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1-03 西の村を偵察


 ミーナさんの監督の元、トンネル掘りが始められた。

 硬い1枚岩の岩盤を、土手を崩すようにツルハシを使ってホムンクルス達が掘っているのを見ると、先が遠く感じるのは俺だけなんだろうか?

 作業を開始して5日目なんだが、まだ数mにも達していない。ある程度の大きさになるまでに、手持ちの資金が無くなってしまいそうだ。


「横穴は、どれぐらい進んでから掘っていくにゃ?」

「そうだな……、入り口から3つ目の赤で右手に部屋を作りたい。一々、外に土砂を運ぶのは面倒だからね。クリスに相談したら、それぐらいの転移魔方陣は簡単らしい」


 ロープに10mおきに結び目を作り、赤いリボンを結び付けた。

 クリスに寸法の単位と言ったらキョトンとしていたし、ミーナさんは自分の身長で計っているぐらいだからね。

 ダンジョンを適当に作るよりは、メートル単位できちんと作りたいのは、O型血液の俺のさがなのかもしれない。

 急きょ、マナを消費して向こうの世界から5mのメジャーと水準器にコンパスを取り寄せることになってしまった。

 120マナの消費は少しもったいないとも思えたが、測量器具も無い状態ではねぇ。

 こっちの世界から取り寄せた100mの丈夫なロープに、10mごとに目印を付けたメジャーがダンジョン内の工事の基本となる。

 この世界の度量衡もあるんだが、自分が関係するダンジョンなら向こうの世界の長さの単位でも問題は無いだろう。第一、俺が理解しやすい。


 土砂を運ぶための魔方陣は、その都度床に魔方陣を発生させなければならない。ダンジョン内の転移場所を任意に移動するための魔道具もあるらしいが、1セットで1000マナだから、現状では高値の花だ。とりあえずは、一方的な移動で済むからクリスの朝晩2回のお仕事になっている。

 今のところは入り口付近だから、そのまま外に捨ててもいいんだけどね。それが本当に必要になるのは数十mも掘り進んだ頃になるだろう。

 現状では、目で分かるクリスのお仕事ということで、本人も満足しているみたいだ。

 

 夏がやってくるころには、入り口から真っ直ぐに150m近い横穴が完成した。

 断面が4mで高さも4mほどになるから、中央回廊として十分に使えそうだ。

 現在は入口より30mほどの場所に東に向かって横穴を作っている。ある程度掘り進んだところで小部屋を設けて土砂搬出の中継点にするつもりだ。


 ダンジョン作りはメジャー代わりのロープと、コンパスを頼りなんだが、今のところは問題が無いみたいだ。ダンジョンの広さでレベルが変わるようだから、計画通りに作らないといけない。

 1階層だけでもレベルが9までに上がるそうだ。ダンジョンを水平方向に10万㎡広がるごとに、レベルが1つずつ上がっていくらしい。

 早いところレベル2に持って行きたいところだが、それほど簡単ではないようだ。とりあえず、レベルアップは3年後と目標を立てて頑張ることになる。


「明日は獲物が掛かってるかもしれないにゃ」

「今日もウサギが2匹掛かってたんだろう? 明日も獲れるんじゃないかな」

「ウサギじゃなくて、鹿にゃ。群れが近づいてるにゃ」


 獲れた野ウサギは毛皮を剥いで、ミーナさんが適当に切り刻んでホムンクルス達に与えている。一緒に出掛けた俺が、近場で適当に刈り込んできた野草と一緒に食べているから、今のところはホムンクルスの食事は何とかなっている。

 だけど、冬は草刈りが出来ないからねぇ。村で雑穀を買うことになりそうだ。

 そのための購入資金として、ウサギの毛皮を貯めこんでいるんだが、すでに十数匹分は確保してあるらしい。


「村に出掛けてみる? あまり貯めこんでも虫が付きそうだし、出来れば雑穀を蓄えておきたい」

「毛皮を纏めて来るにゃ。お菓子があったら買ってくるにゃ」


 クリスには、留守番を頼んでおく。俺とミーナさんであれば、山を渡り歩く漁師に見えなくもないからね。

 冒険者登録も考えたんだが、1か月おきに生存確認があるのが面倒だ。

 それに、俺達はしばらくこのままの容姿でいられるらしい。ちょっと嬉しくなる状況だけど、10年周期でダンジョンの状況が評価され、その結果が思わしくなければ、追い出されるとクリスが教えてくれたんだよなぁ。

