな。まだ勇者の情報は出てこないが、やはりダンジョンの奥で死亡したのじゃろう。その得物を探そうとする奴は出てくるだろうな」
「そんなに危険なの?」
ギルドマスターの隣で聞いていた受付嬢が問い掛けた。
なぜ、ここにいるのかと思っていたんだけど、どうやら記録を取っていたようだ。
「急に危険の度合いが増すようなダンジョンなのじゃろう。勇者と言えば、ミノタウロス数体でさえ、余裕で倒せる技能の持ち主だ。まして同行した仲間もその道を究めたものばかり。どんな魔族が出たのか、全く予想さえつかん」
「広間に崩れた女神像が3体ありましたが、その御利益もあるんですかねぇ」
「何の像か分かればな。3体の女神像……、モイライなのか?」
ギルドマスターはモイライを知っているのかもしれない。隣の娘さんは首を傾げているから、ある意味古い神ということなんだろう。俺だって、あれを見たのはこの世界で初めてだからね。
その後は、俺達猟師暮らしの話を興味深げに聞いてきたけど、ミーナさんが答えてくれたから助かった。
だけど、ミーナさんの話だと、猟師仲間が20人近くいるように思えるんじゃないか?
定期的に鹿肉を近くの町や村に届けていると聞いて頷いていたから、やはり俺達が猟師だとは信じられなかったようだ。
話を終えたところで、ギルドマスターが金貨を1枚渡してくれた。
これで荷馬車が買えると良いんだけどね。
ギルドの受付嬢に宿を教えて貰って、この町で一晩過ごすのは予定の内だ。
入り口から奥まったカウンターのおばさんに、1夜の宿をお願いして2人分の宿代を払う。
「2人で50バイトになるね。夕食は込みだから、部屋のカギをテーブルに乗せておけば持って来てくれるよ。酒が飲みたいときは、その時に頼んでおくれ」
「それじゃあ、これで。結構、混んでますね?」
「ああ、冒険者達が狩りから帰って来たんだろうね。近場ではあまり獲れなくなったと聞いたから森を越えて行ったのかもしれないね」
猟師のライバルってことかな?
あまり、山には行って欲しくないんだけど、近場で獲物が獲れないとなれば仕方のない事かもしれない。
俺達の素性がバレないようにしないとね。
テーブルにカギを置いておくと、直ぐに夕食が運ばれてくる。
具の少ないスープに少し焦げのあるパンはいつもの夕食と比べれば貧相だけど、これが普通の食事なんだよなぁ。冒険者時代には、お茶とパンだけの夕食が続いた時もあったぐらいだ。
ついでに頼んだワインはカップ1杯が3バイトだった。3バイトあれば朝食だって食べられるんだが、町の宿に泊まるんだから、昔を懐かしんで1杯ぐらいは許される範囲だろう。
「よう、あまり見かけん顔だな? 新人なのか」
汚れた革鎧を着た男は背中に長剣を背負っている。赤ら顔だからすでに酔ってるんだろうけど、まだ右手のカップを離さずに飲んでいるようだ。
「そっちは冒険者か? 俺達は猟師だよ。元は冒険者だけどね」
「ふん、冒険者で暮らせないと知って猟師ってわけかい。あまりふもとに下りて来るんじゃねぇぞ。俺達の獲物が減るからな!」
思わずミーナさんと笑みを浮かべる。
俺達に難癖を付けて暴れるつもりなんだろうか?
