5-03 助っ人だって
勇者の脅威にさらされながらも、やって来る冒険者達の相手をしなければならない。
お土産は、少しずつ値打ちが下がってはいるようだが、きちんとダンジョン内に置いてあるから、見付けた冒険者達は喜んで帰っていく。
もっとも、宝箱の数が5つだからねぇ。3割ほどの冒険者は見つけられずに帰っていくようだが、スケルトンやスライム達と戦えばそれなりの品物は持って帰れるようだ。
大広間の洞窟サボテンの実も人気があるようで、触手の攻撃を避けながら頑張っているようだ。
1個15バイトの値が付くせいもあるんだろう。将来は、洞窟サボテンだけの区画を作っても良さそうだな。
「雪が降って来たにゃ。明日は、南で狩りをするけど、狩りも今年は終わりにゃ」
「食料は大丈夫なのか?」
「野草は、部屋1つに山積みにゃ。肉は野ウサギの燻製がたっぷりあるにゃ」
今年も何とか過ごせたけど、それは盗賊達が2回もやって来たからに他ならない。奴らの持っていたお金を頂くことができたし、装備類も良い売値で捌くことができた。
クネルさんから貰った人間族の兵士達の装備は宝箱に使ったけれど、長剣を何本か手元に置いている。どうしてもお金が欲しい時に売ろうと思って取っておいた品だ。
これは来年に持ち越しできそうだな。
「洞窟内の鎧ネズミは狩っても良いのかにゃ?」
「別に良いけど、あれってバイパーの餌じゃなかったの?」
「増えすぎたにゃ。洞窟サボテンを齧っているのもいるから、少し間引きするにゃ」
そういうことか。ダンジョン内の生態系は人工的なものだからな。どうしても歪が出てくるのは仕方がないところだ。
上手く狩れれば、洞窟サボテンの食料としても使えるだろう。
「ダンジョンの拡張は少し遅れてるみたい。でも、何とか地下1階に小部屋はできるよ」
「地下への階段は来年の今頃で良いんじゃないかな。となれば、来春は1階がほぼ完成することになるから、勇者歓迎用の罠の下ごしらえを作るのはこの冬でやることになるね」
「いろいろ考えてるの。でも、一番大変なのは勇者がやって来た時だけ、罠を使うことになるのかな」
「そうだね。冒険者達はそのままで、ということなんだろうけど。……そんなに都合よく行くのかな?」
俺の問いに、クリスが笑みを浮かべているし、ミーナさんは笑いを堪えようと必死の形相だ。
ちゃんと出来てるってことかな? 俺に教えてくれないってことは、勇者がやって来たときに、クリスが得意げに解説してくれるんだろう。
「クロード君の方は大丈夫なのかにゃ?」
「一応、考えたよ。でも、上手く行くとは限らないから、その時はもう一度1階を直さなくちゃならないかもしれないね」
「ダンジョンをめちゃめちゃにするみたいにゃ。被害が少ないダンジョンから優先的に魔族が援助してるみたいにゃ」
被害を与える方が人間族なんだから、本当なら人間族から援助が欲しいところだな。
勇者は基本的に勇者と位置付けている人間族が問題なのかもしれない。
今の俺達は、どちらに組することもできないんだろうけど、何となく魔族に好意的なのはこれまでの経緯があるからねぇ。
親切には親切で返すのが俺の流儀だし、逆ならば徹底的に懲らしめることに何のためらいもない。
窓の外に広がる雪景色を見ながら、小さな暖炉の傍でお茶を飲む日々が続く。
そんな俺達とは関係なく、ダンジョンの東ではホムンクルスとスケルトン、それにゴブリン達が懸命に回廊作りを進めている。
この分なら遅れを取り戻せそうだな。上手く行けば地下への階段を作って土砂で埋めることができそうだ。
中央回廊の西側と違って、東側は部屋の数が半分の7つだ。水平方向の広がりを増すことが目的だから、あまり部屋を作っていない。完成すれば、東西600m南北350mの広さになるから、21万㎡の大きさになる。10万㎡を越えるごとにレベルが上がるらしいから、一気にレベルが3になるんだが、回廊だけで広げたようなものだからねぇ。俺の考えが正しく評価されるかは微妙なところだ。
年が明けると、クリス達がダンジョンに出掛けて行く。一緒にミーナさんと10人ほどのゴブリン達を従えているから、罠の設置ということなんだろうな。
倉庫からスコップなんかも持ち出しているところをみると、落とし穴をたくさん作るみたいだ。自分達が落ちないように気を付けて欲しいところだけど、穴掘りは楽しいのかな? クリスが率先して行動してるみたいだけど。
1人残ってしまうから、勇者の魔法をリストで眺めながら作戦に問題が無いことをじっくりと考える日々が続いている。
そんなところに、ひょっこりとクネルさん達が現れた。
いつも来るたびにクネルさんの服装が違うんだが、今日は冬だというのに薄い下着姿なんだよな。
魔族の風紀の乱れを危惧してしまうのは、俺だけなんだろうか?
