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シグルドのパーティ

 要塞内に戻った俺たちはギルドの出張部屋で今後のことを話し合うことになった。

 まずはアークがこの最前線の状況を話してくれることになっている。


「レッドオーガはヴァルグにもいたと思うけど、魔王のオーラなんて纏っていなかっただろう? 魔王のオーラは魔王城から距離をとればなくなるんだ」

「最前線とヴァルグの違い……。日の光で魔王のオーラは消えるとか?」

「その通りだよ。僕達はこの最前線にかかる厚い雲をどうにか晴らす方法をずっと探していたんだ」


 勇者たちがずっと足止めされていた理由は、この最前線から魔王城を覆う厚い雲によるものだった。

 どうやら奥へ行けば行くほど昼間なのに夜のように暗くなり、魔物の力が増していくらしい。


「この先はまさに闇の世界さ」

「んで、この空を晴らす方法は見つかったのか?」

「太陽の宝玉というアイテムを手に入れれば出来ることまで分かった。とはいえ、魔王軍が厳重に保管していて、手が出せないんだ」

「返り討ちにあったのはその時か」

「……その通りだ」


 アークは俺の指摘を渋々と認めた。

 さてと、となると太陽の宝玉とやらを手に入れに行かないといけない訳か。

 雑魚の魔物はギフトで普通の状態に戻せても、魔物たちを強化している魔王は恐らく普通の状態でその闇のオーラを纏っているかもしれない。

 その場合に備えて太陽の宝玉を手に入れておいた方が安全かな。

 んで、肝心の太陽の宝玉はいまや魔物の巣窟と化した街の大聖堂にあるらしい。


「シグルド、頼みがある。もう一度僕達のパーティに入って欲しい」

「なるほど。確かにアークたちは宝玉の場所を知っているし、パーティが5人になれば強い魔物が相手でも普通に勝てるだろうな」

「ありがとう。それじゃあ早速――」

「だが、断る」

「何故だ!?」

「能力が足りないって俺を外した癖に、気付かなかった能力があるって知った途端、手の平返したように一緒に戦ってくれと言われて良い気がする訳ないだろう?」


 俺の言葉にアークはたじろいだ。

 どうやら自分たちが何を言ったのかちゃんと忘れていなかったみたいだ。


「確かに冒険を始めた時は頼りになったけど、この先、魔王のオーラを纏う強い魔物を相手に戦うのは厳しいよな? 足手まといになるぞ? そうだろ? ククル」

「くっ……」


 ククルが言った言葉を真似て真面目な顔で尋ねてみたら、ククルは苦虫を噛みつぶしたような顔で俺を睨み付けてきた。


「シンシア、あんたの支援は確かにすごい。けど、あんたを守ることはできない。俺はリンネとオフェリアを守らないといけないからな?」

「あぁ……主よ……」


 今度はわざとらしく神に祈るような真似をして、シンシアの言ったことを真似てみた。

 そうしたら、シンシアは十字架を握りしめて俯いた。


「ここまであからさまに言えば、さすがに分かってくれるだろ? アーク」

「……すまなかった。僕たちにはシグルドの力が必要だ」


 アークが改めて頭を下げてくる。

 そんなアークに続いてククルとシンシアも頭を下げた。

 どうやら今度は本気で謝っているみたいだ。

 まぁ、これで見返すことは出来たし――。


「過去のことは水に流すよ」

「本当か!? ありがとう」

「だが、俺のパーティメンバーがそれを許すかな?」


 俺の因縁はこれで片付いた。

 けれど、俺には彼女たちを連れてきた責任がある。

 彼女たちの気持ちをないがしろには出来ないんだ。


「嫌です」

「嫌ね」


 リンネとオフェリアは同時にアークを拒否した。


「やっぱり僕たちがしたことを許せないってことかな?」

「いいえ。とってもむかつきますけど、シグルドさんが水に流したというのなら、私も水に流します」


 と言いつつも、リンネは少し不満そうだ。でも、それならどうしてアークたちと組みたくないのだろう?


「え? だったら、どうして!?」

「これ以上、シグルドさんの周りに女性が増えたらどうなるか分からないですから」

「あぁ、そういうことか。大丈夫、そこについては僕から良く言っておくから」


 アークがなるほどと言った顔で頷く。

 けど、そもそも俺とククルたちがそういう関係になること自体があり得ないだろう。

 全くリンネは心配性だな。ん? 何か寒気が?


「いいえ。私がどうなるか分からないです」

「うっ!?」


 アークはリンネの回答に何故か青ざめてたじろいでいる。

 リンネのやつ、一体どんな顔してるんだ?

 不思議に思ってのぞき込んでみたら普通に笑っていた。

 ちなみにオフェリアは苦笑いしている。

 時折、リンネとオフェリアの無言のやりとりについていけないことがあるな。


「えっと……そ、それじゃあオフェリアさんは何で? 君もリンネさんと同じ理由かい?」

「あの色ボケの性職者と一緒にしないでよ。私は筋が通ってないからよ。私、曲がったことってあんま好きじゃないのよね」

「筋……?」

「いや、普通逆でしょ? 何であんた達のパーティにシグルド様が入らないといけない訳? あんた達がシグルド様のパーティに入るのが筋ってものじゃないの?」

「でも、僕たちは魔王を倒すために特別な許可を貰っているパーティで――」

「私が言っているのは道理の話しよ? でもそうね。許可も大事なのは確かね。面倒なことに勇者のパーティってだけで許可が貰いやすくなるのは認めるわ」


 オフェリアはそういうと肩をすくめてため息をついた。

 まるで、そんなものに一切の価値など感じていないかのように。


「けれど、そんなもの私が領主代行として出せるからいらないわよ?」


 オフェリアがふぁさっと髪をかき上げて、ふんと鼻を鳴らした。

 そういえば、領主の娘なんだから、それぐらい出来て当然なのか。

 人騒がせなイメージが強すぎて、すっかり忘れていた。


「それにシグルド様の名前がパーティの代表として残された方が、将来いろいろ役に立ちそうだしね。貴族連中はそういう細かい所気にするから」


 貴族は色々あるみたいだ。

 そういう上流階級のルールは全然分からないけど、オフェリアの意見はハッキリしている。


「そういう訳で、アークこっから先は俺のパーティとあんたのパーティで競争だ」


 もちろん負けるつもりなんてない。

 俺を頼ってくれる二人のためにも必ず勝って、魔王まで討伐してみせる。

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