リンネを普通にサポートする
翌日、俺とリンネは早速クエストに取りかかっていた。
森の出口にあった岩場に身を隠し、対象の魔物がやってくるのを待っているのだ。
待ちに徹しているのは理由がある。
前線が近いヴァルグのクエストは他の街とは違い、軍対軍の戦いが多い。
手勢を率いる指揮官クラスの魔物が討伐対象に選ばれているのはそのためだ。
そして、魔物の小隊が人間の補給経路を潰すためにゲリラ的に襲ってくることが多い。そういう時は大概こういった見通しの悪い道を選んでくるらしい。
「つまり、叩かれる前に叩こうっていうことだな」
「なるほど。それで魔王軍がやってきそうな森の出口で待ち伏せている訳ですね
」
何が出てくるかはその日次第、敵によって対応を変えないといけないけど、何でも普通に出来る俺にとって全然問題にならない。
「さて、何が来るかな?」
「アンデットだと私も支援以外で戦えるんですけどね。ターンアンデットで浄化しちゃいます」
「へえ、ターンアンデット使えるのか。すごいな」
「えへへ、それほどでも。といってもこんな昼間っからアンデットが来るとは思わないですけどね」
「いや、普通に来るらしいぞ? 森は暗くて日の光を遮るから何だかんだで魔王領から渡って来るらしい」
「となると私ももっと気合い入れないといけませんね!」
リンネは何故か急に杖を構え直した。
そして、俺も自分が何を言ったかにすぐ気がつく。
普通に来ると言ってしまったら、きっとアンデットがやってくる。
「アンデット系だとアンデッドジェネラル。骸骨兵士の親玉か」
「シグルドさんのおかげで私も活躍出来そうです」
僧侶は基本的に支援が仕事だが、アンデットが相手の時は攻撃役に回る。
本来なら体力を回復させる癒しの魔法は体力を削る攻撃魔法になり、ターンアンデットという一撃でアンデットを浄化する光魔法もある。
普通に戦えばどれだけ傷を与えても蘇って苦戦する相手だけど、一人前の僧侶がいれば怖い敵ではない。
そうこうしていると、カラカラと乾いた音が森の中から聞こえてきた。
骨と骨がぶつかりあう音だ。間違い無いアンデットの集団がやってきた。
「来ました。アンデットウォリア―が5体とトサカのついた兜を被っているアレがアンデットジェネラルでしょうか」
剣と盾を装備した骸骨に紛れて、一体だけ立派な兜と鎧を身につけている。
どうやらリンネの見立て通りの編制だ。
「俺が囮になっている間に、リンネがターンアンデットで仕留めていくのが普通に楽そうだな」
「はい。今の私なら普通に負ける気がしません!」
「分かった。それじゃあ、詠唱を始めてくれ。俺が飛び出して囮になる」
リンネがターンアンデットの準備をしている間、敵を引きつけてリンネが気付かれないようにする。
どれだけレベルが高くて強い相手だろうが、それが出来れば普通に勝てる相手だ。
「食らえヒール!」
「キイイイイアアア!」
俺は岩場から飛び出すと、骸骨の戦士に回復魔法を向けた。
すると、淡い光に包まれた骸骨の戦士が苦しそうにもがきだし、奇声を上げる。
効いている。中級程度の治癒魔法だけどアンデットにとっては大ダメージだ。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
逃げ回りながらヒールを唱えて骸骨たちを弱らせていく。
さすがに普通のヒールでは一撃で倒せるとは思い込めない。
けれど、ヒールじゃなければ話しは別だ。
「シグルドさん! 準備出来ました!」
「やれリンネ! ターンアンデットなら弱ったこいつらを普通に即死させられるはずだ!」
「はい! ターンアンデット!」
ゴーンと鐘の鳴るような音が響き渡り、まばゆい光が骸骨たちへと降り注ぐ。
人にとっては柔らかな光でもアンデットにとっては炎よりも熱い熱線だ。
そんな浄化の光にアンデット達は焼き殺され、遺灰と骨たちが装備していた武具が転がった。
「今回もサクッと普通に勝てたな」
どんなに耐久力が高くても、即死技が決まれば勝てるのは普通だ。特に驚くことじゃない。
「はい。シグルドさんの因果変換のおかげです」
「因果変換?」
「あ、ごめんなさい。事象を普通化させる力の名前を勝手につけちゃいました。起きないことを起こるように変更する。起きることを起きないように変更する。これって因果を制御してるのかもって思って」
「普通化の呪いとか祝福よりも格好良いからそれでいこう」
ハッタリが効いた感じで良い。
それにもし、今後力を説明する機会があったとしたら、分かりやすい名前だろう。
「さてと、それじゃあ戦利品を持って帰ろうか。これでリンネも一気にシルバー級になるかもな」
「えへへ、シグルドさんのおかげですよ。実際、サポートを受けて分かりました。やっぱり勇者さんたちが戦いに勝てたのもシグルドさんの力のおかげなんです」
もし、リンネの言う通り勇者アークたちの勝利が俺のおかげだとしたら、大けがを負ったのも俺がいなかったせいとも言える。
今度会ったら何て言ってやろうか。
そんなことを考えていたらどこかから悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ!」
近くで女性が襲われているらしい。
そう理解した俺はリンネの手をとって声の方へと走り出した。
「俺は何もフラグを立てていないからな」
「分かってますよ! でも助けには行くんですね!」
「あぁ、普通そうするだろう?」
「やっぱりシグルドさんは私の憧れる英雄です!」