「クロード殿だけでありんしたか。こちの様子を見にきんした 。どうやら、王都の西にも回ってきたようでありんすから、夏前には必ずやってきんすよ」
「あれから2つのダンジョンをめちゃめちゃにしたでござる。上級魔族を派遣してもダメだったでござるよ」
とりあえず2人に座って貰った。テーブル越しに座って貰ったから少しは安心できるんだけど、いつ尻尾で巻き取られるか冷や汗が出てしまうんだよね。
誰もいないから、お茶を用意しようとしたらアビスが代わってくれた。
とりあえずお茶を飲んで落ち着かねばなるまい。
「クリス達は罠を仕掛けに行ってます。俺達のダンジョンは小さいですからね。罠で勝負します」
「一時的に、上級魔族を御貸ししようと考えていんす。ご希望がありんすかぇ? わっちには罠で同行できる相手とは思えんせん」
「食指が動きますね。どの辺りまで御貸願えるんですか?」
「ドラゴンは無理でござる。勇者の話が出たところで何頭か貸したでござるが全て殺されたでござる」
お婆さんが勇者は若いドラゴンだと言ってたな。仲間3人と力を合わせればドラゴンを倒すのも可能だということか……。想像するだけで恐ろしくなるな。
「どんな罠を作ってるのでござる?」
「見てみるかい? たぶん大広間辺りにいるはずだ」
仮想スクリーンを開いて大広間を見てみると、いたいた。小さなスコップを振り上げてゴブリンに何やら指示しているな。
直ぐ近くでミーナさん達が穴を掘ってるんだけど、あれだと深さが50cmにも満たないぞ。あんなんで役に立つんだろうか?
「勇者達を怒らせて判断力を鈍らせるお考えでありんすね」
「いや、あれで何とかなると考えてるんじゃないかと……」
確か、クリス達の作戦は分断後の各個撃破だったはずだ。あれでどうにかなるとは思えないんだが……。
「カゴを持ってきたでござる。あれに何か入ってるでござるな」
ゴブリン達が背負いカゴから木の枝を使って取り出したのは真っ赤に色付いたスライムだった。
あの姿で赤いからイチゴのゼリーに見えてしまう。思わずよだれが出たのは俺だけなんだろうか? ちらりと2人の顔を見たんだけど、興味深々で様子を見ているだけだった。
「あれは毒の触手を持つスライムでありんすえ。あれを入れたとしたら……、そういうことでありんすか」
「動きが鈍ったところを矢で射止めるでござるか?」
「神官と勇者がおりますえ。そう簡単とはならないでありんす」
アビスにそんな答えを言って、ころころと笑っている。
どうやら、俺達がパーティの分断と弱点を突くことで撃退しようとしているのが分かったようだ。
「アビスはここに残って手伝ってあげなんし。早々、食費はお土産で足りるでありんしょう。勇者がどうなりんしたかを見極めて帰って来るでありんす」
「ええぇ! 私がいないとクネル様の業務が止まってしまうでござるよ。そうなると、私が恨まれるでござる」
「ちゃんと、代りを用意してありんす。それじゃぁ……」
尻尾で器用に手を振ってクネルさんは帰って行った。残ったのは半分魂が抜けかけたアビスだったけど、クリスは喜んでくれるんじゃないかな。
数分経って、深いため息を吐いたアビスがもう1杯お茶を作ってくれた。
これがお土産ですと言って、テーブルに並べてくれたのは高価そうな短剣や魔導士の使う杖だった。
ありがたく頂いてしまい込んでおく。これだけ売れば来年も食事ができるだろうけど、半分はダンジョンの宝箱に使いたいところだな。
やがてクリス達が落とし穴作りから戻ってきた。アビスを見付けたクリスの目が輝いているのは仕方がないところだな。
ニヤリと笑みを浮かべたミーナさんがネコの姿になると俺の膝に乗ってくる。
目をウルウルさせたクリスを見て、アビスが仕方なさそうに子犬の姿になった途端、クリスに抱きかかえられてしまった。
強引だったらしく激しく抵抗してるんだけど、クリスにはどうでも良いらしい。逃げられないようにますます強く抱きかかている。
「クネリ様が来たのかにゃ?」
「ああ、様子を見に来たらしい。ミーナさん達の姿を見て満足そうに帰って行ったよ。それと上級魔族の支援が欲しいなら応えるそうだ。ドラゴンは無理だとアビスが言ってたよ。勇者達が帰るまではアビスがここに残ってくれるそうだ。食費にと武器を持って来てきてくれた」
「それなら、手伝ってもらえるにゃ。支援魔族なら……」
大きく頭をクリスに向けると、小さく頷いている。すでにある程度の予想をしていたのかもしれない。
「ゴーレムさんが欲しいな。1体は確保できたけど、出来れば数体欲しいんだ」
「ゴーレムでござるか? 力はあるでござるが、それだけでござるよ。中級魔族でござる。ケルベロスやミノタウロス等がお勧めでござるが?」
「いや、ゴーレムで良いにゃ。10体以下ならありがたいにゃ」
アビスが子犬の姿で首を傾げている。その姿がかわいらしいのか、ますますギュッとクリスが抱きしめているから、そろそろ解放してあげないと目を回しそうだな。




