6-01 5千のゴブリン
勇者が罠に掛かって1か月が過ぎたところで、【転移】の魔方陣を作り出す石を動かして無限に続く【転移】空間を開放した。
飲まず食わずでいたはずだから脱水症状で死んでいるんだけど、確実に止めをさすためにスケルトンが勇者の首を刎ねる。
俺とミーナさんで立ち会ったんだけど、クリスも管理室で見てるんだろうな。
あまり残酷なことをして欲しくないし、見て欲しくないんだけどね。
「これで完璧にゃ! 装備は貰っておくとして遺体はどうするにゃ?」
「ここに埋めてやろうか。『勇者、ここに眠る』ぐらいのことはしてあげないとね」
「なら、戦士と神官の墓標も作ってあげるにゃ」
魔族にも墓標があるんだろうか?
ちょっと意外な言葉を聞いたけど、死んだら仏の言葉もあるぐらいだ。化けて出られたら嫌だしね。
管理室に戻ると、クリス達がお茶を入れてくれた。
これで勇者については終わったことになるから、ダンジョン作りを頑張らねばなるまい。
「あの部屋の前に積んだ土砂を撤去すれば1階のダンジョンは完成だ。4年近く掛かったけど、地下はスムーズに進めたいね」
「地下1階の足掛かりは出来てるよ。私の案で良いんだよね?」
「あれは連結すると苦労するぞ。ローリングストーンで回廊を簡単に封鎖できるから、全く異なる経路を見付けなくちゃならないんだからね」
嬉しそうな表情で頷いている。
子供のお遊びのようなアミダクジ型の迷路はクリスの初案だ。
途中にいくつかの部屋を追加したけど、魔族の待機場所は必要だろう。辺境のダンジョンだからあまり来客もやってこないんだよなぁ。
「1階の歓迎部隊を残して、地下に移動させるにゃ。ダンジョンが大きくなればたくさん冒険者がやってくるにゃ」
「そうだね。今年は、勇者を含めて冒険者達がやって来たのは4回だ。あの槍を町のギルドで見せたから、直ぐに2組やって来たけどあれから来ないな」
「ここに冒険者が来てるでござる。明日にはやって来るでござるよ」
仮想スクリーンを見ていたアビスが教えてくれた。
早いとこ、勇者を埋めとかないといけないぞ。そうすれば、1階は全て開放できるからね。
「冒険者は今まで通りでいいにゃ?」
「低レベルだから、せいぜい怪我で済ませて欲しいな。地下2階を過ぎれば、少しは考えないといけないだろうけど」
他のダンジョンはどうなってるんだろう?
俺が命を失ったダンジョンは地下5階にミノタウロスがいたんだが、そこを攻略する連中は黒の中位だったはずだ。レベル的には20ぐらいになるはずだから、今思えば無理をし過ぎた感じがしないでもない。
地下1階までを赤とすれば、低レベルの冒険者もダンジョンに足を向けられるし、黒を対象に地下2階以上を作れば良いだろう。
辺境だから、さすがに銀の連中はやってこないと思うけど、地下6階を作るならそんな連中を相手に出来るようにしとかないといけないのかな。
一応、この仕事をしている間は寿命というしがらみから解放されているらしいが、大型のダンジョンにするには数十年は掛かりそうだぞ。
その前に、俺達にこの仕事を託した連中が評価して、俺達を開放してくれればいいんだけどね。
翌日。勇者の後片付けはスケルトンとお婆さん達が行ってくれた。ミーナさんが頼んだみたいだけど、本人はゴブリンの少年達を率いて狩に出掛けている。
尾根の東の開墾の様子も気になるようで、向こうに作ったログハウスに1晩泊まって来ると言っていた。
「ゴブリンの村ができるの?」
「たぶんね。尾根が人里の間にあるから安心して暮らせるんじゃないか? このダンジョンを目当てに村ができるとしても、小さなものだろうし畑を作ったとしても東の小川までだろう」
その時には、最初に作った畑は放棄しないといけないだろう。
一応、猟師達の生活の跡ということになれば、村人だって仲たがいを起こさぬように近づくことは無いんじゃないか。
「勇者達のおかげで、しばらくはお金を心配しないで済みそうだ。となれば、冒険者達から得られるマナでさらにホムンクルスを増やせるよ。10体ずつ2組を今年中に3組にしたいね」
「地下1階の造営速度を上げるのでござるか? となれば、地下2階の図面も考えないといけないでござるよ」
「一緒に考えてくれる?」
アビスが笑みを浮かべてクリスに頷いている。
ちびっ子2人が考えるダンジョンは、かなりお遊び要素が入るんだろうけど、意外と残酷な面も持っているからねぇ。あまり極端な罠は没にしとかないとな。
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夏も終わりに近づいたところ、突然クネルさんが品の良い紳士を連れてやってきた。
魔族の中に、これほど人間族に似た種族がいたんだろうか?