 出来れば、もう一度人生を楽しみたいとこだけど、その評価基準がクリスにでも分からないとのことだ。当然のことだがマニュアルにさえも記載は無かったし、ミーナさんは全くの初耳だったらしい。


「準備が出来たにゃ。私が弓を持って、クロード君が杖を持つにゃ」

「村の少し北側がいいな。森に近ければ、俺達が急に現れても不審には思われないだろう」


 キューブの上に指を乗せながら、クリスが頷いている。

 近くの村には、この先も色々とお世話になるだろうからな。転移場所をある程度決めておいた方がいいだろう。


「座標の設定が終わったよ。帰る時は、腕のバングルを上手く使ってね」

「了解だ。俺とミーナさんのどちらでも良いんだよな」


 クリスが渡してくれたのは不思議な色をしたバングルだった。今では作ることも出来ない古の金属って奴かな?

 少し赤みを帯びた色なんだが、銅ではなさそうだ。

 

 とりあえず右手に付けておこう。抑える場所は理解できたぞ。帰還の指示が【リターン】とはねぇ。忘れることは無さそうだ。

 左手を上げて、了解したことを告げると、クリスが右腕をキュービクルの一角に伸ばした。俺達の周囲に魔法陣が描かれる。


 次の瞬間。俺の前には全く別の風景が広がっていた。

 クリスの座標設定通りに、村の北に広がる傾斜地に飛んだらしい。

 北には森が広がっているし、南に1kmほど下った場所には大きな村の家並みが見える。村の周囲には、広く畑が耕されていた。

 開拓を終えて、これからは町に向かって発展していくんだろうな。戸数もだいぶ多いから商店がいくつかあるに違いない。


 ミーナさんと一緒にウサギ罠を巡っていたから、良い具合に杖が手に馴染んでいる。歩き難い荒れ地だが、転んだりしたらみっともないからね。ゆっくりと村に向かって歩いていく。


 周囲を丸太の塀で囲った村は、たまに野犬に襲われることもあるのだろう。南に向かって歩いていくと、荷馬車1台が通れるほどの門が見えた。

 門番は、老人2人だったが古びた槍を持っている。紐で笛を首からぶら下げているから、門番として少しは役立つに違いない。


「どっから来た!」

何者もんだ!」


 王都で暮らしていた冒険者なら、訛りがひどくて分からないかもしれないな。


「山を巡ってる猟師だよ。ウサギの毛皮を売りに来たんだ」

「なら、真っすぐ行って、左の2つ目の看板だ。雑貨屋だが、冒険者から毛皮を買い取っていると聞いたぞ」

「ところで、山はどんなだね。酒場で黒犬を見たと冒険者が言ってたんだが?」

「それで、俺達も一度山を下りてきたんだ。猟師とはいえ、獲物を間違ったらこっちが狩られてしまう」


 俺の話に、2人の老人顔を見合わせている。

 黒犬は魔犬の俗称だ。狼よりも大きくて素早い。冒険者に討伐を依頼するなら、黒レベルが欲しいところだ。冒険者だったころのパーティならば、数頭なら何とかなるレベルだ。


「逃げ帰ったのは正解だったなぁ。これを機に町にでも帰って堅気になるんだな」


 老人達に片手を振ると村の中に足を踏み入れた。

 子供達が広場で遊び、おばさん連中は井戸場でおしゃべりの最中だ。

 平和な村ということになるんだろう。


 村の通りを歩いて、左手の2つ目の看板の前に足を止める。看板を見上げては見るものの、やはり何の看板かぐらいは書いてあっても良いんじゃないか?

 通りにはいくつかの看板も出てはいるのだが、文字ではなく子供が描いたような絵を彫り込んである。俺が見上げている看板にはカナヅチが描かれていた。

 読み書きが出来ない村人がほとんどだからなんだろうが、それにしてもねぇ……。



「こんにちは!」

 声を上げて扉を開くと、奥から誰かがやって来る足音が聞こえてきた。

 普段は、店番がいないのかな?

