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旅立ち

 日が暮れるころ、俺の前には真っ赤な夕焼けに照らされる魔物の死体の山が築かれていた。


「さすがにこれだけ戦うと普通に疲れるな……」


 森にいる魔物を全種コンプリートする勢いで戦ってしまったのだ。

 レベル的にはかなりの強敵であるレッドオーガすら一撃で倒せてしまって、調子に乗って目に付く敵を狩り続けたらこうなった。


「お疲れ様ですシグルドさん。とんでもないことを普通にやりきっちゃいましたね。あのレッドオーガですら普通に倒せちゃいましたよ!」


 リンネは憧れのヒーローでも見つめるかのような眼差しで俺を見上げてくる。

 その視線がくすぐったくて俺は目を反らした。


「これぐらい普通普通、大したこと無いって」


 それにこんなに倒しても俺のレベル自体は全く変わっていないし、ステータスだって変化が全く無かった。

 ここも俺が普通だからと思って固定されているのか、そもそもギフトで固定されているのか分からないんだけどな。

 けれど、そんなものはもう関係無い。ステータスが普通でも、普通に倒せるとさえ思い込めば何とかなることが分かったんだ。

 これからはこんな風に魔物の群れを倒すことだって、俺の中では普通になる。


「なぁ、リンネ。急だけど明日くらいに次の街に行ってみようと思うんだけど」

「この辺の魔物もほとんど倒しちゃいましたし、次の街で腕試しですか?」

「え、あぁ、うん、そんなところかな?」


 ちょっとだけ嘘をついて、俺は目を反らした。

 いや、嘘ではないか。半分本当のことを言わなかっただけだ。

 リンネの言葉もあって先の街へと向かった勇者たちがどうなったか、ちょっと気になったんだ。

 勇者たちの活躍も本当は俺のギフトのおかげなんじゃないかって。

 その真相を確かめるたくて、先の街へと行こうと思ったんだ。

 会うことは無くても噂くらいは聞けるだろうから。


「リンネもついてくるか?」

「え? 普通についていくつもりでしたよ? パーティも組んじゃいましたし。あ、追放はしないでくださいよ?」

「あ、あぁ、そうだな。追放なんてしないから安心してくれ」


 何を当然のことを言っているのかと言わんばかりに、リンネが首を傾げた。

 そうか。そう言われてみれば、俺たちはちゃんとパーティを組んでいたな。

 一緒に動くのは当然だった。


「シグルドさんの行く所、魔王城であろうと、火の中、水の中、草の中であろうと、付いていきます!」


 何て頼もしい子なんだ。

 追放されてきてばっかの俺に付いてきてくれる人が出来るなんて思ってもみなかった。


「お昼の買い物にもついていきます! 夜出歩く時だってついていきます! トイレとお風呂も……そのえっと、恥ずかしいので入り口までついていきます! 脱いだ服とかこっそり拝借したりなんかしません!」


 あれ? 普通にストーカーでは? というか、何かあったら普通におかしいことを口走ってないか?


「さすがにトイレまでは止めてね? 後、脱いだ服も取らないでね?」

「あはは。冗談ですよ? ……ホントデスヨ」


 冗談にしては本気で恥ずかしがっていたような気もするけど、気のせいだったか。

 いやー、リンネは冗談が上手いんだな。


「それじゃあ、魔物から素材を引っぺがして帰るか」

「はい!」


 持ちきれないほどになった大量の素材を、近くにいた冒険者たちにも手伝ってもらってギルドへと持ち帰る。

 もちろん、みんな信じられないものを見る目で俺たちを見た。

 ギルドの受付も目を白黒させている。


「え? レッドオーガ? これシグルドさんが倒したんですか!?」

「ん、あぁ、首を切ったら普通に倒せたよ」

「えー……。そんな簡単に倒せる相手じゃないはずなんですが……」


 受付が何度も素材に鑑定をかけているが見える物はきっとレッドオーガの素材、討伐者はシグルドって表示されているはずだ。

 何度か繰り返したあげくようやく諦めてくれたのか、受付は観念したようにお金の入った袋を俺に手渡した。


「討伐報酬と素材の買い取り金です。状態がとても良かったのでボーナスつけてます」

「ありがとう。これで次の街に行く資金が出来たな」

「え? シグルドさんこの街を出て行くんですか?」

「ん、あぁ、そのつもりだよ」

「待って下さい! もうちょっと残っていきませんか!? シグルドさんがいてくれたおかげで冒険者のレベルも底上げされて、昨日と今日もすごい実績をあげてくれて、とても助かっていて」


 そんなことを言われても残る気は全然しなかった。

 あまりにも今更過ぎる。

 けど、その今更がこのギルドでは普通だったみたいで、周りの冒険者たちも途端に目の色を変えて俺の周りを囲んできた。


「シグルドさん僕たちとまたパーティを組んで下さい! あなたがいないと大変なことが多くて」

「シグルド、俺たちは君の力を見誤っていた。力になって欲しい」


 自分達が強くなったからいらないと俺を追放した奴らも、普通の能力しか持ってない俺はいらないといった奴らも掌を返したかのように頭を下げてくる。

 いらないと言ったり必要だと言ったり都合の良い連中だ。

 恨み節の一つ言ってやっても良いだろう。


「えっへん、シグルドさんは普通にすごい人なんですよ! 思い知りましたか!」

「いや、何でリンネが偉そうにしてるんだよ」

「えぇ!? ダメでした!?」

「いや、ダメじゃないんだけど」


 毒気を抜かれてしまったというか、言いたい文句を代わりに言ってくれて言うことがなくなったというか。

 まぁ、どちらにせよ俺の答えは変わらないんだけど。


「悪いが俺はこの街を出て行く。散々人を普通だからいらない扱いしてきた奴らとまた組むなんて、普通に嫌だからな」


 みんなの誘いを断ると、ギルド内の空気が一気に重たくなった。

 そうだ。そうやって惜しいことをしたって後悔した顔をずっとしてれば良い。

 それでお前らがいらない子扱いした俺の活躍を聞いて、悔しがれば良いんだ。


「行こうリンネ」

「はーい」


 こうして俺は一年間足踏みを続けていた街を離れ、魔王の領域へと自分の足で近づくことになった。

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