ミーナさんが狩りに出掛けているから、俺達3人で対応することになったのだが……。
「一方的なお話で申し訳ないお話やけど、ジブン方にも利のある話やと思っとります」
今度は大阪弁だ……。
魔族の言葉って、かなり偏てるのかもしれないな。それとも、本来は全く異なる言葉なんだけど、俺の頭でそんな形に変換されるんだろうか?
俺だって出身が茨城県だから、ある意味バイリンガルではあるんだけどね。その内に、『だっぺ』言葉を聞くことがあるかもしれないな。
「ジキル」という名の紳士の話は、ゴブリンの村を作るというものだった。
なんでも、西の人間族との戦いで、ゴブリンの町が破壊されてしまったらしい。どうにか人間族を退けたらしいが、今後数十年はその辺りでの戦闘が激化するらしいとのことだ。
「他の町や村への移住も選択肢としてはあるんやけど、何分人数が多いねん。5千ほど移住させるわけにはいかんでしょうか?」
「100ほどでしたら、一時的にダンジョンのゴブリン達を退避させたログハウスも使えるでしょうが、それほどの数となると正直なところ難しいかと。まして尾根の東は小さなログハウスだけです。今から作るとなれば冬までに100戸を超える数を作るのは難しいかと」
俺の言葉に、クリスが何とかして! と顔を向けているんだけど、こればかりは物理的に難しいと思うんだよな。
場が重くなってきたので、アビスがお茶を替えてくれているんだけど、俺としてもこれ以上のことが言えないのが現状だ。
「賛成はして頂けるのでありんすね。でありんすが、その方法が思いつかないと?」
「その通りです」
俺達3人が溜息を吐く中、クネルさんとハイドさんは顔を見合わせて頷いている。
ん? 俺達と先方で考え方に違いがあるのかな。
「ゴブリン達の村を作るのは我等で行いんす。クロード殿達に迷惑はお掛けしんせんよ。わっち達がやって来んしたのは、挨拶のようなものでありんすから」
「魔族で短時間に村を作ると?」
どうやら、俺達の勘違いらしい。ゴブリンの住み家は奥行のそれほどない洞窟ということだった。
ホムンクルスを大量動員して一気に洞窟を作るし、集団生活をする連中だから大部屋を作れば問題ないらしい。まあ、そういっても100室は作らないといけないんだろうけど、ちょっとしたダンジョンになってしまいそうだな。
「雪が降れば冒険者達は来ないんでありんしょう? その時はこなたのダンジョンである程度の数を引き取ってほしいと思っていんす。その間、ダンジョンの拡張はお手伝いさせることで」
「むろん、食料や生活必需品は我等で供給します。みなのゴブリン達を収容できる住み家ができるのは春先まで掛かるやろからね」
「それなら互いに利がありそうです。要する一時の間、ダンジョンに仮住まいさせて欲しいということですね。その対価は労働力ということですか……。それなら、握手できそうです」
クリスが俺に何度も頷いてるから問題ないだろう。ミーナさんの考えも欲しいところだけど、まだ帰って来ないんだよなぁ。
「それでは、この辺りで帰りんす。数日後にゴブリンの代表者を召喚させんすが、ホブゴブリンのお婆さん達のところでいいでありんすね?」
「それで良いでしょう。再確認ですが、食料だけはよろしく援助願います。勇者達のおかげで懐は温かいんですが、大量に食料を買い込むことは難しいですから」
俺達の笑みを浮かべて頷いたところで2人が帰って行った。
【転移】魔方陣の光が消えかかった時に、再び魔方陣が作られて光を放ち、ミーナさんが帰って来た。
きっと近くで様子をを見てたんだろうな。クネルさんを嫌うんだから困った人だ。
「婆さん達のところで話を聞いてたにゃ。尾根の東なら問題ないし、助けて貰えることだってあるにゃ」
「だけど5千だよ。村じゃなくて町だよね」
「ゴブリンの村は最低でも1万にゃ。町なら10万を超えるにゃ」
開いた口が塞がらなかった。
それほどの蹂躙を人間族の兵士達は行ったということなんだろうか?
ジッと、ミーナさんの顔を見ていたら、小さく頷いてくれた。そうだということなんだろう。クリス達には教えてあげられないな。
俺も人間族なんだろうけど、同族をこれほど恨めしく思ったことは無い。魔族びいきになるのは仕方がないことなんだろうか?
「ゴブリンは弱い種族にゃ。ダンジョンでたっぷり鍛えてあげられるにゃ」
「マナを使わずにゴブリンを使えるってこと?」
「尾根の東とこのダンジョンは繋がってるにゃ。でもキューブでは一体になっていないにゃ」
そういえば、狩りの出発点はこのダンジョンだからな。
【転移】魔方陣で繋がっているようにも思えるけど、1階の平面図ではダンジョンの外に作った小川傍のログハウスや東の尾根のログハウスが表示されていない。
当然だと思っていたけど、よく考えると不思議な気もする。
クリスに調べて貰おうか。ダンジョンのいたずらを考えているよりは、建設的かもしれないからね。




