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1-02 状況確認


 読むだけで2日掛かった「ダンジョンの作り方(初級編)」だったが、読むだけの価値があったというか、疑問が出てきたというか、とにかくそんなマニュアルだった。

 キューブを使って、ダンジョンの平面、断面を表示したり、増築の指示を出したりと色々と出来るようだ。

 もっとも、俺とミーナさんには操作が限定されるようだから、お主にクリスが操作することになる。そう言う意味で、やはり俺とミーナさんはアドバイザー的な存在になるんだろう。


 ミーナさんはマニュアルを読もうともしない。

 言われたことをすれば良いと割り切っているのも問題だが、魔族に関する知識は俺達を凌ぐはずだから、その時には協力してもらおう。

 嬉しいことに、ここに落とされた俺の姿は、かつて異世界に飛ばされた当初の俺の姿になっていた。

 18歳から再びやり直せるんだから、世の中死んでからも分からないよなぁ。言葉は日本語だし、着ている服だってこの世界どころか向こうの世界からも取り寄せが可能らしい。

 それが出来るのも、この部屋のど真ん中に置いてあるキューブの賜物だとクリスが教えてくれた。


 俺達は管理室と呼んでいるキューブの置かれた部屋で暮らすことになるようだ。

 窓の反対側に2つの扉があり、2つの寝室とトイレ兼シャワー室がある。壁の1画には小さな暖炉とソファーがあるんだけど、台所はどこにも無い。

 食事は、スープ皿と、パンが1つ。それに皿に盛られた肉料理が付く時もあるのだが、

戸棚の中に人数分だけいつの間にか入っているんだよね。不思議に思えるんだけど、これも魔法の一種なんだろう。


「それで最初は、ここがどこかということなんだけど……」

「これで分かるかも?」


 クリスがキューブの上を細い指でなぞると、キューブの上に仮想スクリーンが現れた。

 このキューブ、魔道具とのことだけど、まるで何かの端末のように使える。

 50インチを越える画像に映っていたのは、どう見ても地図なんだが、この世界の地図ではない。俺の元いた世界の地図と同じように描かれている。

地図の下に描かれたスケールはメートル単位だった。こちらの世界にも長さの単位はあるんだが、あまり一般的ではないからかな?


「俺達の場所がここで、一番近い村は徒歩で2日程だな。5日掛ければさらに大きな町があるし、王都は遥か西にあるみたいだ」

「場所が分かるのかにゃ?」

「ああ、ここはグリオード大陸の東端、オルデアン王国領だ。俺達の場所から東に大きな峰が南に続いている。その東は大海原だ」


 はっきり言って、ド田舎だ。

 ダンジョン作りを邪魔する連中は少ないだろうが、作っても訪れる連中がいるんだろうか?

 ダンジョンは冒険者達の希望でもある。

 そこには、まだ見たことも無いモンスターが闊歩しており、お宝だってあるんだから。

 そのお宝が、モンスターが身に着けた装備類や、モンスターが自らの体で作る薬であると分かった時にはがっかりしたんだよな。

 宝箱に入った宝石類なんかを想像していたんだけど、夢を壊された感じだった。


「冒険者がいないと、魔族も困るにゃ」

「ん? 来ない方が良いんじゃないの?」

「魔族のレベル上げが出来ないにゃ。魔族はあちこちのダンジョンに魔族を派遣して、冒険者と戦ってレベルを上げるにゃ。そうして強い魔族軍を維持してるにゃ」


 なるほどねぇ。冒険者は魔族と戦ってレベルを上げる。その反対だってあるってことだな。

 ダンジョンのアドバイザーにミーナさんがやって来たわけだ。元は魔族軍の偵察部隊に所属していたと最初に言ってたからね。

 そうなると、俺が元冒険者だというのも、案外バランスが取れているのかもしれないな。俺達が目指すダンジョンは、魔族と人間族のバランスが大事になるということに違いない。そのバランスを見るのがクリスの役目なんだろうけど、まだ小さいから俺達が上手くリードしてあげないといけないんだろうな。


