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森のボス

 声がしたのは森の中だ。

 見通しが悪いので奇襲にはピッタリの場所だけど、逆にいえば奇襲されやすい場所でもある。

 恐らく魔物に奇襲をかけようと潜伏していたら、逆に奇襲されてピンチに陥ったと言ったところだろう。

 人間を襲っているのはさっき倒したアンデット部隊の仲間か?

 なんてことを考えていたら、森の奥の方が光ってズドンという音がした。


「爆発? 魔法使いが戦っているのか」

「急がないと危ないかも知れないです」

「大丈夫。こんなに全力で走ってるんだ普通に間に合う!」

「あ、はい! そうです普通に間に合います!」


 思い込むことで事象まで変えられるかどうかは分からないけど、リンネも普通に間に合うと言ってくれるんだ。何とかなるはず。

 とにかくそうして全速力で森を駆けていくと、森の奥の方から黒いマントと赤いフードを羽織った少女が全速力で走ってきた。


「森の中がこんな危ないなんて聞いてないわよおおお!」


 そして、全力で泣いていた。どうやらかなりパニックに陥っているみたいだ。


「俺たちは冒険者だ。君を助けに来た!」

「逃げないとダメよ! あのアンデットは爆破しても爆破しても何度も再生するの! 魔力を使い切っても倒せないとかどんな化け物よ!」

「やっぱりさっき倒した奴らの別働隊か。君はそこの樹の影に隠れていて」


 アンデットは浄化しなければ一定時間で復活することがある。

 太陽の出ている昼間なら日の光で浄化されるけど、昼間でもこういった暗い森では再生速度が夜ぐらい速くなる。


「リンネ、ターンアンデットの準備!」

「はい!」

「さぁ、来い骸骨。普通にサクッと倒してやる――ん? あれ?」


 ただ、そう言って俺は妙な違和感を覚えた。

 骸骨それにしてはカラカラという音がしないな。何と言うかもっと大きな物がのそのそと這って近づいているような重たい音がする。

 しかも、ズシンズシンという音にネチャネチャとした粘っこい音もするような。

 そして、何よりおかしいのが鼻の奥をツンと突くような臭いがする。


「あのシグルドさん、この音とこの臭いって……」

「まさか……まさかとは思うんだけど、君を追いかけてきたアンデットって」


 こんな音を出すアンデットに心辺りがある。

 勇者たちと冒険していた時に戦った毒霧の洞窟の主、死しても尚最強の魔物。


「ドラゴンゾンビよ!」

「やっぱりか!」


 森の奥から黒い瘴気を纏うドラゴンが這って出てきた。

 腐った身体からは所々骨が露出し、至る所に矢や剣が突き刺さっている。

 幸いなことに翼は骨だけとなり飛ぶことは出来なさそうだ。

 けど、歩幅が大きい分、見た目より速い相手だ。


「みんなあの瘴気を吸い込むなよ。猛毒にかかるぞ!」


 俺が命令するとリンネはすぐに口元を袖で覆い、魔法使いの子もフードを慌てて外して口を覆った。


「ドラゴンだろうとアンデットなら、ターンアンデットで倒してやります!」

「リンネ待て。あの瘴気はターンアンデットやヒールといった魔法を弾く役割もあるんだ。外側から撃ったら普通に防がれる」


 以前、そうやって勇者たちは苦戦した。


「ならどうすれば良いんですか? 森の外に連れだして、日の光で弱らせるとか?」

「いや、ドラゴンゾンビは日の光を極端に嫌う。光を感知したらすぐ森の中に逃げ込む」

「え? それはそれで良いのでは?」

「ダメだ。言っただろう? 日の光が苦手なだけだ。夜になったらこいつは普通に街までやってくるぞ。そしたら瘴気で水源が汚染される」

「それは困ります! 水が使えなくなるってことですよね!?」

「あぁ、だから、今日、ここで必ず仕留めないとヤバイ相手なんだ」


 逃げられるけど、逃げられない。

 しかも、強敵のドラゴンゾンビ相手に二人で挑まないといけない。

 普通なら絶望的な状況だ。

 でも、今の俺はこれぐらい普通の状況だって笑って済ませられる。


「アンチポイズン」

「え? シグルドさん? 毒耐性を上げてどうするつもりですか?」

「俺はヒールが使える。さっきも言ったようにあの瘴気は浄化の力を弾く力があるが、あくまで外側からの光だけだ」

「まさかシグルドさん!?」

「あぁ、瘴気の内側からなら普通にダメージを与えられる。俺が瘴気の穴を作るからリンネはそこにターンアンデットを使うんだ。そうすれば普通にターンアンデットで即死させられる」

「でも、瘴気は猛毒なんですよね!?」

「大丈夫。毒耐性も上げたし、息を止めれば普通に毒にはかからない」


 普通なら毒耐性を上げた上で瘴気を吸い込まなければ、死ぬことはない。

 それに俺のギフトが普通で俺のステータスを常に普通に固定しているのなら、状態異常だって普通の健常状態に維持してくれるはず。


「行くぞリンネ!」

「は、はい!」


 俺はドラゴンゾンビに向けて駆け出して振り下ろされた腕を躱す。

 そして、ドラゴンゾンビの頭上に向かって跳躍する。


「普通の脚力じゃ届かないけど、魔法で反動を使えば普通に届く! ウインドショット!」


 風魔法を手から放ち、反動を使って一気にドラゴンゾンビの頭上に着地して、武闘家のスキルを発動させる。


「ハードナックル!」


 硬化させた両手をドラゴンゾンビの頭蓋骨に突き刺して――。


「ヒール!」


 俺の回復魔法でドラゴンゾンビが身をよじって苦しんだ。

 普段は瘴気から守られていたおかげで治癒魔法を受けたことがなかったのだろう。

 ましてや身体の中から破壊されるなんて想定していない。

 おかげでヒールの効果は抜群で、頭蓋骨から全身の骨がばらばらと砕け、ドラゴンゾンビの身体から瘴気が一気に薄れる。

 これでドラゴンゾンビは無力化出来た。後は浄化の光で再生を防ぐだけ。


「リンネ! 今だ!」

「ターンアンデット!」


 淡い光がドラゴンゾンビを包み、ドラゴンゾンビが森の木々を揺らす程の断末魔を上げる。


「ふぅ、今回も普通に何とかなったな」


 思った通り毒にも何もかかっていない。普通の加護すごいな。


「シグルドさんさすがです!」

「リンネもな。ナイスタイミングだった」


 かけよってきたリンネとハイタッチを交わし、互いの健闘を讃える。

 っと、そういえばドラゴンゾンビを相手にしていた忘れていた。

 逃げてきた子は無事だろうか?

 そう思って彼女が隠れていた木の方を向くと、金髪の少女がダッシュで駆け寄ってきた。


「か、か、か、格好良い! あなたのお名前は!?」

「え、シグルドだけど」

「シグルド! 良い名前ですわね! 決めました。私もあなたのパーティに入るわね! 私はオフェリア=フォン=ヴァイグ。ヴァイグ領主の娘ですわ!」

「え? えええ!?」


 あまりに突然の展開に普通の俺はついていけなかった。

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