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5-01 勇者だって?


「勇者だって?」

「そうでありんすぇ。わっち達には迷惑な存在でありんす。別名、ダンジョン潰しとも言われる連中のことでありんすぇ」


 初夏のある日のこと、ミーナさんがいないことをどのように知ったのか分からないけど、クネルさんがやって来た。

 その来訪目的が先ほどの話になる。勇者が現れたらしい。


 人間族にたまに生まれる身体レベルの極めて高い者が勇者と呼ばれるようだ。厄介なことにレベルの上昇も速いらしい。

 俺が現役の時にも、そんな勇者パーティの話を聞いたことがある。最初聞いた時には、さすが魔族と人間族の争いの世界だと感心したのを今でも覚えている。

 だけど、どうやら勇者と呼ばれるのは俺の思うヒーローとは異なるらしい。欲に眼がくらみ、ひたすらあちこちのダンジョン深く潜り込んで魔族を狩りまくり、最後は自分のレベルに見合わない魔族を相手にして滅ぶという存在だ。

 勇者が死んでも、それまでに稼いだ金は王国と家族が半分ずつ分けるということなんだが、最後に持っていた金を巡って、ダンジョンに挑む馬鹿もいるということだ。

 ダンジョン潰しだけではなく、優秀な冒険者も潰してしまうし、魔族だって迷惑だろうな。ダンジョンの魔族を狩りまくるらしいから、勇者が攻略したダンジョンは数年間冒険者が訪れないとも聞いたことがある。

 まさしく、ダンジョンの経営をぶち壊す存在以外の何ものでもない。


「今、どの辺りに?」

「王都から西に10日の距離にあるダンジョンが襲われたようでありんすぇ。こなたの ダンジョンにも今年には必ずやってきんす」


「まだ1階層の制作中にゃ。こんな小さなダンジョンにやって来るかにゃ?」

「奴は欲に取り付かれている。王国中のダンジョンを片っ端からつぶす気なんだろう。残すという思いやりは全く無いぞ」

「何とかなりんすか?」


 何とかなりんさないけど、何とかなりんすようにしなければなるまい。

 とはいっても、主力がスケルトンでは、30体もあっという間にバラバラにされてしまうだろう。

 逃げながらローリングストーンで挟んでしまうか……。閉じ込めて、生き埋めが俺達に出来る唯一の方法だろう。

「何とかなりそうでありんすね? それなら……」


 いきなり体が絡めとられて、クネルさんの隣に下ろされた。クネルさんが笑みを浮かべて俺に両手を回してくる。


「私んにゃ!」


 ヒョイっと、ミーナさんが俺を抱えるとポイっと放り投げてくれたんだが、床に頭を打ち付けてしまった。

 もう少し周りに気を付けて欲しいな。

 シャー! と威嚇してるけど、ホブ・ゴブリンのお婆さんの話しでは、戦えばクネルさんの勝利が確定しているようだ。


「片や古の女神、もう片方は妖精じゃからのう。一撃で終わってしまうじゃろう」


 クリスの素朴な質問に答えてくれたんだけど、それを聞いてるのでハラハラのしっ放しだ。


「別に、ミーナの物を取ったりしんせん。たまに借りることができればと願ってありんす」

「ダメにゃ。アビスで我慢するにゃ」


 アビスは女の子だろう? それも問題だと思うけどねぇ。

 いつもの展開になったということは、これでクネルさんの来所目的は終わったということになるんだろう。

 何とかしたいが、さて考えないと。 勇者が生まれるのはこの世界の歪にもよるのだろうから、何年かおきにポッコリと勇者は現れるに違いない。

 一度ということではないだろうから、対策もよくよく考えないといけないだろうな。


 ミーナさんから逃げるようにクネルさんが帰った後は、俺達がじっくりと考える番になった。

 お茶の最初の一杯を飲み終えるまでは、誰も口を開かない。

 2杯目のお茶をクリスが入れてくれたところで、ミーナさんが小さな声で呟いた。


「落とし穴にゃ」


 やはり考えることは同じということになる。


「でも、勇者様ですよ。いろんな魔法が使えるんじゃない?」

「確かめる必要があるな。それに勇者1人じゃないだろうから、パーティメンバーの能力も知っておく必要があるぞ」

「アビスに調べて貰うにゃ。でも落とし穴は何カ所か作っておくにゃ」


 落とし穴に掴まるような連中じゃないだろうけど、それも大事なことには違いない。俺達の戦力では罠以外の方法が思いつかないからなぁ。


 キューブを使ってアビスに連絡したのはクリスだった。ちゃんと連絡ができたのを核にすると、ミーナさんが管理室から魔方陣を使ってゴブリンの少年達のところに出掛けて行く。

 早速、落とし穴を作るんだろうけど少し早くないか? スケルトンが落ちないように、上に板を渡しとかないとな。


「クリス、ダンジョンの罠について調べられる?」

「いろんな種類があるんだよ。使い方はお婆ちゃんに教えて貰ったの」


 俺達がアドバイザーなんだろうけどね。思わず苦笑いが浮かんでしまう。


「何としても潰さないと……」

 ほら話の1つぐらいに聞いていた勇者だが、クネルさんも似た話をしていたから、間違いないってことなんだろうな。

 定期的に人間族に生まれるということも考えてしまうところだ。魔族にはそんな存在がいないんだろうか?