 店内は2つのテーブル席とカウンターがあるだけだ。いったい何を商ってるんだろう?


「野ウサギの毛皮を売りに来たんだが、買い取ってくれるのかな?」

「買い取りますよ。1枚5バイトになります。いくつお持ちですか?」

「これだけにゃ!」


 ミーナさんがバッグから魔法の袋を取り出すと、カウンターに袋から毛皮を出して積み上げた。

 その高さに、店員の娘さんが驚いてたけど、直ぐに気を取り直して毛皮の枚数を数え始める。

 

「全部で17枚ですね。次はお肉も持って来てくださるとありがたいです。お肉はこの先にある肉屋に下ろせますよ。……はい、85バイトです」

「それで、雑穀を買いたいんだが、1袋は無理か?」

「10パンド袋なら、1袋50バイトです」

「それに、ビスケットを半パンド付けてくれ。足りるか?」

「50バイトに12バイトになります」


 残金の27バイトを受け取ると、ミーナさんが品物を魔法の袋に詰め込んでいく。10パンドとは言ってるけど、かなり誤差があるのがこの世界だ。

 一応、10パンドは20kg程度になるらしい。雑穀は家畜の餌だから、意外と安いんだな。

 店員に軽く手を振って店を出ると、足早に村を後にした。


「ヒエに屑麦、それに豆が入ってたにゃ。1日にカップ1杯ならゴブリン達も喜ぶにゃ」

「ゴブリンはレベルが少し高いんだよな。ダンジョンレベルが5になるなら容易なんだが」

「ゴブリンが10体なら、狩りを手伝ってくれるにゃ」


 そういうことか。確かに魅力ある話だ。

 だけどダンジョンレベルがまだ1だからねぇ。


「レベルが高いモンスターなら、期間限定で雇えるにゃ。でもマナを消費するから、それが問題にゃ」

「出来るんだ!」


 思わず聞き返してしまった。吃驚したミーナさんがうんうんと頷いてくれた。そうなると、ダンジョン作りに使えそうなモンスターを雇えば良いんじゃないかな?

 一気にダンジョンを拡張できそうな気がしてきたぞ。

 森に入る手前で、バングルを使ってダンジョンの管理室に戻ることにした。


「帰って来た! 売れたの?」

「ちゃんと1袋買えたにゃ。5袋もあればホムンクルスの冬の食料もだいじょうぶにゃ! それに、これにゃ」


 ビスケットが1kgは少し多かったかもしれないな。バターの匂いがここまで匂ってくる。


「それじゃあ、お茶にするね」


 嬉しそうにクリスがお茶の準備を始める。

 お茶は、最初から金属の箱に入っていたらしい。「この箱に入ってたの」と教えてくれたんだが1kgはあるんじゃないかな? しばらくは買わずに済むようだ。

 お湯は暖炉のポットでいつも沸いてるんだよね。魔法瓶でもあれば良いんだけど、この世界には無いんだよな。

 その間に、棚の小箱に残りの硬貨を入れておく。

 どちらかというと減る一方だが、これも来年の課題だな。


 ビスケットを頂きながらお茶を飲む。

 なるほど、想像していた通りの味だ。昼食が無いんだから、これを2、3枚頂けば昼食代わりにもなるんじゃないかな。


「ゴブリン? レベルが5以上だから……、召喚の期間が1か月で1体30マナは必要になるみたい」

「10体は欲しいから、少し先になるな。しばらくは俺達で狩りをしよう」

「でも、スケルトンはタダみたいにゃ」


 何だと?

 思わず2人が眺めていた仮想スクリーンを覗き込んでしまった。

 確かにマナがゼロとある。どういうこと?

 思わず、クリスに視線が向く。


「ああ、それはですねぇ……」


 どうやら、ダンジョンレベルと、モンスターのレベル差で召喚に必要なマナが決まるらしい。

 スケルトンの召喚は0マナなんだが、召喚できる数に制限が加わるとのことだ。その数は10体ということだが、スケルトンは戦士職だから、ダンジョン作りを手伝うことぐらいは出来るんじゃないか?


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