6-02 食料援助
ゴブリン達の先行部隊がやって来たのは、クネリさん達がやって来た日から3日目のことだった。
あらかじめ、決まっていたんだろうか? それとも事態がかなり切迫していたのかもしれないな。
「それでは、ワシ等はあの土地をどのように使ってもよろしいと?」
「誰も使わないだろうからねぇ。尾根の峰の高さは初夏まで雪を頂いてるぐらいだし、尾根の東に抜ける峠道さえない。強いて言うなら、南の岬を巡って東へと向かうことになるが、山道を切り開かずとも、この南には広大な土地がある。船では岩礁が多いから東側の崖に近づくことさえ不可能だろう」
お婆さんと同年代に思えるゴブリンの長老が、数十人の若者を引き連れてやってきた。
さすがに管理室に来るわけにはいかないようで、お婆さん達の住む部屋近くに続々と転移してきたんだよな。
挨拶は必要だろうと、ミーナさんに引き連れられた俺達が出掛けると、長老達3人がお婆さんと一緒に待っていてくれた。
「気前が良いのう。それでじゃ、土地を使わせてもらう礼として、若者を50人送ると言っておるのじゃが?」
「ありがたいお話ですが、それはまだ先の話にしましょう。先ずは、畑と住み家を作らねばなりません。少しは援助できそうですが、あまり期待しないでください」
まだまだダンジョン自体が小さいからねえ。地下階が出来ればありがたく頂けるんだけど。
「とりあえず、雑穀を10袋と鍬を10個渡すにゃ。私達は猟師の集団と教えてるから、一度にたくさん買えないにゃ」
「それだけでも助かります。できれば、冬の前にもう1度食料を買い込んで頂きたいと思います。もちろん、購入代金はお支払いいたします」
「同じぐらいになってしまうだろうけど、そこは納得して欲しい。俺達の正体に疑問を持たれてしまうからね」
一度に10袋の雑穀を買うのだって、かなりの勇気が必要だったんだよな。
出来れば、商人と直接取引がしたいところだ。
さらに西に向かった先の町での購入も、考えないといけないだろうな。
ゴブリンの村作りは、兵士の徴兵先にもなるようだから、アビスが色々と世話をすることになったようだ。
クリスが少し残念そうな顔をしてるけど、夜になれば帰って来るんだから、俺達も本来の仕事を頑張らなくてはなるまい。
翌日には、ゴブリン達と一緒にホムンクルス達がやって来た。30体もいるんだから、俺達のダンジョンと同じく工事が捗るはずだ。
転移してくるゴブリン達は3日ごとに50人を目安にしているようだ。一度にたくさん来られても住む場所さえないからねぇ。
急斜面の山肌に横穴を掘る連中と、東の斜面の焼き畑つくりを分担して工事を進めているとミーナさんが教えてくれた。
「こっちの畑の収穫も全て渡してあげるにゃ。尾根の東の狩りは止めにするにゃ」
「尾根の西だけにするの? 獲物が減ってしまうね」
「それでも、私等は食べることができるにゃ」
目の前に飢える連中がいて、俺達だけが王都の裕福な市民と同じような食事ができるというのも問題がありそうだな。
クリスがジッと俺を見ている。
ここは少し無謀かもしれないが、食料の調達に向かってみるか。
「クリス。銀貨20枚ほど使わせてくれないか?」
「たくさん買うんでしょう。それで足りますか?」
「ああ、それで十分だ。俺達の仕事は魔族の救済までは無理だ。できる範囲での協力になる」
「私も一緒に行くにゃ。さらに西の町にゃ?」
「そこなら、少し多く購入してもだいじょうぶだろう。できれば荷馬車ごと購入してくる」
本当ならクリスも連れて行ってあげたいけどね。
翌日。朝食を取らず、直ぐに出発する。
街道を西に向かえば次の町に着けるんだろうが、いつも出掛けている町からは5日程の距離にあるらしい。
可能な限り、キューブでの転移先を西にしたのだが、誰が見ているとも限らないからね。朝早くの山沿いならば怪しまれることも無いだろう。
帰りは日が暮れたところで、バングルを使って【転移】魔方陣を作動すればいいだろう。
キューブで可能な最大距離の転移場所に現れたところで、先ずは南に向かって歩き出す。王都に続く街道を見付けて、それを西に向かえば次の町に着くことができる。
「この街道も不思議な道だね。この東にあるのは町が1つに、村が1つだ。立派な石畳を作る意味があるのかねぇ」
「あの尾根の東にもたくさんの町があったにゃ。石畳はその名残にゃ」
何だと! 思わず、隣を歩いているミーナさんの横顔を見てしまった。
ミーナさんは俺の視線に気が付いたのか付かないのか、ずっと前を見て歩いている。
「大戦の名残にゃ。土地が海に沈んでしまったにゃ」
「そんなことが出来たの?」
「出来たみたいにゃ。やったのは魔族の魔導士にゃ。その魔導師を倒したのが勇者達にゃ。魔族は大規模殲滅魔法を封印したにゃ。でも勇者は定期的に表れるにゃ」
出る杭は打たれるってことなんだろうか?