「それで、いつから始めるの?」


 クリスの言葉に、思わずミーナさんと顔を見合わせてしまった。

 ソファーに戻ってテーブルに紙を広げると、鉛筆を手に考える。

 クリスが興味深々で、テーブルの紙に描かれた絵を眺めているんだけど、1本の線を真ん中に垂直に描いて、左に1個、右に2個の四角を描いただけだ。


「これって、ダンジョンかにゃ?」

「先ずは長いトンネルと、左右の部屋でいいんじゃないか? 後は枝を伸ばすように回廊や部屋を増やせばいい」


 先ずは『基本に忠実に!』ということでいいだろう。

 ダンジョンはこんな形という決まりは無かったはずだ。だけど、回廊と小部屋、それに魔族は定番だったからね。

 問題は、どうやって掘り進めるかということだ。それに掘った土の始末も考えなくてはならない。


「この人達に作業をしてもらうと、キューブに教えて貰ったよ……」

 

 クリスが左腕に着けたバングルを操作すると、テーブルの上に小さな仮想スクリーンが現れた。キューブの移動端末というところか? 中々便利に使えそうだ。

 

 20インチ程の画面に映し出されたものは、白い体に長い手足の人型の物体だった。頭はあるんだが、目と口がハニワみたいに開いている。


「ホムンクルスにゃ。古いダンジョンで穴掘りしてたのを見たことがあるにゃ。休むことなく命令をひたすら実行するにゃ」

「魔族なの?」

「いや、魔道生物と言った方が良いだろうな。問題は能力と、彼等の食べ物だけど……」

「人間の5割増で、なんでも取り込んで食べるみたい」


 ちょっと力持ちの人間と考えれば良いんだろうけど、取り込んで食べるというのが問題だ。食料を確保しなければならない。

 改めて、注意書きをよく読んでみると、野草や、昆虫、獣でも食べるらしい。


「どうやって、呼び出すんだ? ひたすら穴を掘ってもらうには都合が良いけど、ツルハシやスコップ、それに掘った土を運ぶカゴや荷車も必要だぞ」

「キューブを使えば簡単みたい。召喚はマナ、道具は王国の通貨であるバイトを使うそうだよ。ホムンクルス1体の召喚に100マナ。ツルハシは1つ30バイトって書いてある」


 ホムンクルスの映像の脇に、別の仮想スクリーンが表みたいなものを表示していた。

 クリスは幼く見えるけど聡明な少女らしい。さすがは天使見習いって感じだな。

 とはいえ、スクリーンから目を離して、3人で顔を見合わせた。

 俺達の持つマナと資金がどれだけあるのか。全てはそこから始まることになる。

 クリスが席を立つと、暖炉傍にある棚に向かって歩いていく。棚に置かれた小さな木箱を持って俺達のところに戻ってくると、テーブルの上に木箱を乗せ、そっと蓋を開けた。


「バイトはこれだけ。全部で45,000バイトあったよ」

 

 金貨が4枚に2,500バイト銀貨が1枚、100バイト銀貨が25枚だ。ん? 食費が少し掛かってるんじゃないかな。その分が減っていないのが不思議だ。


「食費は3日間はタダみたい。明後日から、毎日30バイトずつ減るとキューブが言ってた」

「あまり贅沢は出来ないにゃ。それに収入がないと4年目には飢えてしまうにゃ」

「ここまで来たら、やるしかないな。で、マナは?」


 クリスがバングルを操作すると、仮想スクリーンの上部に5000と表示が出てきた。

 これだけあれば、ホムンクルスを50体召喚できることになるのだが、そんなことをしようものなら、その後何もできなくなってしまいそうだ。


「ところで、俺達はどんな場所にいるんだ? ダンジョンを作る上でも周辺の状況は見ておく必要がありそうだ。

「外に出てみる? こっちに来て!」


 クリスに続いて、俺とミーナさんが現れた場所に移動すると、クリスがバングルを操作する。足元に魔方陣が現れて、それが動き出して俺達を光が包み込んだ。

 部屋の中が見えなくなるほどの強い光が消えると、俺達の目の前には大きな1枚岩の崖が姿を現した。


「崖の上まで、私が10人いないと登れないにゃ!」

「およそ15mというところだな。周囲は草原に近い荒れ地だ。南に少し下っているし、下の森まで歩くには時間が掛かりそうだ」


 少なくとも3kmはあるんじゃないかな。途中に俺の背丈ほどの岩がゴロゴロしている。東に目を向ければ2000mを越える尾根が南に延びている。地図によれば、あの尾根の向こう側に大海原が広がっているらしい。