「あまり下りてくる時はありませんけどねぇ。獲物を運ぶ時は町に来ますが、それ以外は仲間達と東にまで足を延ばしてますよ」
「ちょっと待て! ギルドにあれを持ってきたのはお前達だな。ちらりと見たが、あれはどこで手に入れた」
酔っ払いを押し退けるようにして、中年に差し掛かった男が現れた。こぎれいな革鎧が膨らんで見えるから、裏に鎖帷子を仕込んでいるに違いない。
押し退けられた男が床に尻もちをついたから、目を見開いて男を殴りかけたの見た仲間が慌てて取り押さえている。
俺の前にいる冒険者は少しは名の知れた冒険者ということなんだろう。
「見たんですか……。俺達猟師にはあまり関わらない話ですから、お聞かせしましょう」
俺の言葉に頷くとテーブルの反対側の椅子に腰を下ろすと、片手を上げて給仕の娘さんに酒を頼んでいる。
頼んだ数が6つと聞いて、彼の顔を見ると小さく頷いた。
どうやら仲間がいるらしい。男の両側に座ったのは、俺より少し年上の男と、ミーナさんに良く似た獣人の女性に、エルフ族と思われる耳をした女性だった。
「あれは貴族の身分を示す短剣だ。ケースの宝石飾りでその家名が分かる。あの配置は、ドネル男爵のはず。ドネル男爵には男子が2人いるが、兄は王都にいるはずだ。そうなると、あれを持つ者は、勇者と共に行動している次男ということになる」
娘さんが運んできたカップを俺達の前に出しながら、話を切りだした。
それなりの身分を示す短剣というわけだったのか。もう少し高く買い取ってくれても良いように思えるけどね。
「見付けても短剣では猟に使えないですからね。聞きたいのは、見付けた場所ということですか? 俺達がその次男から奪ったとは考えないんですか?」
「相手にならんだろう。勇者ならば魔族の大物が出てきても余裕で倒せるはずだ。猟師にしては腕があるように見えるが、同行した者達なら簡単に返り討ちができるだろうからな」
勇者達の実力を認めているってことか。それに、俺達の前の4人もかなりの腕があるようだ。
酔っ払いの男を含めて、俺達のテーブルの周りでは冒険者達が聞き耳を立てて聞いている。この4人に俺達を任せようということらしい。
「確かに、俺は元冒険者でレベルは15を過ぎていますし、隣は元下士官です。駆け出しの冒険者なら相手に出来ますが、貴方達では荷が重いですね。
あの短剣は東のダンジョンで見つけたものです。仲間と一夜を明かすには都合の良い場所にありますし、冬には吹雪を避けて数日過ごすこともあるんですが……。
10日以上前に、そのダンジョンで雨を避けようとしたんですが、翌日も雨でした。
スライムが結構いるので、核を狙って奥に入り込み広間で見つけたのがあの短剣です。もっとも半ば埋まってましたから、スライムの核を拾おうとしなかったら分からなかったでしょうけどね」
「ほう……。東のダンジョンの話は聞いたことがある。通路が新たに現れて、一段と広くなったと聞いたが?」
「俺達は、潜ったとしても広間までです。その奥にどんな連中がいるか分かりませんからね。昔、深く潜ったダンジョンでミノタウロスに出会いました。仲間2人が俺を逃がしてくれたようなものです。いくら待っても残った2人は出てきませんでしたからね。それで、猟師をしているようなものです」
「無茶をしたな。その2人に感謝して暮らすがいい。だが、貴重な情報を話してくれた。これは礼だ」
男が取り出したのは、小さなスキットルだ。酒でも入ってるのかな?
小さく頷いて、テーブルに置かれたスキットルをバッグに納めた。
「単なる興味だから応えずとも構わんが、猟師で暮らしは立つのか?」
「贅沢をしなければ……、というところです。鹿を狩れば150バイトになりますし、それで雑穀が2袋と酒を買えますからね。雑穀パンも食べ慣れれば問題ありません。それに昔から比べれば危険は少ないですから」
邪魔をしたなと言って、俺達の前の冒険者達は別のテーブルに向かった。
俺達もそろそろ部屋に戻るか。
たぶん、10日を過ぎたころに俺達のダンジョンにやって来るに違いない。
ギルド以外で、冒険者にダンジョンのPRをするとは思わなかったけどね。