 魔王という存在もあるようなんだが、どうやら人間族の国王と同じような存在らしい。地下深くになる魔族の住む大空間で暮らしていると聞いたことがある。勇者のようにあちこち動き回ることが無いだけ周囲に迷惑はかけていないんじゃないかな。


 それからしばらくは、どうやって罠にかけるか悩む日々が続く。

 最初はミーナさんも手伝ってくれたんだけど、途中で断念してゴブリン達と狩りをしている。

 それにしても、勇者の能力が半端じゃないな。

 レベルは50を超えてるから、ダンジョンの奥深くにまで入れるし、攻撃力や防御力も防具を付けずにオーガロード並みの高さだ。

 魔法だって、中級魔法を全てマスターしているようだし。魔力値も俺の10倍を軽く超えてるんだよなぁ。

 一緒の連中も問題がありすぎる。ミノタウロスクラスの体力を持つ戦士職に、千切れた腕すら一瞬で元に戻せる神官や、広域魔法を使える魔導士までいる。

 罠も単純にはいかないだろう。やはり二重の罠や組み合わせを考えねばなるまい。


「落とし穴の下に棘を置いてもダメだったらしいよ。その場に浮いてたみたい」

「【浮揚】魔法が働いたんだろうな。そうなると、【転移】すら無駄じゃないか?」

「できるみたい。でも、発動した状態で【転移】を上掛けできるのかな?」


 ん? ちょっと気になることを言ったな。

 【転移】魔法は転移先を決めた状態で発動する。発動したということは、転移先が決まったからに他ならない。勇者が【転移】の魔法を使うのは、転移先でのことじゃないのか?

 転移先はこちらで制御できるに違いない。


「ほかにクリスが気が付いたことはあるかな?」

「えぇ~、そんなに気が付かないよ。でも、この4人はいつも一緒みたい。きっと仲が良いと思うの」


 RPGの基本みたいな取り合わせだからね。

 昔からの仲間なのかもしれないな。そうでもないと勇者の個性に付いて行けないんじゃないか?


「そうか! 勇者1人でどこまでできるかを試すのもありってことだな。クリス、ありがとう」


 俺の言葉を聞いて、キョトンとした表情を俺に見せているけど、俺の邪な考えが分かったのかな。

 仲間を1人ずつ、【転移】魔法で飛ばしてあげよう。戻ってきて何もできないように、転移場所を埋めてしまおう。戻ったら土の中というのも、彼らの最後には相応しいかもしれない。

 残った勇者をどうやって始末するかは、もう少し考えないといけないだろうな。


 夕暮れ近くになってミーナさんが帰って来る。夕食までには時間があるのか、ネコの姿になって俺の足に絡んでくるんだよな。

 とりあえず足元から取り上げて、膝に乗せると背中を優しくなでてあげる。

 ゴロゴロと喉を鳴らしているから、気持ちが良いのかな。


「いつも膝に乗ってる。私が抱っこすると逃げちゃうの」

「でも、アビスは抱っこさせてくれるだろう?」


 そう言ったら笑みを浮かべてるけど、あれは抱っこではなく拘束に近い。助けてくれと、目でクネルさんにいつも訴えてる気がする。


「明日は、お婆ちゃんのところに行って、勇者対策の秘策を聞いてきてくれないかな?」

「お婆ちゃん達は知ってるのかな?」

「少なくとも、前の勇者がどうなったかは知ってるはずだ。キューブの回答もあるんだろうけどね。両者に違いがあるのかも確かめておきたいところだ」


 どちらが優れた情報網を持っているか。それは今後のダンジョン経営にも活かせる。丁度いい機会だから試させてもらおう。

 それにしても、ダンジョンの罠って色々あるんだなぁ。

 部屋の壁を動かしたり、天井を落としたり……。扉に仕掛けるのは黒板消しや水の入ったバケツだけではないらしい。

 毒ガスは密閉空間ではちょっと問題だな。仕掛け弓もおもしろそうだ。


「ところで狩りは上手く行ったの?」

「鹿はダメだったにゃ。川で獲れたウナギを池に入れといたにゃ」


 入れといたにゃ、と言いながら嬉しそうな表情を見せたけど、絶対に観賞用とは思えないな。大きくしてから皆で食べようなんて考えてるのかもしれない。けど、ウナギねぇ……。かば焼きだったら俺も食べてみたいな。


「ミーナさんは短弓を使っていたんでしょう? 弓の仕掛けというのは無いんですか」

「あるにゃ。一応、罠ということになるにゃ。大きな熊でも倒せるにゃ」

「毒矢……、ですか?」

「毒ガエルの粘液が一番にゃ。私達はいつでも3本持って行動してたにゃ」


 かなり物騒な偵察部隊だったみたいだ。人間族の偵察部隊を狩る取るような作戦をいつもしてたのかもしれない。今でも短弓の腕は確かなものだ。その恩恵を受けてるから、今でも飢えずに暮らしてられる。


「勇者対策にゃ? なら、夏になったら毒ガエルを見付けておくにゃ」

「狩りには使わないでくださいよ。村に卸しに行くんですから」

「猪を狙えるにゃ。ゴブリンの大好物にゃ!」


 ゴブリン達の食料なら、問題ないだろう。何せ毒耐性を持ってるからね。用済みになった毒ガエルはスライム達に食べて貰うのもおもしろそうだ。植物性の毒は遅効性だけど、動物性の毒は即効性だから冒険者達はかなり驚くんじゃないかな。

 


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