 北に目を向ければ、斜度のキツイ崖の上は森になっているようだ。その森はこの崖を過ぎて南西に続いている。

 この付近だけ、森が切り開かれたかのように思えるのは土地の性質なんだろうか。灌木の繁みも崖から南には少ないように思える。


「この崖に穴を開けなければならないぞ」

「ツルハシに破砕の魔法を付加するにゃ。……値段が3倍、マナも50追加しなければならないにゃ。でも、岩を土壁のように掘れるにゃ」


 クリスの表示した仮想スクリーンをミーナさんが覗きながら教えてくれた。

 背に腹は代えられないか……。

 掘った土は、この辺りに捨てることで広場も出来るんじゃないかな。

 だけど、単に掘り進めるのは芸がないな。入り口はそれらしく飾りたいところだ。


 状況が分かったところで、管理室に戻ってきた。

 仮想スクリーンでこの管理室の位置を確認したところ、先ほど見た岩の右手にあるらしい。岩の奥2mほどのところらしいから、キューブの力を使えば窓から外を見ることも出来るらしい。


 マニュアルを取り出して、ダンジョンの入り口についての記載を読むと、多くのダンジョンが入り口を石柱や石像でそれらしく飾っている。しかも、マナを消費することで設置込みで行えるらしい。


「それなら、備品購入リストにあるんじゃないかな? 私も欲しいと思ってたの。綺麗じゃないと誰も寄ってこないと思うのよね」


 蝶々じゃないんだからと思いながらも、クリスに笑みを見せる。

 俺も、飾るのは賛成だ。でないと洞窟と勘違いされてしまう。

 問題は価格だ。マナでの支払いだから、あまり高価な物は無理だろう……。お買い得品ってあるんだろうか?


 クリスが仮想スクリーンを使って、色々な備品の姿を俺達に見せてくれる。その中で、春のお買い得品と書かれていたものは、何と古代ギリシャの神殿の廃墟にあるような代物だった。


「風情があるにゃ。この壊れかけたところが良い感じにゃ」

「台座もセットみたい。これで850マナは、他の品から比べれば安いんじゃないかな?」


 2本の石柱に支えられた三角形の梁は1枚岩の台座から伸びている。石柱の隣には頭の取れた戦士像が立っている。2体のある石像のもう1つは両手すら取れているけど、確かに良い感じに苔むしてるな。

 日当たりが良い場所だからコケは枯れてしまいそうだが、それはそれでということなんだろう。


「購入するね? 後はホムンクルスと穴掘りの道具で良いんでしょう?」

「掘る連中と、運ぶ連中がいるにゃ。道具は、ツルハシは魔法付加、その他の道具はこっちの一般品で十分にゃ」

「彼らの食事も問題だぞ。俺とミーナさんで狩りをするか。……小さな獣なら狩れるかもしれないし」


 なんだかんだ言いながら、少しずつ購入品が纏まっていく。

 食事すら忘れてどうにか纏まったんだが、これで明日からの作業を始められそうだ。


 先ずはダンジョン作りの要となる作業員のホムンクルスを6体。道具はツルハシが3本、スコップが3つ、それと一輪車が1台だ。

 狩りをするのは俺とミーナさんなんだけど、クリスも同じ装備を欲しがったから、厚手の布の上下に、長めの革のベストと短めのブーツ。ベルトには短剣と革のバッグを付け、短弓を手にする。矢は矢筒に12本だけど、見せ掛けだけだからしばらくはこれで十分だろう。3人分で4000バイトに収めることが出来た。

 暗い場所の工事だからと言って、魔法の松明も20本購入してある。1本で5日は明かりを灯せるらしい。

 これより高いランプもあったんだけど、値段がねぇ。とりあえずはこれで頑張ってみるしかなさそうだな。

 狩りに使うと言って、ミーナさんが小型のトラバサミのような罠を5つ買い込んだけど、ダンジョンの備品にあるってことは、それ以外にも罠がたくさんあるんだろうな。

 残ったマナは3500だ。

 ムダ使いせずに、ダンジョンを作っていこう。


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