だけどその後の戦は、大規模な土地争いのような形になっているから、勇者が出ても戦場に登場することが無くなったようだ。
魔族にとっては、特殊潜入部隊のようなものだからねぇ。ある意味テロリストともいえるんじゃないか。
勇者となったことで、王侯貴族や、軍の指揮官の指示にも従わないとなれば人間族にとっても迷惑な存在なんだろうな。
俺達のダンジョンから脱出した魔導士を誰も介護しなかったらしいから、普段の行いが知れる。
「魔族は勇者のような存在はないんだろう?」
「いないにゃ。強いて言えば魔王様になるにゃ。でも、ちゃんと聞く耳は持っているにゃ」
持っていても、聞くだけだと問題だけどね。
そんな話をしながら俺達は西に向かう。
街道の途中には、定期的に広場が作られている。周囲を雑木林に囲まれた広場で、泉も湧き出ているようだ。
およそ3時間ほどの距離ごとに作られた施設は、軍の移動を速やかに行うためらしいが、普段は商人達の荷馬車の行き来に使われている休憩場所だ。
夕暮れが近づいたところで、そんな広場の1つで野宿することにした。
「携帯食料を買っておいてよかったにゃ!」
「それって、狩りの時の食料だったんじゃ?」
「そうにゃ。また買い込んでおくにゃ」
乾燥した野菜と干し肉を削って鍋に入れ、そのまま焚き火に掛ければ食べられるという優れものだ。
冒険者時代にはさんざん世話になったんだけどね。ここでまた食べられるとは思わなかったな。
「人間族の食事の方が美味しいにゃ」
「ミーナさん達の方は不味かったの?」
「味が薄いし、こんな温かくなかったにゃ」
偵察部隊にいたらしいから、焚き火を盛大に焚くことはできなかったんだろうな。夏だけど夜は涼しいからこんな焚き火を作ってるけど、周囲には誰もいないんだろうか?
ミーナさんは気配がないと言ってたけど、ちょっと心配になってくる。
「だいじょうぶにゃ。野犬さえいないにゃ。近寄れば私には分かるにゃ」
そう言って、隣にマントを広げてくれた。先に休めということなんだろう。ここは言う通りにしとこうかな。さっきから瞼が重いんだよね。
翌朝早くに、ミーナさんに起こされた。
まだ東の空が白んできたばかりなんだが、俺を起こしたところでさっきまで俺が寝ていたマントに包まってしまった。
ずっと起きていたんだろう。朝食を作るまでは寝かせてあげよう。
朝食を終えて、再び西に向かって歩き出す。
単調な1本道だけど、周囲は荒れ地と灌木の林ばかりだ。たまに野ウサギを目にするけど、大型の獣はどこにも見当たらない。
北にある森に潜んでいるのだろう。この辺りまで次の町の冒険者達は獲物を狩りにやって来るんだろうか?
「あれが次の町にゃ。やっと見えてきたにゃ」
「ここからだいぶありますね。でも夕暮れ前には到着できますよ」
昼近くに小さな丘を越えようとした時、遠くに町が見えた。
まだ小さくしか見えないけど、周囲を柵で囲んではいないみたいだな。それだけ獣の襲撃が無いということなんだろう。
魔族との戦に近い町は、周囲を丸太ではなく石垣で囲んでいると聞いたことがあるが、さすがに王都に近いだけのことはあるなぁ。
「銀貨を持ってきたけど、この短剣も売りに出してみるにゃ」
「それって、戦士の持ってたやつか?」
「長剣は、宝箱に使えるけど、ダンジョンの宣伝に使えるにゃ」
思わず笑みを浮かべてしまった。
神官の短槍は近くの町のギルドで売り払ったけど、この短剣もいわく付きの代物かもしれないな。
東のダンジョンで見つけたと言えば、少しは興味を持ってくれるかもしれない。時間的にも丁度良い頃合いに町に着きそうだ。
町に近づくと、町の周囲に堀と柵があるのが見えた。柵と言っても俺の身長ほどで、横木が2本だから、役立つかどうか微妙だけど、俺の身長ほどの幅がある掘はそれなりの防衛力になるかもしれないな。
石畳は、掘に作られた石橋に続いている。石橋を渡って、高さ2mほどの監視台を持った門を通りぬけようとした時、監視台の中から革鎧の男が飛び出してきた。
「見掛けん奴だな? 町にはどんな用事だ!」
「鹿をし止めたんで、降ろしに来たのさ。鹿を2頭に野ウサギが8匹だ」
「猟師か! なら通っていいぞ。冒険者も狩りをするんだが、鹿を狩ってくることは中々ないからなぁ。肉屋はこの通りをずっと行って右の看板だ。鹿の角が目印だぞ」
「助かるよ。それじゃあ……」
片手を振って、通りを急ぐ。
冒険者が狩りをしても、獲物が少ないのは良く知っている。それでも、依頼のない時には、食事代を稼ぎに狩をすることがあるんだよな。
俺達も散々やったけど、野ウサギ3匹も狩れれば酒場で酒を飲んで祝ったものだ。
「あれだな。先ずは肉を卸して行こうか」
目的の看板を見付けて、獲物を卸す。
ダンジョン近くの店より10バイト高く買い取ってくれたが、野ウサギは同じだった。
「440バイトにゃ。次はギルドにゃ?」
「どうなるかな。興味を持ってくれればいいんだけどねぇ」
ちょっとした期待感を持って、ギルドの扉を開ける。
中にいた連中が一斉に俺達に視線を向けるのは、どこのギルドも一緒なんだな。




